事件分析

2009年7月14日 (火)

法医学リーズン《84》

(4) 自他殺の判断
   墜落死体・転落死体に、ためらい創とか防禦創などのように自殺あるいは
  他殺を表す創傷とか、扼痕などが存在する場合は別として、墜落・転落時に
  負った創傷だけから、自他殺の判断を行うことは不可能です。
   したがって、墜落死及び転落死についての自他殺の判断は、死体所見以
  外のもの、例えば、落下場所の状況や自殺の原因・動機の有無などを総合
  的に検討して行う必要があります。ここでは、落下場所を観察する上での着
  眼点について説明します。
① 墜落場所の高低
 ○ 自 殺
  ・ 覚悟の自殺の場合には、即死できるような高い建物などから墜・転落して
   いることが多い。
 ● 他 殺
  ・ 即死するのは無理なような低い場所から墜・転落している場合は、他殺・
   事故死の疑いが強い。
② 墜・転落場所の鉄柵等の高低
 ○ 自 殺
  ・ 鉄柵や窓枠などが高い場合は、そこを乗越えて飛び降り自殺したことが考
   えられる。
 ● 他 殺
  ・ 突き落としたり、あるいは、投げ落としたりするためには、鉄柵、窓枠が低
   くなくては困難である。
③ 墜・転落場所の鉄柵等の付着物等の状況
 ○ 自 殺
  ・ 墜・転落場所の鉄柵・窓枠などに死者の指・掌紋が整然と付いている場合
   は、自殺と考えられる(死者の指・掌の付着物を必ず採取しておくことが大
   切である)。
  ・ 鉄柵などのほこりが取れている幅が狭いと、そこから飛び降りた疑いが強
   い。
 ● 他 殺
  ・ 墜・転落場所の鉄柵、窓枠などに死者の指・掌紋が付いていなかったり、
   逆に多くの指・掌紋が乱れて付いている場合は、他殺の疑いが強い。
  ・ 鉄柵などのほこりが幅広くとれていたり、着衣の繊維片が幅広く付着してい
   るときは、他人と争った疑いが強い。
④ 履物痕などの付着状況
 ○ 自 殺 
  ・ 墜・転落場所の最先端に履物痕が少数ある場合は、そこを踏み台にして
   飛び降り自殺している疑いが強い。
 ● 他 殺
  ・ 墜・転落場所に死者の履物痕がないとか、あるいは、離れている場所に
   ある場合は、他殺の疑いが強い。
⑤ 履物などの遺留状況等
 ○ 自 殺
  ・ 墜・転落場所に履物がそろえて置いてあったり、遺書がある場合は、自殺
   の疑いが強い(ただし、犯人が偽装していることもある)。
 ● 他 殺
  ・ 履物が不ぞろいで、しかも、離れていた場合は、他人と争った疑いが強い。
⑥ 落下地点
 ○ 自 殺
  ・ 墜・転落場所の直近に落下していることが多い。
 ● 他 殺
  ・ 墜・転落場所から著しく離れたところに落下している場合は、他殺の疑いが
   強い。 

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2009年7月11日 (土)

法医学リーズン《83》

(3) 墜落死・転落死と交通事故死との見分け方
   人体が動いて鈍体に衝突する(墜落死・転落死)のと、鈍体(自動車等)が
  動いて人体に衝突する(交通事故死)のとの違いはあっても、いずれも攻撃
  面の広い鈍器・鈍体による損傷ということで、墜落死・転落死と交通事故死
  の死体所見は著しく似ています。
   したがって、この両者を見分けるには、近くに飛び降りたり転落したりする
  高い場所がないかどうか、路上に自動車の塗料片やガラス片などが落ちて
  いないか、タイヤのスリップ痕がないか、死者の着衣等に塗料片等が付着し
  ていないかなどを十分に観察しなければなりませんが、一応、次のようなもの
  が両者を見分ける基準となります。
  ア 点状表皮剥脱・線状表皮剥脱
    墜落死の場合には、高所から落下し、人体が直角に落下面に打ち付けら
   れるのに対し、交通事故死の場合には、自動車等で跳ね飛ばされた後、落
   下面に一定の角度を持ち斜めに衝突します。つまり、墜落死の場合は、落
   下面にたたき付けられて止まるのに対し、交通事故死の場合には、落下し
   た後、人体が落下面から移動(ずれる)します。このため、落下面に存在す
   る砂利などによる表皮剥脱が、墜落死では点状になるのに対し、交通事故
   死では、線状の表皮剥脱ができやすいのです(写真参照)。

Dscn086351
※ 点状表皮剥脱

Dscn086452
※ 線状表皮剥脱

イ 轢圧創
  交通事故死の場合、自動車等に跳ね飛ばされて転倒した後、さらに自動車
 等に轢かれることがありますので、自動車等のタイヤの紋様を表す皮下出血
 ・表皮剥脱などの、いわゆる轢圧創が見受けられることがしばしばあります。
ウ デコルマン創
  皮下剥離創のこと。自動車事故を最も典型的に表す創傷のひとつで、自動
 車のタイヤが身体を轢過する際に皮膚のみを強く引っ張るために筋肉と皮膚
 が剥がれてしまい剥離創が出来ます。皮膚が断裂してその上さらに筋肉から
 剥がれているものや、単に裂創が伴わずに皮膚が筋肉から剥がれているだけ
 のものなどがあります。
エ 着衣の破損状況
  墜落死・転落死の場合と同様に、交通事故死の場合にも着衣が破損してい
 ることが多いのですが、表皮剥脱のところで説明したような理由から、交通事
 故死の場合は、落下面を移動した際のすり傷のような破損が見られるのが特
 徴です。

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2009年7月 5日 (日)

法医学リーズン《82》

エ 頭部損傷
  頭部損傷といっても、軟部蓋損傷(頭皮損傷・・・皮下出血・表皮剥脱・挫創・
 裂創・割創など)・頭蓋骨折(陥没・亀裂)・脳膜損傷(硬膜外血腫・硬膜下血
 腫・蜘蛛膜下出血)・脳損傷(脳震盪・脳圧迫・脳挫傷)と様々なものがあり、
 この中には、これといった所見を呈しないものがあります。
  そこで、ここでは、次のような所見があれば、一応、頭部に損傷を負っている
 可能性が大であるというものを挙げるだけに止めておきます。
 ○ 眼瞼部の皮膚変色・・・眼瞼部がくまどりされたように青藍色を呈している
  場合は、頭蓋骨折の疑いがある。
 ○ 耳・鼻からの出血・・・外耳道及び鼻腔部から出血している場合は、頭蓋骨
  折の疑いがある。
 ○ 瞳孔の差異・・・左右の瞳孔の大きさに差異が認められるときは、脳幹部
  に損傷(出血・挫傷)を負っている可能性が極めて強い。
 ○ 嘔吐・・・頭蓋内に損傷を負った場合には、吐き気を催し、嘔吐することが
  多い。
 ○ 高い体温・・・頭蓋内を損傷した場合には、脳幹部の温熱中枢の調節が侵
  されて体温が異常に上昇することがあり、そのような場合は、普通の死体に
  比較して体温が高くなっている。
オ 出血の状況
  超高層ビルのような非常に高い所から墜落した死体の場合には、大きな創
 傷が生じているのに出血量が予想外に少ないことがあります。
  しかし、解剖してみると、内部組織には相当量の内出血が認められます。
カ 滑液の洩出
  肘・膝間接部に当る部分の着衣に、車両の油と見誤るようなものが付着して
 いることがあります(写真参照)。
  これは、間接内の滑液が洩出して着衣に浸み込んだもので、墜落死特有の
 所見です。
キ 着衣の破損
  墜落死・転落死の場合には、衝突時の衝撃により、着衣が裂けたり、ほころ
 びていることが多く、時には、ズボンのベルトが切れていることがあります。

Dscn086250
      ※滑液の洩出(スカートに浸み込んだもの)


 
  

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2009年7月 1日 (水)

法医学リーズン《81》

(2)  墜落死・転落死の外部所見
  墜落死にしろ転落死にしろ、高所から落下して死亡した場合には、落下地点
 の物体と衝突する際に人体に相当な衝撃が加わっていますから、これらの死体
 の大部分は、頭蓋骨・脊椎・足根部などが骨折していたり、内臓が破裂するなど
 の大きな損傷を伴っています。
  なお、墜落死では、下肢の方から飛び降りることが多いため、損傷部位も四肢
 部が中心となっているのに対し、転落死の場合は、頭部に多くの損傷が認めら
 れます。
  墜落死・転落死の場合には、その損傷に特徴的なものがしばしば見受けられ
 ますので、簡単に説明します。
 ア 辺縁性出血
   墜落死体および転落死体の上肢や下肢には、その内部にある長骨の形状
  を形どる辺縁に、鉄パイプで殴られたような場合にできる二重条痕様の皮下
  出血(長骨の部分が白くなり、その辺縁に皮下出血が見られる)が認められる
  ことがあります。これを、一般に辺縁性皮下出血と呼んでいます。
   この辺縁性皮下出血は、高所から落下した場合に、上肢や下肢が路面など
  の落下面に平行にたたき付けられたときにできるもので、高所から落下した
  ことを如実に示す外部所見といえます。
   もっとも、これは、上肢及び下肢の長骨が落下面と平行して衝突しなければ
  できないものですから、辺縁性皮下出血がないからといって、高所から落下し
  たものではないということはできませんので、注意が必要です。
  イ 落下面に符合する創傷
   高所から落下した場合、その落下面に符合した創傷、例えば、マンホールの
  上に落下したのであれば、その蓋の模様の皮下出血が認められることがあり
  ます。なお、落下地点が路上の場合、路上面にある砂などの跡を現すような小
  さな点状の表皮剥脱や皮下出血が認められることがありますが、これも、やは
  り高所からの落下を物語る所見であり、交通事故死と区別するのに役立ちます。
 ウ 伸展創
   伸展創は、鉄棒や金槌などの鈍器で殴られたような場合、皮膚が伸び切るた
  めに、当該鈍器が作用した部分以外の皮膚が裂けてできるもので、皮膚の表
  層が浅く裂け、いわゆるちりめん状を呈しています。
   この伸展創は、交通事故による死体に多く見受けられますが、墜落死・転落死
  の死体でも、時々見られることがあります。


  

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2009年6月29日 (月)

法医学リーズン《80》

~墜落死・転落死~

1 概 説
  最近、高層ビルなどからの飛び降り自殺が話題となっています。
  このほかにも、工事現場の足場から作業員が足を滑らせて墜落死するという
 ようなことがよくあります。これらのように、高所からの落下が原因で死亡したも
 のの大部分は、自殺又は過失による事故死です。
  しかし、時には、崖やビルなどの高所から人を突き落として殺害するとか、階
 段の上でけんかをした挙げ句、階段から突き落として死亡させるなどの事件が
 発生することがあります。
  ところで、これらは、高所から落下した際の衝突に伴う損傷が原因で死亡する
 ものがほとんどですから、死因別に見れば、先に説明した損傷死に当たります。
  しかし、凶器を用いた損傷死とは若干趣が異なりますので、ここでは、あえて
 損傷死とは区別して説明することにします。
 (1)   墜落死・転落死の定義
    高所から落下して死亡した場合、その落下の態様を基準として、通常、
   墜落死と転落死の二通りに区別されています。すなわち、ビルの屋上や工事
   現場の足場などから、飛び降りたり、又は、滑り落ちたような場合、その地点
   から落下地点までの間に他の箇所に衝突することなく一直線に落下して死亡
   したものを墜落死といいます。
    しかし、このように定義付けて見ても、現実に高所から転落した場合に、こ
   の両者を明確に区別することは困難な場合が多く、また、区別する実益も
   それほどありませんから、両者をあわせて説明します。

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2009年6月28日 (日)

法医学リーズン《79》

(6) 焼死体自他殺の判断基準
  焼死体についての自他殺の一般的な判断基準を示すと、次のようなものが
 挙げられます。

 ① 生体か死体か
  ○ 自殺(事故死を含む)
   ・ 生体で焼かれた場合には、一応、自殺又は事故死と考えられる。
     生体であったことを示すものとして、
    ※ 死体に生活反応が見られる。
    ※ 出火点と逆の方向に向かって倒れているとか、床面にうずくまってい
     るなど出火時に行動した跡が見受けられる。
    ※ 死体の下に焼燬物がある。
     などがある。
  ● 他 殺
   ・ 死体で焼かれた場合には、他の方法により殺害された後、焼かれたこと
     が考えられる死体であったことを示すものとして、
    ※ 生活反応が見られない
    ※ 床面と密着した部分が焼けていない。
    ※ 焼燬物が死体の下にない。
     などがある。

 ② 生前の創傷の有無
  ○ 自殺(事故死を含む)
   ・ 焼死体に切創・刺創等の創傷が認められないのが通常である。
     (ただし、落下物による損傷が考えられるので注意が必要)
  ● 他 殺
   ・ 焼死体に切創・刺創・割創などが認められるときは、他殺の可能性が強い。

 ③ 頭部・顔面・頸部の損傷の有無
  ○ 自殺(事故死を含む)
   ・ 頭部・顔面・頸部に損傷が認められないのが通常である。
     (ただし、落下物による損傷があることがある)
  ● 他 殺
   ・ 頭部・顔面に生前の損傷がある場合は、他殺の疑いが強い。
   ・ 頸部に絞痕などがある場合は、他殺の疑いが極めて強い。
     (扼痕がある場合は他殺と考えてよい)

 ④ 戸締りの状況
  ○ 自殺(事故死を含む)
   ・ 戸締りが完全に行われているときは、事故死の疑いが強い。
  ● 他 殺
   ・ 戸締りが完全でなく開放箇所がある場合は、他殺の疑いがある。

 ⑤ 現場の状況
  ○ 自殺(事故死を含む)
   ・ 物色その他現場の乱れがないのが通常である。
  ● 他 殺
   ・ 物色等現場の乱れがある場合は、窃盗後の放火等が考えられる。

 ⑥ 出火点の検討
  ○ 自殺(事故死を含む)
   ・ 被害者及びその家族が通常火気を使用している場所から出火してい
    る場合は、事故死と考えられる。
  ● 他 殺
   ・ 被害者及びその家族が通常火気を使用していない場所から出火して
    いる場合は、放火殺人の疑いが極めて強い。

 ⑦ 点火物及び燃料容器の有無
  ○ 自殺(事故死を含む)
   ・ 焼身自殺の場合には、点火に用いた容器及びガソリンなどの燃料容器
    が死体の近くに存在する。
  ● 他 殺
   ・ 残存衣類及び現場に油類が付着しているような場合で、点火物及び燃
    料容器が死体の近くに存在しない場合は、焼殺の疑いが強い。

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2009年6月23日 (火)

法医学リーズン《78》

(5) 自他殺の判断
   焼死体についての自他殺判断の第一歩は、それが生体であったときに
  焼かれたものであるか、それとも既に死体となっていたときに焼かれたも
  のであるかを見分けることにあるといわれています。つまり、生体で焼かれ
  たのであれば、逃げ遅れなどによる事故死又は自殺の可能性が強くなりま
  すし、死体が焼けたのであれば、何らかの方法によって殺害した後、その
  犯行を隠滅するなどの理由により焼死を装ったことが考えられるからです。
   しかし、これはあくまで可能性の問題であり、生体で焼かれた所見、すな
  わち、生活反応が見られたからといって、殺人事件でないとは言い切れま
  せん。
   なぜなら、
  ○ 被害者が就寝中を見計らい、あるいは、睡眠薬などを飲ませて眠らせ
   た後、家屋に火をつける。
  ○ 腹部や頭部を殴打するなどして失神させた上、家屋に放火する。
  というような方法で焼殺した場合にも、生活反応が見られるからです。
   このように、焼死体それ自体の所見だけで自他殺を判断することは極め
  て難しくなります。したがって、焼死体の所見のほかに出火原因、出火点と
  死体の位置関係、残存する衣類などの油類の付着状況、現場の乱れなど
  の現場の状況と、自殺の動機及び原因、怨恨の有無などの焼死者に関す
  る事項などを検討した上で、総合的に判断する必要があります。

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法医学リーズン《77》

(4)   焼死体の死体所見
   焼死体の死体所見には、生体・死体にかかわらず人体が焼けることによ
  って生ずるものと、生体が焼けることによってのみ生ずる所見とがあります。
  ア 生体・死体にかかわらず生ずる死体所見
   (ア)  ボクサー型姿勢
      焼死体の多くは、腕を上げて肘間接を曲げ、さらには膝を曲げて、
     あたかもボクサーが試合をしているような格好をしています。
      これは、熱作用により、筋肉内の蛋白質が凝固して筋肉が収縮し、
     しかも、四肢の筋肉(拮抗筋)は、伸筋よりも屈筋の方が強いために
     起こる現象ですから、生体・死体の両者に現われます。
      もっとも、火災現場等で床面にうずくまるような姿勢で焼け死んでい
     ることがありますが、それは、逃げ遅れた場合の姿勢であり、生体が
     焼けたことを示すものですから、見誤りのないようにしなければなりま
     せん。
   (イ)  皮膚等の断裂
      火熱が作用すると皮膚及び皮下組織が収縮するために、皮膚に断裂
     が生じていることが多く見られます。火熱による断裂は、皮膚の割線の
     方向に破裂状に大きく哆開し、創縁は収縮したような型になっています
     から、生前の裂創・切創との見分けは比較的容易です。
   (ウ) 骨 折
      焼死体は、時として四肢が骨折していたり、あるいは、不用意に死体
     を動かすと骨が折れてしまうことがありますが、これは、火熱により骨が
     もろくなっているためで、生体・死体にかかわらず見られる現象です。
  イ 生体が焼けたときに見られる死体所見
   (ア) 外部所見
     a  紅斑、水疱形成の存在
       前述しましたように、火傷の症状としての紅斑(第1度)、水疱形成(第
      2度)は、いわゆる生活反応ですから、それがある場合には、生体が
      焼かれたと見てほぼ間違いありませんが、紅斑は死斑と類似しており、
      また例外的に死体を焼いた場合にも発疱ができることがありますので
      この点を注意しなければなりません。
       この場合の見分け方で最も正確なものは、生体であった場合にはそ
      の周囲に発赤腫脹が見られるのに対し、死体であった場合にはそれが
      見られない、ということを挙げることができます。
     b   鮮紅(赤)色の死斑
       火災現場等には、多量の一酸化炭素が発生し、大部分の焼死体は、
      この一酸化炭素中毒が原因で死亡しています。そして、先に説明して
      いるように、一酸化炭素中毒死の場合は、死斑が鮮紅(赤)色を呈して
      いますから火災現場等から発見された焼死体の死斑が鮮紅(赤)色を呈
      している場合には、一応、生体が焼かれたものであるということができ
      ます。
     c  眼の状況
       生体であったことを示す外部所見として、眼裂内に煤片又は炭塵が入
      っていることが挙げられます。火災等の際に生きていた場合には、その
      苦しさなどから、眼を硬く閉じるために、このような現象が生じるのです。
       したがって、眼裂内に煤が入っていた場合、それは、生体であったとい
      えます。
   (イ) 内部所見
       焼死体の内部には次のような所見が見られますので、死体を解剖す
      ることによって、生体であったか否かを知ることができます。
      ○ 心臓など深部の血液内にも、一酸化炭素ヘモグロビンが認められ
       る。
      ○ 鼻腔深部、気管及び気管支内に煤、炭末などが吸い込まれており、
       それらの内部粘膜の表面が黒くなっている。
      ○ 胃・十二指腸などにも煤を飲下していることがある。
      ○ 熱い空気を吸入するために、上気道の内部に火傷・粘膜剥離・腫
       脹が見られることがある。
      ○ 嘔吐物を吸引していることがある。
      ○ 第3度の火傷(焼痂性火傷)部を切開すると、血管内に熱凝固した血
       液が認められる。

※哆開=しかい=創傷の創口がパックリ開いている状態。 
             

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2009年6月 9日 (火)

法医学リーズン《76》

(3) 焼死体の死因
   焼死という言葉からは、火傷によって身体の細胞が損壊され、身体に障害
  を起こして死亡することを連想しがちですが、実際には、焼死体の場合は、
  一酸化炭素中毒により死亡した後に焼かれたというように、他の原因により
  死亡していることが多いのです。
   焼死体の中で最も多い死因は、一酸化炭素中毒死です。一般に火災現場
  の一酸化炭素の濃度は非常に高く、数回の呼吸で死亡してしまうといわれて
  います。また、例え死亡しないまでも、一酸化炭素中毒が原因で嘔吐し、その
  嘔吐物を吸引して窒息死することもありますし、そのほかには、合成繊維や
  新建材が燃焼する過程において発生する塩素・ホスゲン・青酸などを吸って
  中毒死するものや、多量のススを吸い込んで窒息死するもの、さらには、火
  熱による神経性ショックや酸素欠乏によって死亡するものなどがあります。

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法医学リーズン《75》

(2) 火傷の分類
   火熱が作用した部分の身体の変化(火傷)の程度は、通常、第1度から
  第4度までに分類されています。
  ア 第 1度(紅斑性火傷)
    火傷の最も早い時期に起こってくる変化を第1度の火傷といいますが、
   これは、熱の作用により、表在性毛細血管が拡張して充血を起こしてく
   るために、当該部分の皮膚が発赤し軽度の腫脹を来たすもので、紅斑
   性火傷とも呼んでいます。
    紅斑は、生体が熱を受けた場合にだけ生じる症状、すなわち、生活反
   応ですから、火災現場等から発見された焼死体にこの紅斑が存在した
   場合には、火災時には生存していた、ということができます。しかし、紅斑
   は死斑に似ていますので、死斑が発生しない部分、例えば身体(体位)
   の上部などに紅斑があるかどうかをよく調べて、死斑と区別する必要が
   あります。ところが、現実には、そのような部分は強い火力を受けてひど
   く焼けてしまい紅斑が残らないことが多いので、出火後早期に発見された
   焼死体以外は、その発見が難しくなります。
    イ 第2度(水疱性火傷)
      第1度の火傷にさらに火熱が加わると、水疱(水ぶくれ)ができますが、
   これを第2度の火傷と呼んでいます。この水疱は、生体が焼けたときにで
   きる生活反応の一種です。しかし、極めて例外的に、死後間もない死体を
   焼いた場合にも発疱ができることがあるといわれています。
    この場合は、発疱の中は空虚であってガスのみのことが多く、また、発疱
   の底面に発赤は見られません。
    水疱は、火熱を受けた部分が炎症を起こし、漿水が集まって生ずるとい
   われています。そして、水疱の中には、透明黄色の漿液が入っていますが、
   時には、混濁した黄色の液であったり、あるいは、膠のようなものが入って
   いることもあります。
    火傷として生体にできた水疱は、時間の経過とともに内容物が吸収され、
   薄い痂皮になった後1週間ぐらいで脱落してしまいます。                            
    ところで、死体が腐敗をはじめますと、いわゆる腐敗気疱が生じますの
   で、死体観察に当たっては、水疱と腐敗気疱を見分けることが大切になり
   ます。両者の違いは、火傷による水疱には、その周囲に発赤腫脹が見られ
   るのに対し、腐敗気疱ではそれが見られない、という点にあります。
    ウ 第3度(焼痂性火傷)
    第3度(焼痂性火傷)とは、高熱の作用により、当該部分の皮膚組織内の
   蛋白質が変性し、そのために皮膚がみずみずしさを失って黄褐色又は茶
   褐色になった状態をいい、皮膚が壊死状になることから、壊死性火傷とも
   いわれています。
    第3度の火傷は、生体・死体にかかわらず生ずるといわれていますが、
   生体が焼けて生じた場合は、その下部の毛細血管の拡張が見られるのに
   対して、死体が焼けて生じた場合には、このような変化は見られません。
  エ 第4度(炭化性火傷)
    強い火熱によって身体の組織が燃焼し、炭化したものを、第4度の火傷
   (炭化性火傷)といいます。火災現場から発見された焼死体の多くは、皮膚
   及び皮下組織が炭化している程度ですが、時には、筋肉組織の深部まで
   炭化していることもあり、特に強い火熱が作用した部分は、骨までも炭化し
   てしまっていることがあります。
    なお、炭化は、生体・死体にかかわらず生じます。

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2009年5月16日 (土)

法医学リーズン《74》

~焼死~

1 概 説
  酒に酔って寝タバコをし、そのタバコの不始末から火災となって焼け死んだ
 とか、失火に気付いたが逃げ遅れて焼死したと言うように、焼死の大部分は
 事故又は過失によるものです。しかし、時には、絞頸・扼頸などにより人を殺
 害した後、その犯行を隠ぺいするために家屋に放火して家屋とともに死体を
 焼いたり、あるいは、窃盗犯人が指紋・足跡などの証拠を隠滅するために家
 屋に放火し、就寝中の家人を焼き殺してしまうなどという焼殺事件が発生して
 います。
  このように、焼死体には、単に事故又は過失によるもののほか、殺人の隠
 ぺい工作によるものなどがあるなど、その原因もいろいろです。
  その上、火熱によって死体が著しく損壊されているために、それが生体で焼
 かれたものか、あるいは、死体が焼かれたものであるかを見分することも難し
 いことから、焼死体について自他殺の判断をすることは、極めて困難といえま
 す。
 (1) 焼死の定義
    たき火の炎や熱湯をかぶったような場合に、その身体の部分に変化が
   生じますが、この変化の状態を、一般的には「やけど」と呼んでいます。
    しかし、法医学上では、その作用物の違いから火傷と熱傷(湯傷)に区
   別されます。すなわち、火焔の直接的な作用、高熱の物体との接触、放射
   線の被曝などによって引き起こされたものを火傷といい、煮えたぎった油
   や熱湯などの液体及び高温の蒸気などが身体に触れることによって生ず
   る変化を熱傷(湯傷)と呼んでいます。
    さらに、火傷が原因で死亡した場合には、火傷死と焼死に分けられてい
   ます。つまり、火災や工場災害などにより、いわゆる大やけどを負って病
   院等へ収容された後に死亡した場合、すなわち、火傷を負った後、時間が
   経過してから死亡したものを火傷死といい、これに対して、火災などの火
   が原因となって死亡し、火災現場等から死体となって発見されたもの及び
   火災現場等から病院へ収容されたが短時間で死亡したようなものを焼死
   と呼んでいます。
    このようなことから、絞殺などの方法により人を殺害した後に放火したよ
   うな場合は、死体が焼かれることになりますから、たとえ火災現場等から
   発見された死体でも、厳密な意味では焼死体には当たりません。
    しかし、火災現場等から発見された死体については、それが生体で焼か
   れたものか、それとも死体で焼かれたものであるかは、検視または解剖を
   行った後でなければ分かりませんし、また、生体で焼かれたか、死体で焼
   かれたかを見分けること自体が、その死体を観察する上での重要なポイン
   トとなりますから、ここでは、両者を区別することなく、火災現場等から発見
   された死体のすべてを焼死体として説明します。

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2009年5月 5日 (火)

法医学リーズン《73》

イ 自他殺の判断
  薬物中毒死体の自他殺を判断するための一般的着眼点と一応の判断基準
 を示しておきます。

① 毒物の種類
 ○ 自 殺
  ・ 自殺の場合は、遅効性のもの、特に睡眠剤を服用することが多い。
 ● 他 殺
  ・ 他殺の場合は、即効性の毒物が使用されることが考えられる。

② 毒物の性状
 ○ 自 殺
  ・ 臭気が強い、刺激の強い味がする、などの毒物を使用している場合は、
   自殺と考えられる。
 ● 他 殺
  ・ 毒物が混入されていることを察知されないようにするため、無味・無臭
   のものが使用されることが考えられる。

③ 服用量
 ○ 自 殺
  ・ 毒物を多量に服用している場合は、自殺と考えられる。したがって、
   飲み残しが少ない。
 ● 他 殺
  ・ 毒物の服用量が少ないときは、他殺の疑いが強い。したがって、
   毒物の残存量が多い。

④ 服用時の状況
 ○ 自 殺
  ・ 自殺の場合には、毒物を吐き出していることは少ない。
 ● 他 殺
  ・ 毒物を吐き出しているときには、他殺の疑いが強い。

⑤ 毒物容器の有無
 ○ 自 殺
  ・ 毒物の入っていた空瓶・空箱などが死体の近くになければならない。
 ● 他 殺
  ・ 毒物の入っていた空瓶・空箱が現場にないときは、他殺の疑いが強い。

⑥ 毒物容器の指紋の状況
 ○ 自 殺
  ・ 毒物の入っていた空瓶・空箱などに死者の指紋が付着している(ただし、
   自分で飲んだからといって自殺とはいえないので、指紋の有無だけで自他
   殺の判断はできない)。
 ● 他 殺
  ・ 毒物が入っていた空瓶・空箱などに死者以外の者の指紋が付着している
   ときは、他殺の疑いが強い。

⑦ 助けを求めた状況の有無
 ○ 自 殺
  ・ 自殺では、助けを求めたり、医師の往診を求めていることはない。
 ● 他 殺
  ・ 服用後、助けを求めたり、医師の往診を求めているときは、他殺の疑い
   が強い。

⑧ 指先の毒物の付着
 ○ 自 殺
  ・ 使者の指先に服用した毒物反応があるときは、自殺の疑いがある。
 ● 他 殺
  ・ 指先に毒物反応がないときは、他殺の疑いが強い。

⑨ 着衣及び現場の乱れの有無
 ○ 自 殺
  ・ 自殺の場合には、着衣を着替えた上、現場を整頓している。
 ● 他 殺
  ・ 着衣及び現場が乱れているときは、他殺の疑いが強い。

⑩ 毒物の入手状況
 ○ 自 殺
  ・ 死者が入手できる毒物を使用していなければならない。
 ● 他 殺
  ・ 死者が入手できない毒物を使用しているときは、他殺の疑いが強い。

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2009年4月18日 (土)

法医学リーズン《72》

(2) 薬物中毒死
   薬物中毒死の疑いがある変死体を検視する場合には、次のような点に留
  意し、証拠物等の確保に当たらなければなりません。
  (ア) 現場の観察
     すべての変死体の検視に当たって、現場観察を徹底して行うことは大
    変に重要なことですが、取り分け、薬物中毒死の場合には、死体の外部
    所見からだけでは自他殺の判断ができないことが多いことから、現場観
    察の重要性が一層強くなります。
     なお、現場は、犯人や家族などによって変更されることがありますので、
    観察に当たっては、その矛盾等を十分に検討しなければなりません。
  (イ) 死体の服装・位置・姿勢等
     通常、自殺の場合には、汚れた衣服を新しい着衣と取り替えた上、布団
    の中で整然と死亡していることが多いものです。ところが、他殺や事故死
    の場合には、着衣が汚れたままであるとか、あるいは、助けを求めて、出
    口の方向へ飛び出そうとした姿勢等を示していますから、死体の服装・位
    置・姿勢等を十分に観察する必要があります。
  (ウ) 薬物容器等の発見と指紋検出
     自殺の場合には、死体の周辺に、薬物が入っていた空きびんや空箱が
    なければなりません。ただ、死者の家族等が片付けてしまっていることが
    ありますし、逆に、犯人が空きびんや空箱を故意において自殺のように
    偽装することもありますから薬物容器が死体の周辺にあるかどうかという
    ことだけで自他殺の判断をすることは危険です。
     なお、薬物の容器を発見した場合には、必ず指紋の検出を行い、その
    容器に印象されている指紋が誰のものかを特定するようにしなければな
    りません。
  (エ) 残存薬物及び吐しゃ物等の採取
     薬物中毒死の場合、その薬物が何であるかを知ることは大切なことで
    す。そこで、鑑定を行うための材料として、残存の薬物及び吐しゃ物、さ
    らには、失禁尿・脱糞などを必ず採取しておく必要があります。
  (オ) 症状の聴取
     死亡前の症状は、その死因が薬物中毒死であるか、あるいは、薬物の
    種類は何であるかを判断する上において貴重な資料となりますから、嘔
    吐・下痢・腹痛・痙攣・昏睡などの症状が死亡前にあったかどうか、あった
    とすればその状況はどうであったか等を、詳細に聴取しておかなければ
    なりません。

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2009年3月26日 (木)

法医学リーズン《71》

イ 自他殺の判断
  一酸化炭素中毒死の自他殺を判断するための一般的着眼点と一応の基準
 を示しておきます。

① 施錠の状況
 ○ 自 殺
  ・ 部屋の内部から完全に施錠されているときには、自殺と考えられる。
    ただし、プッシュ式の錠や自動車のドアは、外からも施錠できるので十分
   注意しなければならない。
 ● 他 殺
  ・ 施錠されていない場合、特に逃走口と思われる出口がある場合は、他殺
   の疑いが強い。

② 外傷の有無
 ○ 自 殺
  ・ ガス自殺の場合には、外傷は見られない。
 ● 他 殺
  ・ 扼痕や絞痕などの外傷がある場合は、他殺である。

③ 現場や着衣の状況
 ○ 自 殺
  ・ 現場が整頓され、着衣に乱れがない。
 ● 他 殺
  ・ 現場が乱れ、かつ着衣等が乱れているときは、他殺の疑いが強い。

④ ガス栓やゴムホース等の状況
 ○ 自 殺
  ・ 自殺の場合、その目的を遂げるためにゴムホースなどを口にくわえたり、
   あるいは、鼻、口の近くまで引いていることが多い。
 ● 他 殺
  ・ ガス栓が閉められているときには、他殺の疑いがある。
    ただし、ガス漏れに気付き、ガス栓を閉めた後に、死亡することがあるの
   で、この点に注意する必要がある。

⑤ 指紋の状況
 ○ 自 殺
  ・ ガス栓に死者の指紋が付いているときは、自殺の疑いが強い。
 ● 他 殺
  ・ ガス栓に死者以外の指紋が残っているときは、他殺の疑いが強い。

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法医学リーズン《70》

(イ) 自動車の排気ガスの場合
   自動車の排気管にゴムホースを接続して車内に引き込み、そこから出る
  排気ガスを利用して自殺する事案が多く発生していますが、これは、自動車
  の排気ガスに含まれている一酸化炭素による中毒死なのです。
   また、車内に練炭コンロを持ち込んで練炭をおこして死亡したり、車庫内な
  どで自動車のエンジンを掛けっ放しにして仮眠していて死亡することもありま
  が、これらもやはり一酸化炭素中毒死です。
  a 場所の選定
    自殺の場合には、なるべく他人に発見されないようにするため、人目に付
   かない場所(例えば、人通りの少ない山道・川岸、シャッター付き車庫の中
   など)を選んでいます。
  b 密閉保持工作
    自殺の場合、車庫や自動車のドアなどのすきまに新聞紙を挟んだり、ある
   いは、ガムテープなどをはっていることが多いようです。自殺の目的を遂げ
   るために、排気ガスがなるべく外部に逃げないようにするという意図からこの
   ようなことが行われますので、その点の観察を十分に行う必要があります。
  c 死者の着衣に破損や乱れがなく、しかも、運転席等にきちんと腰を掛けた
   状態、あるいはシートを倒して寝た状態のまま、自然な形で死亡している場
   合には、自殺と考えられます。これに対し、他殺の場合は、よほど事後の偽
   装工作を行わない限り、そのような形に整えることは不可能ですから、死者
   の着衣及び姿勢などから自他殺のある程度の判断が出来ます。
  d 手指掌の付着物
    排気ガスを利用して自殺する目的で、自動車の排気管にゴム管をつない
   で自動車内に引き込んだ場合には、死者の手指掌に排気管の煤煙などが
   付着していることが考えられますから、手指掌から付着物を採取することを
   わすれてはなりません。

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2009年3月11日 (水)

法医学リーズン《69》

b 燃焼器具等の点検
  家庭用ガス(都市ガス・プロパンガス等)や石油を燃料として燃焼器具を用
 いる場合、その燃焼器具の機能が不良のために不完全燃焼を起こし、一酸
 化炭素が発生していることがあります。したがって、ガスコンロ・石油ストーブ
 などの機能が正常に働いているか否かを調べる必要があります。
  なお、燃焼器具が不良である場合には、たとえ火が燃えていても一酸化炭
 素が発生していますから、器具の点検に当っては、専門家に依頼して検査し
 てもらう配意が必要です。
c 部屋の密閉状況
  最近ではあまり使用されなくなりましたが、木炭・練炭・豆炭などは、完全に
 燃焼しているように見えても、実は多量の一酸化炭素を発生させています。
  したがって、締め切った室内で木炭などを長時間使用すれば、その部屋に
 いる者は一酸化炭素中毒に陥ります。また、密閉された部屋で長時間の燃焼
 を続ければ、通常、次第に酸素が不足していきますから、燃焼器具の良否に
 かかわらず、また、燃焼物の種類のいかんを問わず、その燃焼はやがて不完
 全燃焼となり、一酸化炭素が発生します。
  このように、一酸化炭素中毒は部屋の密閉状況と大いに関連しますので、
 検視に当っては、その状況を綿密に観察することが大切です。

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法医学リーズン《68》

(1) 一酸化炭素中毒死
  ア 一酸化炭素中毒死体検視上の留意点
    一酸化炭素を含有するガスは製造ガス(6B)に限られており、ブタンガス
   や天然ガスは一酸化炭素を含んでいません。したがって、これらのガスが
   部屋に充満して死亡した場合は、その死因は酸素の欠乏であり一酸化炭
   素中毒ではありません。もっとも、ガス自体には一酸化炭素が含まれてい
   なくても、それが不完全燃焼を起こした場合には一酸化炭素が発生します
   から、それが原因で一酸化炭素中毒に陥ることはあります。なお、これは、
   プロパンガスについても同じことがいえます。
    また、自動車の排気ガスにも多量の一酸化炭素が含まれており、最近で
   は、自動車の排気ガスによる一酸化炭素中毒死の事例がかなり多く見られ
   ます。
    そこで、ここでは、いわゆる家庭燃料(都市ガスを含む)による一酸化炭
   素中毒死と自動車の排気ガスによる一酸化炭素中毒死に分けて、検視上
   の留意点を述べることにします。
   (ア) 家庭燃料(都市ガスを含む)の場合
     a  ガス栓等の状況
        最近の都市ガスは、製造ガスから天然ガス(13A)に切り替えられ
       いますが、未だに製造ガスが配給されている地域もあります。
        ところで、製造ガスによる一酸化炭素中毒死体を検視する場合に
      は、ガス栓が閉まっているかどうか、ガス管が破損しているかどうかな
      どを観察しなければなりません。ガス栓が開き放しになっていたり、ゴ
      ムホースなどが死体の近くまで引かれていたり、あるいは、口にくわえ
      られていたような場合には、一応、自殺と考えられますし、ガス管に自
      然な破損があった場合には、事故死と考えられます。
       ただ、ゴムホースが死体の近くにある場合でも、犯人が、ガス自殺の
      ように偽装していることがありますので、死体現象や現場の状況と矛盾
      がないかどうかを検討しなければなりません。
       これに対して、ガス栓が閉まっている上、ガス管にも異常がない場合
      は、他殺の疑いが強くなります。しかし、それでも、直ちに他殺と断定す
      ることは出来ません。なぜなら、先に説明したように、一酸化炭素含有
      量が少ない空気でも、それを吸い続けると中毒に陥っていきますから、
      ガス漏れに気付いてガス栓を閉めたとしても、部屋の空気を入れ替え
      ずにいれば、そのうちに中毒死に陥ることが考えられるからです。

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2009年2月20日 (金)

法医学リーズン《67》

3 中毒死体検視上の留意点および自他殺の判断
  既に説明したように、中毒死には、自殺・事故死、そして、時には他殺がある
 わけですが、それが自殺か他殺か、あるいは事故死かを判断することは極め
 て困難です。
  その理由の一つとしては、例えば、一酸化炭素を吸わせて他人を殺害する場
 合にしろ、毒物を飲ませて殺害する場合にしろ、被害者に対して直接的に有形
 力を使うことは必要ではありませんから、被害者の身体には、殺人を推察させ
 る痕跡が何も残らないということが挙げられます。
  また、毒物を服用して中毒死したことは分かったとしても、その中毒症状自体
 からは、自分で服用したものか、他人に飲まされたものであるかは分かりませ
 んし、仮に自分で飲んだとしても、自殺の意図で飲んだのか(自殺)、毒物と知
 らずに飲んだのか(事故死)、あるいは、他人に毒物を入れられていることを知
 らずに飲んだのか(他殺)の判断はできないということも、その理由となるでしょ
 う。
  このようなことから、結局、中毒死体の自他殺の判断に当っては、死者に自殺
 の原因・動機があったか、あるいは、死体の位置・姿勢に不自然な点はないか、
 毒物が入っていた容器が現場に存在するか、現場の乱れはないかなどの点を
 検討した上で、総合的に判断するほかはありません。
  次回からは、一酸化炭素による中毒死体と青酸化合物・睡眠剤などによるい
 わゆる薬物中毒死体などについて、死体観察上の留意点と自他殺の判断につ
 いて説明します。

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2009年2月 7日 (土)

法医学リーズン《66》

(5) 睡眠剤中毒死
   市中には、数多くの睡眠剤が出回っていますが、これらの睡眠剤には、
  バルビツール酸系統のもの(ヴェロナール・ルミナール・アドルム・ジアール
  など)、非バルビツール酸系統のもの(ドリデン・バラミン・バラミネットなど)、
  さらには、ブロム含有尿素系統のもの(ブロバリン・カルチモ・スイミナール
  など)があります。
   ところで、睡眠剤中毒には、一度に多量の睡眠剤を服用したために陥る
  急性中毒と、睡眠剤を習慣的に常用することにより起こる慢性中毒とがあ
  ります。
   ただ、睡眠剤により中毒死するには、多量の睡眠剤を服用しなければな
  らない上、死亡するまでには長時間を必要としますので、睡眠剤を用いて
  他人を殺害することは非常に困難です。したがって、睡眠剤中毒死の大部
  分は、自殺または事故死(過量の服用)ということになります。
   しかし、時には、心中すると見せかけて、睡眠剤を多量に飲ませて殺害す
  る事件がないわけではありません。
  ア 睡眠剤の作用
    睡眠剤には、脳幹部に作用するもの(バルビツール系)と、大脳皮質に
   作用するもの(ブロウムワレリル尿素系)とがあり、その作用の様相から、
   次のように分けることができます。
   ○ 就眠薬・・・催眠効果が早く起こって、短時間に消えるもの(ブロウムワ
            レリル尿素系)
   ○ 持続性催眠薬・・・催眠作用が遅く起こって、長く続くもの(バルビツー
            ル系)
   ○ 熟眠薬・・・両者の中間のもの(アドルムなど)
  イ 中毒症状
    睡眠剤を多量に服用し急性中毒に陥ると、数分ないし数十分で深い持続
   的睡眠状態に入り、体温が上昇して顔面は充血し、呼吸はゆるくなりいび
   きをかき、脈拍は頻数・微弱となり、血圧は次第に降下していきます。そし
   て、意識の消失度はますます強くなって昏睡状態に陥り、瞳孔反射などの
   身体の諸反応は消失し、さらに、瞳孔散大・顔面チアノーゼ・全身けいれん
   などを呈し、ついには死亡します。
    なお、慢性中毒の場合には、言語障害・運動失調・多発性神経炎などの
   神経症状と、幻覚・幻視などの精神症状を呈します。
  ウ 死体所見
    睡眠剤中毒死の場合の外部所見としては、次のようなものが挙げられま
   す。
   (ア) 死斑は暗赤褐色で濃く、死斑の中に皮膚溢血点が見られる事がある。
   (イ) まぶたに目ヤ二が付着している。
   (ウ) 眼球結膜が浮腫状になっている。
   (エ) 口唇と指の爪床にチアノーゼが見られる。
   (オ) 胸腹部や四肢などにしばしば水泡形成が見られる。
   (カ) 汗くさい体臭がする。
   (キ) 尿失禁や脱糞が見られることがある。

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法医学リーズン《65》

(4)  有機燐剤中毒死
   有機燐剤は、毒性が強いために、主として殺虫用の農薬として広く使用さ
  れています。近年は、強い毒性の有機燐剤の使用が禁止されていますが、
  それでも、パラチオン・テップ・マラソンなどは、現在でも一部の地域に出回っ
  ていて入手することは可能です。
   有機燐剤中毒死の場合、そのほとんどは自殺または事故死ですが、時に
  は、有機燐剤を他の飲料水に混入して飲ませて殺害するという事案があり
  ます。
  ア 有機燐剤の作用
    有機燐剤については、血液毒であるとする説、酵素毒であるとする説、
   神経毒であるとする説に分かれていますが、このいずれが正しく、また、
   いずれが誤りかということはできません。なぜなら、有機燐剤は、体内に吸
   収されると血液に入り、血液中の酵素であるコリンエステラーゼと結合して、
   その作用を抑圧して種々の症状を起こす一方、副交感神経や呼吸酸素に
   障害を起こすものですから、どの作用に重点を置くかによって、それぞれ
   見解が異なるのは当然なのです。
  イ 中毒症状
    有機燐剤中毒は、中毒症状が軽い場合は、全身倦怠・頭痛・めまい・嘔
   吐・流涙・腹痛・下痢・垂涎・発汗などを起こす程度ですが、重症の場合に
   は、呼吸促迫・言語障害・縮瞳が認められ、特に急激なものは、中毒後
   約30分~1時間で意識が混濁し、肺水腫・全身痙攣等を起こして死亡する
   といわれています。
  ウ 死体所見
    有機燐剤中毒死体は、窒息死に似た所見を呈するといわれていますが、
   外部所見には、それが有機燐剤中毒死であると判断できる絶対的な死体
   所見はありません。したがって、最終的には、解剖あるいは薬物検査など
   によって判断するほかはありませんが、強いて所見を上げるとすれば、次
   のようなものがあります。
   (ア) 縮瞳が見られる。
      死体の瞳孔は、通常、直径0.5~0.6cmくらいですが、有機燐剤中毒
     死体の瞳孔は、0.2cm前後に縮小しています。この縮瞳は、死後10時
     間ぐらい続いた後、通常の死体の瞳孔に戻ります。
   (イ) 口唇粘膜・口腔粘膜にびらんが見られる。
   (ウ)  死斑が暗赤紫色あるいは暗褐色で強く発現する。
   (エ)  死体硬直が一般的に強い。
   (オ)  鼻腔・口腔から、灰色または淡褐色の粘稠(ねんちょう)性最小泡沫
     が漏出している。
   (カ)  尿失禁や脱糞をしている。
   

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2009年1月20日 (火)

法医学リーズン《64》

(3)  燐中毒死
   燐には、赤燐と黄燐があり、赤燐はほとんど無害ですが、黄燐は猛毒を
 持っています。
   黄燐は、いわゆる「猫いらず」に4~12%(平均8%)含まれており、過去
 には、この「猫いらず」を利用して自殺した例が多数ありますが、最近では、
 ほとんど見られなくなりました。
   なお、黄燐は、水に溶けにくい上、臭い(にらの臭いがする)が強いもので
 あることから、青酸と同様に、人を殺害するために用いるには不向きであると
 いわれています。それでも、脂肪や胆汁には溶けますので、牛乳などに溶け
 込ませた上、薬であると偽って飲ませるなどして殺害することも不可能ではあ
 りません。
 ア 黄燐の作用
   黄燐は実質毒ですから、体内に吸収された黄燐は、心臓・肝臓・腎臓など
  に沈着してその細胞を冒し、これらの臓器を変性させて、臓器本来の働きを
  不可能にしてしまいます。
   このように、黄燐は、各臓器に沈着した上でこれらの臓器を変性させるも
  のですから、その作用は、青酸のように急激ではありません。
 イ 中毒症状
   大量服用などによって急性中毒に陥った場合には、味覚異常・口渇・嘔吐
  ・頭痛・下痢・虚脱・昏睡状態を起こした後、数時間後に死亡します。
   また、亜急性中毒の場合には、嘔吐・胃部疼痛・黄疸・蛋白尿・尿閉などを
  起こした上、脈拍が微弱となった後、心臓が衰弱して死亡します。
   なお、時には、下痢などの胃腸症状が数時間で回復することがありますが、
  この場合でも、二次的症状により、2~3日後に全身の症状が悪化して死亡
  してしまうことがあります。
 ウ 死体所見
   黄燐による急性中毒死の死体所見は、窒息死の死体所見に類似している
  といわれています。
   しかし、黄燐中毒死の外部的所見としては、定型的なものは少なく、慢性中
  毒死の場合に、①黄疸の症状、②歯齦部(歯ぐき)が黒味がかり、腫れたり、
  あるいは変色していることがあるくらいです。
   ただ、吐しゃ物は、独特の悪臭を放つ上に、暗所で燐光を発しますので、
  吐しゃ物から黄燐中毒の有無を知ることができます。
   なお、内部所見としては、特に、亜急性中毒の場合に、心臓・肝臓の脂肪変
  性、皮下・筋肉の出血、粘膜下・漿膜下の溢血点などが見受けられます。

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法医学リーズン《63》

(2) 青酸中毒死
   青酸(シアン)それ自体は、沸点の低い(摂氏27度)無色の液体ですが、
  青酸カリ・青酸ソーダなどの青酸化合物として、電気メッキや金属の精錬な
  ど、主として工業用に用いられています。
   青酸は、これを吸入すると短時間で死亡してしまうほど毒性の強いもので
  すが、強い刺激性の味がするために、人を殺害するのに用いるのは不向き
  といわれています。したがって、青酸中毒死の大部分は自殺です。
   しかし、時には、心中を装って飲ませたり、あるいは、飲み物の中に青酸を
  混入して殺害するなどの事件が発生しています。いわゆる帝銀事件や、青酸
  入りコーラ殺人事件などは、その代表的なものです。
  ア 青酸の作用
     青酸が体内に吸収されると、次の四つの作用を行うといわれています。
   (ア)  血液に対する作用・・・血液中のヘモグロビンを破壊して(ヘモグロビ
     ンと結合するという説もある)、シアンヘモグロビンをつくり、血液による
     酸素運搬機能を阻害する。
   (イ)  心臓に対する作用・・・心臓の収縮作用を阻害する。
   (ウ)  新陳代謝に対する作用・・・体内の新陳代謝を阻害する。すなわち、
     臓器組織の酸素摂取機能を失わせて、内窒息を起こさせる。
   (エ)  神経系統に対する作用・・・中枢神経に作用し、これを麻痺させる。
      ですから、青酸が体内に吸収されると、その青酸が血液中のヘモグロ
     ビンを破壊してシアンヘモグロビンをつくり、血液による体内各臓器等へ
     の酸素運搬機能を阻害するとともに、体内各臓器の酸素摂取機能を失
     わせ、吸入と排出の新陳代謝を阻害して内窒息を起こさせる一方、心臓
     の収縮作用を阻害し、さらには、神経系統、特に中枢神経を麻痺させて
     人を死に至らしめるということになるのです(ただし、急激に作用した場合
     には、先に中枢神経を麻痺させて、それだけで死に至るといわれます)。
  イ  中毒症状
          青酸を多量に吸入したときには、直ちに意識を失い、全身痙攣・呼吸麻
   痺などを起こして数秒から1分以内(20秒から数分の間という説もある)と
   いう短時間で死亡します。そして、青酸の量が少ないために作用がやや緩
   慢なときは、頭痛・めまい・嘔吐・発汗・胸内苦悶などがあった後、呼吸困難
   ・意識消失・全身痙攣・呼吸麻痺などの経過をたどって死亡するといわれて
   います。
   ウ  死体所見
     青酸中毒死体は、窒息死の一般的所見と非常に良く似た外部所見を呈
   しますが、症状が急な割には著明な変化は見られません。特に、死斑につ
   いては、法医学書の多くに、鮮紅色を呈すると書かれていますが、現実に
   は、鮮紅色を呈した死斑はほとんど見られず、大部分は通常の死斑と同じ
   色を呈しています。
     また、その死体にあっては、次のような外部所見等が見られることがあ
   ります。
   (ア) 口唇粘膜・口腔粘膜に青酸による軽度の腐蝕性びらんが見られる。
   (イ) 口腔からヌルヌルとしたよだれが流れ出ている。
   (ウ) 口腔・鼻腔から甘酸味(苦痛桃)の青酸臭といわれるにおいがする。
      なお、青酸を吸入しているかどうかを調べる方法として、シェーンバイ
      ン試験紙による検査があります。これは、シェーンバイン試験紙を死
      者の鼻腔・口腔に当てその反応を見る方法ですが、青酸を吸入してい
      る場合には、鼻腔・口腔から蒸発している青酸ガスが試験紙に付着し
      て化学変化を起こし、陽性反応(青色又は青藍色に変色する)を示し
      ます。
       ところが、青酸中毒死であっても、服用量や飲み方によっては陽性
      反応を示さないことがありますから、陽性反応がないからといって、
      青酸中毒死ではないと判断することは危険です。       

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2008年12月11日 (木)

法医学リーズン《62》

(2) 毒物の分類
   中毒死の原因となる毒物は、種類が極めて多い上に、その作用も多様に
  わたるものですから、すべての中毒死についてここで説明することは困難で
  す。
   そこで、私たちが日頃耳にする機会の多い、一酸化炭素・青酸化合物・燐
  ・有機燐剤・睡眠剤による中毒死について説明することにします。
  (1)  一酸化炭素中毒死
     締め切った部屋の中で都市ガスや石油ストーブなどの暖房器具の不完
    全燃焼ガスを吸ったり、あるいは、自動車の排気ガスを吸ったりして死亡
    する事案が数多く発生していますが、これらはいずれも、ガスの中に含ま
    ている一酸化炭素による中毒死です。
     一酸化炭素による中毒死は、その大部分が事故死または自殺によるも
    のです。しかし、時には、睡眠剤を飲ませて眠らせたり、あるいは、酒を飲
    んで熟睡している機会をねらい、ガス栓を開いて一酸化炭素中毒死させる
    という殺人事件が発生していますし、また、他の方法で殺害した後にガス
    を漏出させて、ガス自殺に見せかけたという事案も発生しています。
    ア   一酸化炭素の性状
       一酸化炭素は、都市ガス(ただし、通常、6Bと呼ばれている製造ガ
      スに限る。)や自動車の排気ガス、更には、炭素を含有するもの(例え
      ば、炭火や練炭など)の不完全燃焼ガスの中などに含まれていますが、
      空気よりもやや軽く(比重0.967)、無色・無臭・無刺激の可燃性ガス
      です。
        イ  一酸化炭素の作用
       一酸化炭素は、赤血球の中に含まれているヘモグロビンと酸素との
      結合を阻害して内窒息を起こさせ、その結果、種々の中毒症状を生じ
      させて、ついには人を死亡させることになるのですが、この関係をもう
      少し詳しく説明します。
       血液中の赤血球の中には、ヘモグロビン(血色素)と呼ばれるものが
      あります。このヘモグロビンは、体内の臓器や細胞への酸素の運搬、
      さらには、臓器及び細胞から肺臓への炭酸ガスの運搬という重要な
      役割を果たしているのです。すなわち、ヘモグロビンは、肺臓において、
          呼吸作用によって吸収された酸素と結合し、酸素ヘモグロビンとなって
      酸素を体内の各臓器及び細胞へ運んで供給する一方、臓器及び細胞
      から炭酸ガスを受け取って、これを肺臓へ運び、酸素と炭酸ガスを交
      換する作用を常時繰り返して、人の生命を維持させているわけです。
       ところが、一酸化炭素が肺臓へ入ると、酸素よりも200~300倍強い
      といわれる結合力でヘモグロビンと結合して一酸化炭素ヘモグロビン
      となりますから、その分だけ酸素ヘモグロビンが減少することになりま
      す。結局、血液によって運搬される酸素の量が少なくなり、体内の臓器
      及び細胞は次第に酸素が不足して、いわゆる内窒息を起こすわけで
      す。
       そして、一酸化炭素ヘモグロビンが血液中の約40~60%に達すると、
      人は死亡するといわれています。
    ウ  中毒症状
       一酸化炭素中毒の主な原因は、体内の酸素が欠乏することにあり
      ますから、その中毒症状も、酸素欠乏による意識障害が主たる症状
      となります。そして、一酸化炭素中毒の初期には、頭痛・耳鳴り・動悸
      ・嘔吐などの症状が現われ、その後、意識を失って昏睡状態となり、
      ついに死亡するといわれています。最も、これは、一酸化炭素が少な
      い場合の症状であり、一酸化炭素を多量に吸い込んだ場合には、数
      回の呼吸で昏睡状態に陥り死亡してしまうことがあるといわれていま
      す。
    エ  死体所見
       死体の外部所見からは、その死因が一酸化炭素中毒であると直ち
      に分かるようなものはありません。ただ、一酸化炭素ヘモグロビンは、
      通常のヘモグロビンよりも赤味が強く鮮明な血をしているために、血
      液全体が鮮紅色となり、このため、一酸化炭素中毒死体の死斑が鮮
      紅色を呈していることが多いのは事実です。また、手・足の爪床や口
      唇などの粘膜部が鮮紅色を呈していることもあります。
       そして、時には、眼瞼結膜などに溢血点が発現していることもあり、
      その多くは、通常の溢血点よりも赤味の強い色を呈しています。   

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2008年12月 6日 (土)

法医学リーズン《61》

(2) 毒物の分類
   毒物については、毒物の種類を基準としたり、あるいは毒物の作用を基準
  としたりして様々な分類が行われています。しかし、どのように基準をおいて
  見ても、相互に入り混じってしまい、はっきりと分類するのは不可能なようです。
   ここでは、一応、毒物の作用を基準として、腐蝕毒・実質毒・酵素毒・血液毒
  及び神経毒に分類して簡単に説明しますが、毒物によっては、血液の酸素に
  作用するとともに神経を麻痺させるものがありますから、この場合、血液毒・
  酵素毒・神経毒のいずれに分類したらいいのか判然としません。したがって、
  次に説明することは、このような分類方法があるという程度に理解してください。
  ア  腐蝕毒
     毒物が身体に触れた場合、その触れた部分の有機成分、特に蛋白質と
   結合して組織を腐蝕する毒物を腐蝕毒といいます。腐蝕毒としては、硫酸・
   硝酸・塩酸・酢酸・石炭酸・水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)・アンモニア・昇汞
   ・硝銀・クロム酸カリウム・オスミウム酸・塩素ガスや昨今問題となった、硫黄
   と水素から成る無機化合物である硫化水素ガスなどが挙げられます。
  イ  実質毒
     体内に吸収された後、肝臓・腎臓・脾臓などの臓器に沈着してこれらの臓
   器を変性させる毒物を実質毒といい、この実質毒には、黄燐・亜砒酸・鉛な
   どがあります。
  ウ  酵素毒
     体内に吸収された後、ある特定の酵素系に作用して、その活性を阻害す
   る毒物を酵素毒といいますが、有機燐剤などを成分とする農薬の大部分は、
   この酵素毒に当るといわれています。
  エ  血液毒
     体内に吸収されてから、主に血液中で作用を現し、血液性状に変化を起
   こす毒物(主として、窒息死のところで説明した内窒息を起こす毒物)を血液
   毒といい、これには、青酸塩(青酸カリ・青酸ナトリウム)・塩素酸カリウム・
   一酸化炭素などがあります。
  オ  神経毒
     体内に吸収された後、主として脳神経系に作用して、これを障害する毒物
   を神経毒といいます。神経毒には、催眠剤・アルコール類・麻薬類・覚醒アミ
   ン類・麻酔薬(アルカロイド類)などがあります。
  

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2008年12月 3日 (水)

法医学リーズン《60》

        ~中  毒  死~

1 概 説
  中毒死は、睡眠薬や農薬を飲んで自殺したとか、家庭燃料の不完全燃焼
 に気づかず一酸化炭素中毒死したとか、あるいは、フグの毒に当り食中毒で
 死亡したというように、その大半は自殺または事故死です。しかし、中には、
 コーラや牛乳などの飲み物に青酸カリを混入して人を殺害したり、心中を装っ
 て相手に大量の睡眠薬を飲ませて殺害するなどの他殺もあります。
  このように、中毒死には、自殺・他殺・事故死の場合があり、しかも、中毒死
 の原因となる毒物も多種多様ですから、自他殺の判断や毒物の究明などが
 非常に難しいといえます。
(1)  定 義
    一般的に中毒とは、「毒物の作用により生体の生理的機能が障害され、
  生理的現象に変調を来たした状態」のことを指しますが、これを簡単に言え
  ば、「毒物により生体に引き起こされる障害」ということになります。
    そして、その障害によって死亡した場合を中毒死といいます。
    いずれにしても、ここで中毒死というのは、毒物及び劇物取締法にいう
  毒物や劇物の影響を受けて死亡した場合だけでなく、その他一切の毒物の
  影響を受けて死亡した場合をも含みます。
    ところで、毒物というと、通常、毒物及び劇物取締法にいう毒物・劇物だけ
  を連想しがちですが、実際はそれだけに限りません。法医学上、毒物とは、
  「無機あるいは有機の無生物で、主としてその化学的作用によって比較的
  少量で生体の健康を害し、あるいは死に至らせる物質」と一応は定義付けら
  れています。
    しかし、毒物をこのように定義付けてみても、現実には、どの種類のどの
  範囲までを毒物といっていいのか必ずしも明確ではありません。というのは、
  金属・酸・アルカリ・アルカロイド・有機溶媒、医薬品、食品類などから細菌に
  至るまで、多くのものが毒物となり得るからなのです。 

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2008年11月30日 (日)

法医学リーズン《59》

(4)  銃創と着衣との関係
   着衣の破損は、射入口・射出口の別を判断することや、射創と類似してい
  る刺創とを区別する上において、大いにかかわりを持っています。
   例えば、破損部の繊維が内側に向かっていたり、焦げていたり、さらには、
  炭末が付着していた場合には、その箇所が射入口であると考えられます。
  これに対して、射出口の方は、繊維が外側へ向かっている上に、繊維のこげ
  や炭末の付着がありません。そして、銃創の場合、破損部の繊維が切れて
  いるのに対し、刺創の場合は、繊維が押し広げられたようにして穴が開いて
  います。
   また、着衣の破損と身体の銃創の位置がずれているときは、弾丸が斜め
  に撃ち込まれたことを物語っており、そのことから、射撃の方向や被害者の
  位置・姿勢を知ることができます。
(5)  銃器による損傷死体の自他殺の判断
   銃創を負った死体について自他殺の別を判断するためには、銃創の形状・
  焼輪の有無などの死体所見と、射撃の方向・弾痕の所在などの現場の状況
  等を検討し、総合的に判断しなければなりませんが、一応の基準を示します
  と、次のようなものを挙げることができます。

   自他殺の別を判断する着眼点等

① 自為的に可能か否か
 ○ 自 殺
  ・ 銃創の部位や発射方法は、死亡者本人がなし得るものでなければならな
    い。
 ● 他 殺
  ・ 死亡者本人がなし得ない発射方法などの場合には、他殺である。

② 発射距離
 ○ 自 殺
  ・ 接射または至近射でなければならない。
 ● 他 殺
  ・ 近射または遠射の場合には、他殺の疑いが極めて強い。

③ 射入口の部位
 ○ 自 殺
  ・ 前額部・こめかみ・口腔内・喉頭部・心臓などの急所をねらっている。
  ・ けん銃でこめかみをねらった場合は、利き腕側のこめかみをねらっている。
 ● 他 殺
  ・ 急所以外をねらっているときは、他殺の疑いが強い。
  ・ 利き腕の反対側のこめかみをねらっている場合は、他殺の疑いが強い。

④ 発射弾の数
 ○ 自 殺
  ・ 連続自動発射の銃を使用している場合を除いて、原則として1発である。
 ● 他 殺
  ・ 2発以上の場合は他殺の疑いが強い(急所に2発以上ある場合は他殺)。

⑤ 火薬煙の付着
 ○ 自 殺
  ・ 使者の手指(足を使った場合は足の指等)に火薬煙が付着している。
 ● 他 殺
  ・ 火薬煙の付着はない。

⑥ 銃の存否
 ○ 自 殺
  ・ 銃を握っているか、または、近くにある。(ただし、犯人が犯行後握らせる
    こともある)
 ● 他 殺
  ・ 銃がない場合は他殺の疑いが強い。

※ 次回から、中毒死の解説に入ります。

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2008年11月28日 (金)

法医学リーズン《58》

(3)  射撃距離による創傷の所見
   射撃は、弾丸を発射する位置と目的物との間の距離によって、接射・近射
  ・遠射に分けられますが、銃創の所見もその距離によって異なった所見を呈
  します。
  ア 接射による射創
    銃口を身体に接着させたり、近接させて弾丸を発射した場合には、弾丸
   とともに爆発ガスが猛烈な勢いで皮膚に当るため、射入口付近は破裂状
   に挫滅している上に、強く焼けただれ(焼輪)、火薬粉末の炭末が多数付
   着しています(煤暈)。そして、射入口は、星形の破裂創を形成し、創縁は
   挫砕され、その直径は弾丸よりも数倍大きくなります。
    このため、接射の場合には、近射や遠射の場合と異なり、射出口より射
   入口の方が大きくなっています。また、射入口の破裂と同様、射出口の破
   裂も著しく、さらに内部の組織片や骨片が押し出されていることがあります。
   そして、射創管についても、その内壁の焼けただれや破壊が著明です。
  イ 近射による射創
    近距離(1~2メートル以内)から弾丸を撃ち込んだ場合、射入口付近は
   内部へ陥没し、円形の挫滅輪を形成します。そして、挫滅輪の周囲には、
   焼輪や煤暈がつくられています。また、射創管は、組織が破壊されて出血
   し、挫滅状になっており、射出口は射入口より大きく、その形は不整で、周
   辺には小破裂が生じています。
  ウ 遠射による射創
    遠距離から撃たれた場合、射入口付近には、焼輪・煤暈がなく、射入口
   は、小さな円形の挫創を形成します。射出口は、通常、射入口より大きい
   破裂状を呈しています。また、弾丸が斜めに撃ち込まれた場合の射入口
   は、射出口よりも大きくなり、いずれが射入口か射出口か分からない形状
   を呈することがあります。
(3) 散弾銃創
   散弾銃は、一度に多数の散弾が飛び出す銃器ですから、散弾銃によって
  受けた銃創は、いわゆる単体の銃弾による創傷と違った性状を呈します。
   すなわち、創面は、一定の幅を持った円形の区域に多数の小さな銃創を
  つくっています。そして、その銃創は、中心部に密集し、外周に従って分散
  しています。ただし、射撃の距離が約2メートル以内の場合には、各散弾が
  集合して当るために1個の大きな創口を形成しています。なお、散弾の火薬
  の量が多いため、散弾銃創には焼輪・煤暈が著明に見られます。

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2008年11月26日 (水)

法医学リーズン《57》

6 銃器による創傷
  けん銃などの各種銃器による創傷(いわゆる銃創)は、銃器の種類及び射
 撃距離などの違いにより異なった性状を呈します。

 (1)  銃創の意義・種類・名称
    銃創とは、銃器から発射された弾丸による創傷をいい、射創ともいわれ
   ます。
   ア 銃創の種類
     銃創には、貫通銃創・盲管銃創・擦過銃創・反跳銃創・回旋銃創・散弾
    銃創などがあります。
   イ 銃創部等の名称
     銃創には、今まで説明した創傷とは異なった種々の特徴点があり、そ
    れには、それぞれの名称が付けられています。
      (ア) 射入口・・・弾丸が打ち込まれた部分で、通常は、円形の挫創を形成
             していますが、弾丸が発射された距離・角度の違いにより、
             異なった形状を示します(参考図ア)。
     (イ) 射創管・・・弾丸が体内を通過したためにできた創洞をいいます(参
             考図イ)。創洞部分の組織には、炭末(すす)・火薬粉末・
             油などが付着していることが多く見受けられます。
     (ウ)  射出口・・・打ち込まれた弾丸が身体から飛び出した部分をいいま
             す(参考図ウ)。形状は、射入口とほぼ同じですが、射入
             口よりも大きくなっているのが通常です。
    (エ)  挫滅輪・・・射入口及び射出口の創縁は、通常、挫滅して輪状の挫創
             を形成しており、これを挫滅輪といいます。挫滅輪は、弾丸
             の威力が強くなるに従って大きくなるといわれています。
    (オ)  焼輪・・・弾丸が発射されると、銃口からは、弾丸とともに火炎や熱気
            が噴射されるため、接射・近射した場合には、射入口付近が
            黒く焼けただれます。これを焼輪または焼暈(しょううん)とい
            います。
    (カ) 煤暈(ばいうん)・・・射入口付近に未燃焼の火薬及び炭末が付着し、
            射入口を中心とした輪状の隈取をしているものがあります。
            これを煤暈といいます。
    (キ)  汚物輪・・・弾丸に油などが付着している場合に、それが射入口付近
             に輪状に付着することがあります。これを汚物輪といいます。

Dscn086048
Dscn086149
   A 遠射   B 近射    C,D 至近射      E 銃口

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2008年11月24日 (月)

法医学リーズン《56》

5 鈍器・鋭器による損傷死体の自他殺の判断
  鈍器・鋭器による損傷を負った変死体について自他殺の別を判断するため
 には、これまで説明してきた上腕内側の皮下出血・いわゆる吉川線・ためらい
 創・防禦創などの有無、及び変死体が存在する現場の状況などを総合して判
 断することになりますが、次に、その他の判断材料となるものについて簡記し
 ます。

  自他殺の別着眼点

① 創傷の部位
 ○ 自 殺
  ・ 創傷の部位は、死亡者自身でつくり得る部位に限られる。
  ・ 頸部・胸部・腹部・手首などの急所についている。
 ● 他 殺
  ・ 死亡者自身で刺したり、切ったりすることが不可能、又は困難な部位にあ
    るときは他殺の疑いが強い。
  ・ 急所以外にも創傷が見受けられる。

② 利き腕と創傷の関係
 ○ 自 殺
  ・ 自殺の場合は、通常、刃物を利き腕に持ち、利き腕の反対側から利き腕
    の方向に切っている。
 ● 他 殺
  ・ 利き腕に関係なく、多種多様である。

③ 致命傷の数
 ○ 自 殺
  ・ 致命傷となる創傷は原則として一箇所である。
    (但し、まれには、頸動脈や手首を切った後、心臓を刺したものがある)
 ● 他 殺
  ・ 致命傷となる創傷が二箇所以上ある場合には他殺の疑いが極めて強い。

④ 成傷器及び創傷の種類
 ○ 自 殺
  ・ 鈍器による自殺は極めて少ない。
  ・ 千枚通しなどの無刃尖器による自殺は少ない。
  ・ 自殺の大部分は切創である。
 ● 他 殺
  ・ 鈍器による損傷(挫創・裂創)がある場合には、他殺の疑いが強い。
  ・ 割創を負ったものにも他殺が多い。

⑤ 成傷器の数
 ○ 自 殺
  ・ 通常は、ひとつの刃物を使用している。
 ● 他 殺
  ・ 二種類以上の刃物を使用している場合には、他殺の疑いが強い。

⑥ 成傷器の有無
 ○ 自 殺
  ・ 死体の創傷に相応する刃物が死体の近くに存在する。
 ● 他 殺
  ・ 成傷器となった刃物が等がなかった場合には、他殺の疑いが強い。
  
⑦ 利き腕への血液の付着
 ○ 自 殺
  ・ 利き腕に血液が付着していることが多い。
 ● 他 殺
  ・ 利き腕に血液が付着していない場合には、他殺の疑いが強い。

⑧ 着衣の損傷
 ○ 自 殺
  ・ 着衣をことさら避けている。
 ● 他 殺
  ・ 着衣の上から刺したり、切ったりしている場合には、他殺の疑いがある。

⑨ 家具等の状況
 ○ 自 殺
  ・ 家具類などに刃物による損傷がなく、現場が整然としている。
 ● 他 殺
  ・ 家具が乱れ、刃物による損傷がある場合には、他殺の疑いが強い。

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2008年11月22日 (土)

法医学リーズン《55》

(3) 一撃多創
    一撃多創とは、1回の加害行為で2個以上の創傷ができることをいいます。
   例えば、腕を曲げている際に切りつけられたとき、創傷は、上腕部と前腕
  部に付きます(下記参考図1参照)し、両刃の凶器で攻撃を加えられた場合
  に、これを握りしめたときは、手掌指に2個の創傷ができます(下記参考図2
  参照)。
   一撃多創は、被害者の姿勢や凶器の種類を知るための資料となりますか
  ら、腕などの位置を移動させながら、各創傷を相互に関連させて検討する
  必要があります。

Dscn085947
    槍創又は銃創              両刃の刃物

(4) 内臓の損傷
   体内各臓器の損傷は、頭部損傷とともに検視上重要なものです。
   内臓が損傷しているか否かは、外表からは分かりませんが、腹部等を蹴
  られたり、殴られたりした場合には、肝臓・脾臓・腎臓・肺臓・胃・腸などが
  破裂していることがありますから、腹部に皮下出血があるとか、その部分の
  着衣に蹴られた跡の土や砂等が付着しているときなどは、内臓損傷を負っ
  ているのではないか、ということを検討しなければなりません。
   また、腹部や背部の刺創については、内臓を損傷していたり、あるいは、
  出血した血液が内部にたまって各臓器を圧迫して死に至っていることなど
  がありますので、この点についても注意しなければなりません。
(5) 創傷部の保護
   創傷を検視する場合には、創口を無理に広げたり、あるいは、指や器具
  などを不用意に突っ込んだりすることは避けなければなりません。なぜなら、
  それによって、創口を変化させたり、創洞の架橋状組織片を切ったり、ある
  いは、新たな創をつくってしまい、事後、凶器を推定する上で支障を来たす
  ことになるからです。
   また、創傷は、乾燥によって変化することがありますので、湿ったガーゼ
  などを当てて創傷部位を保護するなどの配意が必要です。

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2008年11月14日 (金)

法医学リーズン《54》

4 鈍器・鋭器による損傷死体検視上の留意事項
  鈍器及び鋭器による損傷死体を検視する上において、特に留意しなければ
 ならないことや参考となる事項について説明します。
 (1) ためらい創(逡巡創)
    頸部や手首に、致命傷となった創傷と並んで浅い創傷が何個か見受け
   られることがあります。これは、自殺の場合に見られるもので、ためらい創
   と呼ばれています。つまり、自殺の場合には、死亡者は頸部や手首をおそ
   るおそる何回か切った後に思いきり切り付けて自殺を図るためにできるも
   のです。
 (2) 防禦創
    鈍器で殴り付けられたり、鋭器で切り付けられたりした場合は、誰でもこ
   れを避けようとしたり、腕で受け止めようとしたりしますが、その際に受傷し
   た創傷を防禦創といいます。
    防禦創は、腕・手指に多く見受けられますが、浅い創が並んで付いてい
   るためらい創と異なり、不規則でしかも深い創が多く見られます。

Dscn085745
             ためらい創(逡巡創)

Dscn085846
             防 禦 創

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法医学リーズン《53》

イ 凶器の推定
  刺創には、短刀・あいくち・ナイフなどの有刃器によるものと、千枚通し・ア
 イスピックのような無刃尖器によるものとの二種類がありますが、刺入口の
 形や性状から、その成傷器を推定することができます。
  すなわち、両刃の有刃器による刺創は、両創角が鋭くなっているのに対し、
 片刃の有刃器による刺創は、峰の部分の創角が鈍くなっています。
  また、無刃尖器の場合、皮膚の弾力によって異なった創口を呈することが
 ありますが、おおむね、下図のような形状を呈します。

      (青木ら・エッセンシャル社会法医学から)

Dscn085644
            皮膚に生ずる創口の形

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2008年11月13日 (木)

法医学リーズン《52》

(2) 割 創
   鉈や斧などの重い刃物でたたき切るようにしてできた創傷を割創といいま
  す。割創は、切創と裂創を合わせたような性質を有しています。
  ア 割創の外観は切創に類似しており、創縁は直線状で、創縁・創洞面とも
   に切創の場合と同じに正鋭で、創角も鋭くなっています。創口は切創よりも
   大きく、創洞は深く骨まで達していることが多く、頭部では、頭蓋骨を割って
   脳まで達していることもあります。
  イ 凶器の推定
    割創は、重い刃物でたたき切るようにしてできる創傷ですから、通常、鉈
   ・斧・鉞(まさかり)・日本刀が成傷器となっています。そして、鉈や日本刀の
   ように刃先の部分が長い凶器を用いた場合には、切っ先の方向が深い創
   傷を形成しています。また、斧のように刃先の部分が短い凶器の場合には
   凶器の形がそのまま創口となっていますので、創口から凶器を推測するこ
   とができることもあります。
    なお、刃が鈍い凶器の場合には、創縁が挫滅状になりますので、そのこ
   とから、凶器がどの程度鋭利なものかを推定できます。
(3) 刺 創
   刺創とは、先のとがった凶器で身体を刺してできた創傷をいいます。
   刺創は、創口が小さいために、一見、軽微な損傷に見られがちですが、創
  洞が深く、身体の深部にある大きな血管や臓器を損傷して致命傷となってい
  ることが多々ありますので、検視上注意が必要です。
   刺創は、貫通刺創と盲管刺創に分けられています。なお、刺創では、創口
  を刺入口、創洞を刺創管といい、刺器が身体を突き抜けた場合、その出口
  を刺出口と呼んでいます。
  ア 性 状
    刺創は、用いられた刺器の種類によって異なった形状等を呈しますが、
   刺入口(創口)が小さいのに対し、刺創管(創洞)が深いのが特徴です。
   そして、一般的に、創縁は切創と同様に弓形で、線状平滑になっており、
   両創縁を合わせると直線になっています。また、創角は、凶器の刃が作
   用した側は鋭く、峰の部分が作用した側はやや鈍くなっています。そして、
   刺創管の創壁は平等に平滑で、刺創管内には架橋状組織片は見当たら
   ないのが通常です。
    創面の周囲に表皮剥脱や皮下出血が見受けられることがありますが、
   これは、凶器の刃体全部が刺入されて柄が当ったためにできるものです。
    なお、短刀やあいくち等の有刃器で刺した場合、刺したときの創と抜い
   たときの創が残り、刺創と切創の双方の形状の創傷が見受けられること
   があり、これを刺切創(桜花弁状創)といいます。

Dscn085543   

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2008年11月12日 (水)

法医学リーズン《51》

3 鋭器による創傷
  法医学上、どのような物を鋭器というか、学者によってその分け方が異なっ
 ています。その一つは、鋭い刃を有する刃器(日本刀・包丁・斧・鉈など)だけ
 を鋭器とし、先のとがった刃器(やり・あいくち・錐・千枚通し・針など)を刺(尖)
 器とするものです。他の一つは、この両者を併せて鋭器と総称するものです
 が、ここでは、後者の立場に立って、切創・割創・刺創の順に説明していきま
 す。
 (1) 切 創
    切創とは、鋭い刃を持った凶器を皮膚の上に当てて、これを引き切るよ
   うに使用したときにできる創傷で、一般に、切り傷といわれているものです。
    切創の成傷器としては、日本刀・包丁・ナイフなどが代表的なものですが、
   時には、ガラス・陶磁器の破片や竹べらなども成傷器になります。
   ア 性 状
     通常、創面は笹の葉状に開き、創縁は直線状で(傷口が開いていると
    きは弓形状になっているが、傷口を閉じると直線状になっている。)、創
    角は双方とも尖鋭になっています。また、創洞は創底に向かって逆三角
    形(くさび型)を呈し、創壁は平らで、架橋状組織片も見られません。
     そして、創口の大きさに比較して創洞の浅いのが特徴です。
     なお、切創には、挫滅縁や皮下出血、表皮剥脱などを伴わないのが
    通常です。
      イ  凶器との関係
     切創は、多種多様な凶器によってできるものですから、創傷を見ただ
    けでは、その凶器が何であるかを直ちに判断することは不可能です。
     しかし、創縁の状況などから凶器の種類を推定することはできますし、
    また、創傷の部位・走り方・創洞の方向などから、被害者の姿勢や凶器
    が作用した方向などを推定することもできます。すなわち、安全カミソリ
    などの極めて薄い刃の凶器で切った場合、その多くの創縁は流線状に
    ゆがんでいますし、刃こぼれがある凶器で切った場合には、創縁が曲が
    ったり凹凸になったりしています。
     なお、後で説明する一撃多創(一回の加害行為で2個以上の創傷が
    できること)が腕にある場合には、受傷の際にその腕が曲がっていたこ
    とを推定できますし、更に下図のような弁状創や面創がある場合には、
    身体に対して凶器が斜め、あるいは横に作用したことを表しています。

Dscn085341

Dscn085442 

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2008年9月30日 (火)

法医学リーズン《50》

(4)  裂 創
   裂創とは、鈍器が強く作用したことにより、皮膚及び皮下組織が過度に
  伸展されて裂けてできた創傷をいいます。
   裂創は、鉄棒や丸太などで殴られた場合や列車や自動車ではねられた
  場合などに見られる創傷です。
  ア 性 状
    裂創の創縁は、通常の場合不整ですが、皮下組織の少ないところでは
   平滑直線状で切創のように見えることがあります。そして、創口は、皮膚
   の割線の方向や筋肉の走り方と一致していることが多く、創角は破裂状
   を呈しています。また、創壁は著しく不規則で、創洞には架橋状組織片が
   見受けられます。
    なお、鉄棒や丸太などで殴られたような場合の裂創は、挫裂創のような
   形状を示すことがありますが、この場合には、通常、その周囲に表皮剥
   脱や皮下出血が見られます。
    これに対して、自動車事故や列車事故などの際に見られる、いわゆる
   伸展創の場合には、表皮剥脱・皮下出血が見受けられないのが特徴で
   す。
  イ 凶器の推定
    伸展創の場合には、創傷の部分に鈍器が作用していませんので、創
   傷から凶器を推定することはできませんが、挫裂創の場合には、時々、
   表皮剥脱及び皮下出血の形状から凶器の種類・形状を知ることができ
   ます。

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2008年9月 8日 (月)

法医学リーズン《49》

(3) 挫 創
   挫創とは、鈍器で打ち、あるいは圧しつぶすように強く作用し、皮膚や皮
  下組織が挫滅されてできた創傷のことで、打撲創ともいいます。
   挫創は、角材や鉄棒などで殴られたり、高所から転落したりした場合など
  に、皮膚と骨との間の脂肪組織や筋肉などが少ない箇所に起こりやすいも
  ので、その大部分は、他為的あるいは転落や交通事故などによることが多
  く、自分で殴ってできたものはほとんどありません。
  ア 性 状
    挫創の創面は、一般的に凹凸状の不整な形を呈しており、創縁も、押し
   つぶされたようなジグザグ状になっています。創口が小さくても、創洞は、
   大きくえぐられたような状態になっています。
    そして、創洞には、筋肉・血管・神経などの一部が切れずに残って橋を
   架けたような状態(架橋状組織片)になっているのが数多く見受けられま
   す。
    また、挫創の周囲には、通常、皮下出血及び表皮剥脱を伴っています。
    なお、挫創と裂創(次項参照)との中間に当る創傷が数多く見受けられま
   すが、これを挫裂創と呼んでいます。
  イ 凶器の推定
    不整な挫創の創面を見れば、その部分に鈍器が強く作用した、というこ
   とはすぐに分かりますが、その鈍器が何であるかということまでは分かりま
   せん。しかし、鈍器が最初に当った部分には、その鈍器に似た形状の表
   皮剥脱・皮下出血が残る場合もありますので、その形状から凶器を推定
   することができることもあります。
   

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2008年9月 1日 (月)

法医学リーズン《48》

(2) 表皮剥脱(ひょうひはくだつ)
   表皮剥脱とは、鈍器によって身体を打撲・圧迫・擦過した場合、表皮がは
  がれ、その下にある赤い真皮が露出した状態の損傷をいい、一般には擦過
  傷と呼ばれている損傷のことです。
   表皮剥脱は、外力が弱いときは単独で存在しますが、通常は、皮下出血や
  挫創などと同時に存在します。そして、皮下出血を伴っている表皮剥脱は、
  生存中に受傷した損傷であることを意味します。
  ア 形 状
    表皮剥脱は、通常の場合、鈍器が最初に当った箇所に強く現れ、鈍器が
   作用した方向に向かって線状の擦り傷になっているので、そのことから、鈍
   器が作用した方向を知ることができます。
    なお、角のある鈍器が作用した場合には、その角の部分が当った箇所に
   は、鍵形の表皮剥脱ができます。また、時には、剥離した表皮が弁状に片
   側にめくれていることがありますが、このことから参考図のように鈍器が作
   用した方向を知ることができます。
  イ 革皮様化
    表皮剥脱の部分は時間の経過とともに乾燥し、次第に革皮様化して暗褐
   色に変色していきます。
  ウ 検視上特に注意を要する表皮剥脱
    皮下出血の場合と同様、表皮剥脱の傷だけで人が死に至るようなことは
   ありませんが、頭部に表皮剥脱が存在する場合には、その内部に致命傷
   となる損傷を伴っていることがあります。また、表皮剥脱の形状や土砂など
   の付着物から凶器を推定することができる場合もあります。
    ですから、検視に当っては、表皮剥脱を軽視することはできません。特に、
   顔面及び頸部にあるいわゆる吉川線は、犯罪性を表しているものといえま
   すから、検視上の重要なポイントとなります。

Dscn085240
    (弁  状  の 傷)

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2008年8月27日 (水)

法医学リーズン《47》

エ 特に注意を要する皮下出血
  単なる皮下出血だけでは人は死亡しません。ところが、外表からは単なる
 皮下出血と見受けられるものであっても、その内部には、致命傷となる損傷
 を負っていることがあります。また、扼痕のように、皮下出血の存在箇所が、
 自他殺の判断上、極めて重要な資料となることがあります。
 (ア)  頭部及び顔面の皮下出血
     扼死のところで説明したように、頭部及び顔面に損傷を負っている場
   合には、他人と争った可能性が大きいので、頭部及び顔面に存在する皮
   下出血・表皮剥脱は、わずかなものでも軽視できません。特に、頭部に皮
   下出血が生じている場合には、その内部に致命傷となる損傷を負っている
   ことがありますので、頭部については、たとえわずかな皮下出血(こぶや変
   色)・表皮剥脱でも、これを見落としてはいけません。したがって、検視に当
   っては、懐中電灯などの照明具を用いて、頭髪をかき分けて詳細に調べ
   ることが大切です。
 (イ)  上腕内側の皮下出血
     「上腕内側に皮下出血がある変死体は、他殺の疑いを持て」と言われ
   ているほど、上腕内側の皮下出血は検視上重要な意味を持っています。
    それはなぜかといいますと、上腕の内側は、他の鈍器(鈍体)にぶつける
   可能性が少ない上に、皮下出血が生じるまでに自分で上腕を圧迫する可
   能性も少ないからです。つまり、上腕内側の皮下出血は、上腕部を何者か
   に強く握りしめられたことを示しますから、もし、これが変死体に存在して
   いるときには、死者が生前に何者かと争った疑いが極めて強いことを意味
   しています。特に、女性死体の上腕内側に皮下出血が認められる場合に
   は、その上腕内側の皮下出血は殺人事件に直結する、とまでいわれてい
   ますので、女性死体を検視する場合には、両上腕内側を必ず調べる必要
   があります。

Dscn085038_2
  (頭部の皮下出血)

Dscn085139
   (上腕内側の皮下出血) 

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2008年8月22日 (金)

法医学リーズン《46》

2 鈍器による創傷
  法医学上、鈍器(鈍体)とは、鋭い刃がないものや先がとがっていないものを
 総称します。ですから、石塊・丸太・鉄棒・ビン類・下駄などの物体はもちろんの
 こと、手拳・膝・歯・爪などの身体の一部も、この鈍器(鈍体)に含まれることにな
 ります。
  鈍器による創傷は、その鈍器の種類や鈍器が身体に作用した方法・強弱な
 どによって異なった性状を呈しますが、通常、皮下出血・表皮剥脱・挫創・裂創
 に分けられます。
 (1) 皮下出血
    鈍器で身体を打撲あるいは圧迫された場合に、皮膚の下の毛細血管が
   破れて出血し、その血液が皮下組織内にたまることを皮下出血といいます。
    皮下出血は、わずかな打撲や圧迫でも生じるもので、それのみ単独で見
   受けられるものと、表皮剥脱や挫傷などの周囲に生じているものとがあり
   ます。
    なお、心臓が止まった後には、皮下出血は起こりませんので、死体に皮
   下出血が存在する場合は、死者が生存中に何らかの理由により受傷した
   ということになります。
   ア 皮下出血の好発部位
     皮下出血は、打撲あるいは圧迫された場合には、身体のどこにでも生じ
    ますが、特に、皮下近くに骨のある身体の部分では、わずかな打撲・圧迫
    でも生じます。
     なお、小児や老人などは血管が弱いことから、皮下出血ができやすいと
    いわれています。
   イ 形状・程度
     皮下出血は、鈍器(鈍体)が身体に作用し、皮下組織が圧迫されることに
    よって血管が破れて生ずるものですから、身体に作用した鈍器等と同じ
    形状を示すのが通常です。したがって、皮下出血の形状から凶器等の形
    状を推定することができます。
     もっとも、眼瞼や陰のうなどのように、皮下組織が少ない箇所では、小さ
    な血管が切れても出血が強く、変色及び腫脹が強くなりますから、必ずし
    も鈍器等と同じ形状を示しているとは限りません。
   ウ 色調等
     皮下出血を起こした部分は、当初赤くはれ上がっているのが通常ですが
    時間の経過とともに腫れが引き、その色も次第に黒味を帯びていき暗紫
    赤色に変化します。そして、受傷後5~6日ころから黄色味を帯び始め、
    8日くらいで黄色になり、2~5週間で完全に消失してしまいます。  

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2008年8月19日 (火)

法医学リーズン《45》

(3)   創傷各部の名称等
   創傷には、その各部分に法医学上の名称が付けられています。各種の
  創傷を正しく理解するためには、まず、その名称を理解しておかなければ
  なりません。また、創傷の性状によって、成傷器の種類や圧力の加わった
  方向・程度などを推定することができますので、次に、創傷各部分の名称
  とその部分を検視する上での着眼点について、説明します。
   文末の参考図を参照してください。
  ○ 創面・・・傷口を中心とした創傷の表面全体(参考図・平面図全体)をい
          います。創面では、その大きさ(縦・横の長さ)・形状(線状・星
          状・不正形など)・表面の状況(平滑・凹凸の有無)などが検視
          の対象となります。
  ○ 創口・・・傷口(参考図○の付いたア)のことをいいます。創口では、その
          大きさ(長さ・幅)・形状などが検視上の着眼点となります。
  ○ 創縁・・・創口の縁の部分(参考図○の付いたイ)を指します。そして、長
          さ・形状(直線状・ジグザグ状・挫滅状など)などが検視上の着
          眼点となります。
  ○ 創角・・・創の端のところ(参考図○の付いたウ)を指し、創端ともいいま
          す。創角の数及び形状(鋭角・鈍角・破裂状)などが検視上の
          着眼点となります。
  ○ 創洞・・・創口から内部の洞状の部分(参考図○の付いたエ)をいいます。
          創洞では、その深さ・形状(鋭角・鈍角)・架橋状組織片の有無
          などを見ることになります。 
  ○ 創壁・・・創洞の壁(参考図○の付いたオ)のことで、創洞面ともいいます。
          創壁については、その形状(平滑・凹凸・直線・わん曲)や組織
          (血管・骨)の切断状況などを見るのがポイントです。
  ○ 創底・・・創洞の底の部分(参考図○の付いたカ)のことをいいます。
  ○ 架橋状組織片・・・血管・神経・筋肉繊維などが切断されず、創洞に橋を
          架けたようになったもの(参考図○の付いたキ)のことをいいま
          す。架橋状組織片は、鈍器による損傷の場合に多く見受けら
          れます。

      創 傷 各 部 分 参 考 図
Dscn084937
ア・傷口 イ・創縁 ウ・創角 エ・創洞 オ・創壁 カ・創底  キ・架橋状組織片

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2008年8月15日 (金)

法医学リーズン《44》

~損 傷 死~

1 概 説
  損傷死体についての自他殺の判断は、比較的容易であるといわれていま
 すが、それは、窒息死の場合に比べて容易であるということであり、様々な
 形態の損傷を伴う死体について、それが自殺であるか他殺であるかを判断
 することは、決して簡単なことではありません。
  また、損傷については、創傷の分類や形状などに難しい法医用語が数多
 く用いられていますので、これらを正しく理解するのもまた大変なことです。
 (1) 定 義
        損傷とは、種々の物理的又は化学的刺激によって身体に障害を起こす
  ことをいいます。そして、損傷は、一般的に傷(きず)という言葉で言い表され
  ていますが、法医学上は、創(そう)傷(しょう)とに区分して用いられていま
  す。すなわち、切創や割創のように、皮膚が切れたり割れたりして傷口が
  できた損傷をといい、皮下出血のように、皮膚が切れたり裂けたりしてい
  ない損傷をといっています。
 (2) 創傷の分類
    創傷は、損傷を負った身体の臓器や組織を基準にしたり、創傷の性状
  を基準にしたりしていろいろな損傷に分類されていますが、ここでは、鋭器・
  鈍器その他の外力の種類を分類基準とする分類に従って説明していきま
  す。そして、その分類によるそれぞれの成傷器等と創傷については次の
  とおりです。
   
   外力の種類による分類
  ① 鈍器による損傷
   ○ 成傷器等
     石・丸太・鉄棒・ハンマーなど
   ○ 創 傷
     表皮剥脱・皮下出血・挫創・裂創

  ② 鋭器による損傷
   ○ 成傷器等
     刀・包丁・鎌・なた・斧・まさかり・ナイフ・かみそりなど
   ○ 創 傷
     切創・割創

  ③ 尖・刺器による損傷
   ○ 成傷器等
     針・釘・錐・千枚通し・アイスピック・あいくち・槍など
   ○ 創 傷
     刺創(刺切創を含む)

  ④ 銃器による損傷
   ○ 成傷器等
     けん銃・小銃・空気銃・猟銃など
   ○ 創 傷
     銃創(弾創・射創)

  ⑤ 特殊な原因による損傷
   ○ 成傷器等
     火・熱湯・毒物・電気など
   ○ 創 傷
     火傷・凍傷・腐食創・電撃創  
    

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2008年6月24日 (火)

法医学リーズン《43》

(2)  固形物等吸引による窒息死
   子供がおもちゃや硬貨を飲み込んだり、あるいは、老人がもちを喉に引っ
  掛けて窒息死するなど、その大半は過失です。しかし、口腔内に布類等を
  押し込んで窒息死させる他殺も考えられます。
   死体所見は、鼻口閉塞による窒息死と同じですが、内部所見として、気道
  内粘膜に表皮剥脱や皮下出血を伴うことがあります。
   死体所見からの自他殺の判断は、ほとんど不可能に近いものですから、
  鼻口閉塞による窒息死のところで説明したような点に留意して判断すること
  になります。
(3)  胸部圧迫による窒息死
   工事現場において土砂が崩れ落ちて胸部を圧迫し窒息死するものや、胸
  部を工場の機械にはさまれて窒息死するものなど、そのほとんどは過失によ
  る事故死です。
   しかし、過去に暴力団員が土中の穴の中に対立する暴力団の組員を生き
  埋めにしたという事案がありました。
   死体の外部所見としては、顔面に圧迫によるうっ血が顕著に現れ、また、
  顔面・頸部・胸部・背部等に損傷を負い、しかも、骨折を伴っている場合が多
  く見られます。

※ 次回からは、損傷死を解説します。

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2008年6月21日 (土)

法医学リーズン《42》

6  その他の窒息死
 (1)  鼻口閉塞による窒息死
    鼻・口を圧迫して窒息死するものとしては、例えば、乳児に授乳している
   うちに母親が寝込んでしまい、乳房によって乳児の鼻・口をふさいで窒息死
   させるものとか、就寝中の乳児の顔に布団が掛かり、その布団が鼻・口を
   ふさいで窒息死するものなどがあり、そのほとんどは過失によるものです。
    しかし、中には、手・衣類・布団などで鼻・口を圧迫して殺害した例もあり
   ますし、この方法を扼殺と併用した事例もあります。
   ア  死体所見
      死体は、一般的には他の窒息死と同じ外部所見を呈しますが、顔面
    のうっ血・腫脹や眼瞼結膜等の溢血点は通常発現せず、仮に発現しても
    わずかです。
      ところで、顔面のうっ血・腫脹及び眼瞼結膜等への溢血点の発現理由
    については頸部圧迫による窒息死のところで、圧迫により頸静脈が閉塞
    されるためであると説明しましたが、それでは、鼻・口を閉塞するだけで
    頸部を圧迫しない窒息死の場合に、なぜ、わずかでも溢血点が発現する
    のかという疑問が生じると思います。
      この点については、
    ① 窒息により血圧が上昇し、細い血管の抵抗の弱い部分が破たんする
     ため(三木・法医学)
    ② 窒息により血中の酸素量が少なくなると毛細管は障害され漏れやすく
     なる上、カテコールアミンのような物質が大量に増加し、さらに毛細管の
     障害を悪化させ出血を引き起こすため(石山・法医学ノート)
         などの理由が挙げられています。ただ、頸部を圧迫したときのように直接
    的な原因はないわけですから、溢血点の発現の程度は、頸部圧迫による
    窒息死よりも低く、特に乳幼児の場合には発現しないことが多くなります。
   イ  自他殺判断上の着眼点
      死体所見だけから自他殺の判断を行うことは不可能です。したがって、
    窒息死に至った経過・死者の体位・死斑の状況・失禁の位置・家族などの
    関係者等からの事情聴取などにより判断することになります。
      そして、検視上は、特に、顔面の皮下出血や表皮剥脱などの損傷を
    見落としてはなりません。すなわち、他殺の場合には、被害者の鼻・口部
    を圧迫している手などを取り除こうとする結果、自分の顔に傷を付けるこ
    とが予想されますし、犯人のほうでも、被害者の抵抗を弱めようとして顔
    面を殴打することなどが考えられるからです。
       

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2008年6月16日 (月)

法医学リーズン《41》

ウ  損傷の状況
   水死体には多くの損傷があることは、先に説明しましたが、水死体に致命
 傷となる創傷がある場合には、他殺の疑いをもって検視する必要があります。
 ただ、船のスクリューによる損傷は、頭部・腹部以外の部位にもありますし、
 また、非常に大きなものがありますので、創傷については、それが生前に負っ
 たものではないか、刃物によるものではないかを検討しなければなりません。
   船のスクリューは刃物ほど鋭利でなく、しかも湾曲していますから、スクリュ
 ー創も、それに見合ったものになります。つまり、創口・創縁が湾曲をえがき、
 創底は両創角方向が次第に浅くなっており、架橋状の組織片が見受けられる
 ことがあります。
   また、スクリューが骨まで達して骨を傷つけたときには、その断面はギザギ
 ザの状態になっており、さらに、スクリューが骨を切断したときは、当該断面は
 不統一で、ちょうど骨折と同じ形状を呈します。
   なお、生前に負った創傷には、皮内及び皮下に出血(生活反応)が伴ってい
 ますので、この点もよく確認することが必要です。
エ  手・足等の緊縛等
   手足を緊縛し、あるいは、足や腰に石などをくくり付けている水死体を時々
 見受けることがあります。これらの大部分は覚悟の自殺ですが、中には、他の
 方法で殺害した後、死体を水中へ投棄した例もあります。
   手足を緊縛し、あるいは石などをオモシとして使用している水死体について、
 その自他殺の別を判断するには、本人自身にできる縛り方であるか、石などの
 オモシは本人が持ち上げることのできるものであるかなどを実験しながら具体
 的に検討することが大切です。
オ  手中の握持物件等
   死者が他人の着衣の破片やボタンなどを握っている場合や、爪の中に肉
 片が入っている場合などは、生前に何者かと争ったことを示すものですから、
 見落とさないようにしなければなりません。

※ 架橋状の組織=かきょうじょうのそしき=挫創、裂創の創底付近において、
            創壁間に橋をかけたように残存する筋肉のすじ、血管、
            神経などの組織をいう。
             

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2008年6月15日 (日)

法医学リーズン《40》

   次に、現場観察及び死体観察の着眼点について説明します。
ア 入水場所の確認
  水死体は、水中を浮遊して移動しますから、死者が入水した場所を確認する
 ことは非常に困難なことです。しかし、入水場所には自他殺を判断するための
 重要な資料が残されていますので、可能な限り確認するよう努めなければなり
 ません。
  ところで、自殺の場合、自殺者は、入水場所に所持品や履物等をきちんとそ
 ろえて置いていることが多く、中には遺書をおいていることもあります(ただ、他
 殺の場合でも、犯人が犯行後に履物等をきちんと整頓して自殺に偽装するこ
 とがありますから、このような状況があるからといって、自殺と断定するのは危
 険です)。これに対し、他殺の場合には、所持品及び履物等が散乱し、あるい
 は、付近に多数の足跡が残っていたり、現場の雑草が踏み荒らされる等、現
 場が乱れているのが通常です。
イ 着衣の乱れ
  水死体は、水中を浮遊する際、着衣を水中の岩石に引っ掛けたり、あるいは、
 水の流れ等によって着衣が脱げるなどして全裸になっていることがあります。
  したがって、着衣の乱れから自他殺を判断することは困難です。しかし、水の
 動きの少ない場所で発見された死体や入水後間がない死体の着衣が破損して
 いたり、ボタンが脱落していたなど着衣に異状があった場合には、他殺の疑い
 が強くなりますから、その原因を明らかにしておく必要があります。

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法医学リーズン《39》

(3) 溺死体の内部所見
   水中に存在した死体の外部所見からその死因が溺死であるか否かを判断
  するのは、極めて困難です。ところが、死体の内部には溺死特有の所見が
  多く発現するため、解剖によってその死因を明らかにすることは比較的容易
  であるといわれています。ここでは、内部所見の主なものについて簡単に触
  れておきます。
  ア 肺臓が膨満し、肺葉の辺縁が丸味を帯び、血液が水で薄くなります。
  イ 肺臓の表面に、境界が不明瞭な薄い溢血点・溢血斑が発現します。
  ウ 肺臓及び胃に、砂や泥などの水中異物が入っています。
  エ 肺臓・心臓・肝臓及び骨髄にプランクトンが入っています。
  オ 左心室の血液が、溺水液で薄くなります。
(4) 自他殺判断上の着眼点
   溺死体のほとんどは自殺か事故死ですが、中には、他殺の場合もあります。
  すなわち、泳ぐことのできない者を川岸や海岸へ誘い出して水海中へ突き落
  としたり、あるいは、船で海上へ連れ出してから海中へ突き落とすことも考え
  られますし、さらに、過去には、路上で殴り倒して失神させたうえ、海中へ投げ
  入れ、過失による溺死を装ったものもありました。
   このように、溺死には、自他殺の双方がありますが、いずれの場合も同じ死
  体所見を呈しますから、死体所見のみによって自他殺を判断することは困難
  です。
   ですから、
  ① 死亡者に自殺の原因・動機が存在したか
  ② 生前の行動に不審点はないか
  ③ 入水したと思われる場所に他人と争った形跡はないか
  ④ 致命傷となる外傷はないか
  ⑤ 目撃者はないか
  など、あらゆる角度からの検討を行ったうえで、総合的に判断するほかはあり
  ません。
   溺死の場合における自他殺の判断は、死体観察そのものよりも、現場観察
  及び聞込みなどの捜査が重点になるといえます。

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2008年6月 8日 (日)

法医学リーズン《38》

イ  溺死であることを示す外部所見
 (ア)   白色泡沫の洩出
     溺死体の多くは鼻・口から白色の泡沫が洩出しています。これは、
   肺臓の内部が溺水で刺激されることによって、その内壁から粘液が出て
   きて、肺臓内の空気や溺水とかくはんされることによって、生じるものです。
     そして、この泡沫は、気管を通って、鼻・口から外部へ洩出します。
     なお、白色泡沫は、溺死のほか、テンカンで死亡した場合や睡眠薬中
   毒・一酸化炭素中毒などにより肺水腫を起こして死亡した場合にも生じ、
   また、腐敗現象によっても生じることがあります。この泡沫は、溺死の場合
   は、通常、細かい粒が集合して綿のようにふんわりしているのに対して、
   中毒死や病死の場合には、大小不ぞろいである点に違いがあるといわれ
   ています。しかし、実務上、それを見分けることは困難ですから、白色泡沫
   の状態だけから溺死か否かを判断することは危険です。
     なお、長い間水中に浸っていた古い死体では、白色泡沫が消失してい
   る場合があります。また、新しい死体であっても、気管支の中にだけ白色泡
   沫があって鼻や口から出ていないことがありますが、この場合には、胸部を
   圧迫すると出てきますから、検視に当っては、人工呼吸を行う要領で胸部
   圧迫を試みる必要があります。
     また、白色泡沫は、乾燥すると淡黄色のかさぶたのようになって鼻や口
   の付近に付いてしまいますから、そうなる前に写真撮影しておくことが大切
   です。
 (イ)   水(海)中物の握持
     これは、死体現象そのものではありませんが、溺死の場合には、水辺の
   草や海藻、あるいは、水(海)中の異物をつかんでいることが多いものです。
   これは、「溺れる者はわらをもつかむ」というたとえもあるように、おぼれそう
   になった者は、助かりたい一心から、身辺にある漂流物等に必死につかまり
   ますし、また、覚悟の自殺の場合でも、苦しさのあまり手を握り締める際に
   漂流物をつかむことが多いという理由によります。
     したがって、水(海)中に存在するものを握持していた場合には、溺死とみ
   てまず間違いありません。

Dscn084736
  ※ 溺死体の白色泡沫の状況
     

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2008年6月 4日 (水)

法医学リーズン《37》

(2)   溺死体の外部所見
    水死体の外部所見には、水中に存在したことによって生ずる所見と、
   溺死であることを示す所見とがありますので、その両者について正しく理
   解しておかなければなりません。
  ア  死体が水中に存在していたことによって生ずる外部所見
   (ア)     死体の冷却
       死体の冷却については、法医学リーズン《5》で説明しましたが、
     水中においては、その冷却速度が速くなります。そして、死体を水中か
     ら引き上げると、体表の水分が蒸発し、その蒸発に伴って熱(蒸発熱)
     が奪われることから、死体は急激に冷却していきます。
   (イ)     死斑
       水死体には、通常、死斑は見られません。これは、水の流れによっ
     て死体が移動し、その体位が常に変化しているためと考えられます。
     したがって、流れの全くない水中に存在していた死体については、死
     斑が発現しています。
       なお、水死体の死斑は、赤味が強く発現しますが、その色について
     は、淡紅色、淡赤色、鮮紅色などと様々な表現がされています。このよ
     うな色は、水死体の表皮血管の血液が水中において酸化して酸化ヘ
     モグロビンとなることにより発現するものです。
   (ウ)     皮膚の鳥肌化
       水中に存在している死体は、冷水の刺激によって立毛筋が収縮し
     たまま死後硬直が起こるために、皮膚の毛が立ち、鳥の肌のようになり
     ます。この現象は、特に、陰嚢および乳房(乳頭部付近)に顕著に発現
     します。
       なお、皮膚の鳥肌化は、通常、死後3~4時間くらい経過した後に
     起こるといわれています。最も、この現象は、溺死体でなくても発現しま
     すから、この現象によって死後経過時間を推定するのは危険です。
   (エ)     漂母皮形成
       水中に存在する死体の手及び足の皮膚は、水の浸漬作用によって
     次第に白くふやけて、白いしゅう襞(ひだ)をつくりますが、法医学上、こ
     の現象を漂母皮形成といっています。死体が長時間水に浸かっていま
     すと、漂母皮は、手袋や足袋のように脱げていきます。
   (オ)     損傷
       水中に存在した死体は、色々な損傷を伴っているのが通常です。
       つまり、水中へ飛び込みあるいは投げ込まれた際に川(海)底の岩
     石等に当たるとか、水中を浮遊する間に岩石などに衝突するなどして
     損傷したり、魚類やカニ等の水中の小動物により傷付けられることも
     あります。特に、船のスクリューに巻き込まれて負った創(いわゆるスク
     リュー創)は、刃物で切られたようになっており、しかも、表皮だけが切れ
     た小さい創から内臓が飛び出すほどの大きな創まで大小様々ですから
     自他殺の判断を行う上において極めて困難な問題を提起します。

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2008年6月 1日 (日)

法医学リーズン《36》

5   溺 死
  一般的に溺死といえば、海や川などでおぼれ死ぬことを連想しますが、決し
 てそれだけでなく、水その他の液体が気道内に入り、その液体によって気道
 が閉塞されて窒息死することすべてをいいます。
  例えば、泥酔者がわずかな水たまりに顔を突っ込んで死亡したり、精神錯乱
 者が洗面器内に顔を突っ込んで死亡したり、あるいは、工場において、重油槽
 に落ち込んで事故死したりすることがありますが、これなども溺死です。
  また、特異な例としては、子供の水泳の練習をプールサイドで見ていた母親
 が、プールから飛びはねてきた水を気管に吸い込み溺死した例もあります。
 しかし、溺死の代表的なものは、やはり、全身が水中にあって窒息死すること、
 すなわち、水死体ですから、これからの説明も水死体を中心とします。
 (1)   溺死の経過
    溺死は次のような段階を経て死に至るとされています。
  ア  前駆期
     冷たい水に触れることにより反射的に呼気運動を行いますが、水がわ
    ずかでも気道内に入ると、本能的に呼吸を停止します。そして、その時間
    は、約30秒から1分ぐらいと言われています。
  イ  呼吸困難期
     前駆期の呼吸停止が続くと、血中の一酸化炭素が多くなり、これが呼吸
    中枢を刺激して呼気性の呼吸促迫を起こします。
     ついで、けいれんを伴う呼気性の呼吸促迫を起こし、呼吸困難症状を呈
    します。この時間は約1分から2分間くらいです。
  ウ  失神期
     次第に意識がなくなって身体にけいれんが起こり、瞳孔が散大して、反
    射機能を消失します。
  エ  呼吸休止期
     けいれんが止まり、呼吸運動も一時的に休止します。
  オ  終末呼吸期
     しばらく間隔をおいて、深い吸気性の運動が起こりますが、その運動は
    次第に弱くなり、ついには死亡してしまいます。
    以上のような経過は、一般的な窒息死の経過とほぼ同じであり、その死因
   が窒息死によるものであることを示しています。
    ところが、同じように水に入ったり、水を浴びたりして死亡する者の中には、
   その死因が窒息でないものもあります。それは、水浴死と呼ばれているもの
   です。すなわち、冷たい水の中に急に身体を入れると、体表の血管が収縮
   して血圧が急激に上昇するために、ショック又は急性心不全を起こし死亡す
   るものです。これは、いわゆる急死であり窒息死とは異なりますので、ここで
   は説明を省略します。

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2008年5月31日 (土)

法医学リーズン《35》

イ  頸部
   頸部の状況を見るに際しては、先に説明した扼痕といわゆる吉川線を見
  落とさないということが最大のポイントになります。
   まず、扼痕ですが、表皮剥脱及び皮下出血を伴った扼痕、革皮様化して
  暗褐色に変色した扼痕を見落とすことはまずないでしょう。しかし、ニキビな
  どの‘できもの’の跡のような形状や色調を呈する扼痕もありますので、注意
  を要します。
   ところで、問題は、扼痕に表皮剥脱が伴わなかったり、外表に皮下出血の
  形跡が見られなかった場合(特に、被害者が乳幼児や病弱者の場合)です
  が、このような場合でも、その大部分は、皮下組織には出血を伴っています
  ので、当該圧迫部はやがて暗紫赤色あるいは暗褐色に変化します。
   ちなみに、人の皮膚が革皮様化により暗褐色に変化するのは、その原因
  が生じてから2~3時間後といわれていますから、早期に発見された変死体
  については、時間をかけて検視することによって、扼痕の見落としを防止す
  ることができます。
   次に、いわゆる吉川線については、法医学リーズン《30》のところで説明し
  ましたが、被害者が頸部を圧迫しているもの(扼殺では犯人の手等)を取り除
  こうとして、自分の頸部までもかきむしり、その結果、頸部には爪による表皮
  剥脱を伴うのが通常です。
   したがって、頸部にこのような傷がある場合には、他殺の疑いが極めて強
  いことになります。このように、扼痕及びいわゆる吉川線は、検視をする際の
  着眼点として重要なものです。
   しかし、扼痕又はいわゆる吉川線であると明らかに分かるような残り方を
  する例は少ない上、特に、古い死体では、扼痕であるか腐敗による変色で
  あるかを見分けることが困難です。したがって頸部に納得のいかない傷や
  原因不明の変色がある場合には、より慎重な検視を行わなければなりませ
  ん。
ウ  手・足等
   扼殺の場合、犯人と被害者の間に攻防が行われる結果、被害者の頭部や
  顔面に損傷が存在することが多いということは前に説明しましたが、さらに、
  扼死では、被害者が窒息死するまでの間、最後の力を振り絞って暴れます
  から、手や足に擦過傷や打撲傷などを負っている例が多く見られます。
   したがって、検視に当っては、顔面や頸部だけでなく手・足などについても
  十分に調べる必要があります。

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2008年5月27日 (火)

法医学リーズン《34》

(2)  検視上の着眼点
    縊死及び絞死では、自殺・他殺の双方の場合があることから、自他殺判
   断上のポイントについて記述しましたが、扼死はその100%が他殺ですか
   ら、ここでは、検視を行う際に見落としてはならない点を中心に説明します。
   ア  顔面及び頭部等
      扼死においては、縊死や絞死の場合よりも顔面のうっ血・腫脹及び眼
     瞼結膜・口腔粘膜等の溢血点が著明に現れているのが通常ですし、時
     には、外耳孔・鼻腔等から出血していることもあります。
      顔面のうっ血・腫脹及び眼瞼結膜等の溢血点が著明に発現している
     ときには、これを見落とすことはありませんが、問題は、眼瞼結膜や口
     腔粘膜の奥の方にわずかに発現しているだけという場合です。
      このような場合、溢血点が発現していないから事件性はないと安易に
     判断することなく、まぶたを二重にまくるとか、口びるを裏返すなどして
     詳細に調べることが大切です。
      顔面のうっ血・腫脹及び眼瞼結膜等の溢血点の発現は、頸部圧迫に
     よる窒息死の定型的所見ですから、これを見落とさないようにしなけれ
     ばなりませんが、さらに、顔面及び頭部の損傷の有無についても、慎重
     に調べる必要があります。というのは、顔面及び頭部の損傷は、他人と
     争ったために生じたものが多いからです。
      もちろん、扼死体に限らず、縊死体・絞死体などのあらゆる変死体を
     検視する場合には、顔面や頭部のわずかな皮下出血や表皮剥脱でも
     見落とさないようにしなければなりませんが、特に、扼死体の場合は、
     より一層の注意が必要です。
      扼殺は、被害者の頸部を直接手や腕等で圧迫して窒息死させるわけ
     ですから、犯人と被害者との間に相当な力の差がない限り、いきなり圧
     迫できるものではありません。そこで、犯人は、被害者を痛めつけて力
     の差を広げようと殴る蹴るなどの暴行を加えることが多く、その暴行は
     被害者が窒息死する直前まで継続するものと考えられます。
      また、扼殺の場合には、窒息死するまでに相当の時間がかかります
     から、被害者の息苦しい状態も継続します。被害者は、その息苦しさか
     ら逃れようと必死に抵抗を続け、これに対して、犯人は、顔面等を押さえ
     付けるなどして被害者の抵抗を弱めようとします。このようなことから、
     扼殺の被害者が顔面及び頭部に損傷を負っている可能性が極めて強
     いということになるのです。

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2008年5月25日 (日)

法医学リーズン《33》

(イ)    扼痕の個数・形状
    扼痕は、両手で頸部を圧迫した場合には10個、片手で圧迫した場合に
  は5個というように、すべての指の跡が残っているように考えられがちです。
    しかし、現実には、すべての指の跡が残っていることは少なく、例えば、
  拇指の跡が1個だけであったり、中指の跡が1個だけということもあります。
  また、扼殺の際、被害者の抵抗により手がずれた場合には、これとは逆に
  拇指の跡が3~4個も見受けられることもあります。したがって、扼殺の場合
  にはすべての指の跡が残っているだろうという先入観を排除して検視に当ら
  なければなりません。
    また、扼痕は、頸部を手で強く圧迫することによって発現するものですか
  ら、手指が作用した形に残ります。特に、硬い爪は最も強く作用しますから、
  爪の形に相応する扼痕が残っている例が多く見られます。そのため、扼痕を
  三日月形爪痕と称している学者もあります。
    しかし、これは、定型的な扼痕の例であり、扼痕の中には、指の形とは全
  く異なったもの、例えば、ニキビをつぶした跡やカミソリ負けの跡などのような
  形状を呈するものもあり、その形状は様々です。
(ウ)    扼痕の色調
    扼痕は、その大部分が表皮剥脱や皮下出血を伴っていますから、新しい
  扼痕は通常、暗赤色を呈しています。そして、表皮剥脱や皮下出血を伴った
  部分の皮膚は、時間の経過とともに乾燥して革皮様化し、暗褐色に変色して
  いきます。
    ただ、乳幼児や病弱者のように、わずかな圧迫でも死亡してしまう者が被
  害者である場合には、表皮剥脱や皮下出血の形跡もなく、当該圧迫部の皮
  膚がわずかに淡白色に変色している程度のこともあります。この場合の変色
  は、頸部を動かすとすぐに消えてしまいますから、死体の取扱いには十分に
  注意しなければなりません。
    しかし、このような場合でも、圧迫部の皮下組織は出血しているのが通常
  ですから、当該圧迫部は、時間の経過とともに、暗紫赤色に変色(打撲後に
  見られる変色と同じ)したり、あるいは、次第に乾燥して革皮様化し、暗褐色に
  変色していきます。
エ その他の外部所見
  死斑、糞・尿失禁、陰茎の勃起、射精などの所見は、絞死の場合とほぼ同様
 です。
  なお、舌の挺出は、縊死の場合のように必ず所見されるというわけではありま
 せんが、多くの事例において見受けられます。

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2008年5月18日 (日)

法医学リーズン《32》

ウ 扼 痕
  扼殺は、手等で直接に頸部を圧迫しますから、頸部には、その証拠として
 指や爪又は腕等が作用した跡が残り、法医学上、これを扼痕と呼んでいま
 す。
  扼痕は縊死や絞死の場合における索溝に相当するものですから、この扼痕
 を見落とさないということが、検視上の最大のポイントです。
  そして、扼痕は、その形状・色調などが様々な上に、腕や足で圧迫した場合
 は、帯やタオルなどの柔らかくて幅の広い索条で絞殺した場合と同じように、
 外見的には全く扼痕が見受けられないことがありますので、十分注意しなけれ
 ばなりません。
 (ア)  扼痕の部位
     通常、扼痕は、喉頭(のど仏)の両側及び両側頸部に残されています。
   それは、扼殺する場合の多くは、犯人と被害者が正対した格好になり、犯人
   は前方から被害者の頸部の喉頭部を中心にして手を掛け、にぎりつぶすよ
   うにしながら頸部を圧迫するためです。
     しかし、子供などのように首の細い者を大きな手で圧迫した場合は、指先
   が後頸部まで達してしまいますから、その場合には、後頸部にも扼痕が見ら
   れることがあります。
     また、扼殺する場合、犯人は、頸部の上下の中間に手を掛けることが多
   いと思われますが、慌てたり、あるいは、被害者の抵抗などにより、手がず
   れたりした場合には、顎に近い部分又は逆に肩口に近い部分に扼痕が残っ
   ていることもあります。
     なお、正面から両手で頸部を圧迫した場合、通常、拇指の扼痕は喉頭部
   及びその両側に、他の指の跡は頸部の両側に残り、後方から圧迫した場合
   には、これとは逆になります。また、犯人が正面から片手で圧迫した場合に
   は、喉頭部付近に拇指の扼痕1個が残り、その他の指の跡は、いずれかの
   側頸部に残っていることになります。
     そして、これらの扼痕は犯人の利き腕を推定する資料として役立ちます。
     なぜなら、片手で扼殺する場合には、犯人は、通常、利き腕で頸部を圧
   迫することが多いはずですから、右手の扼痕が残っていれば、犯人は右利き
   と一応いえますし、両手で扼殺する場合には、利き腕の方の扼痕が強く残り
   ますから、その扼痕から利き腕を推定できるのです。しかし、犯人の力が被
   害者の力よりも極めて強い場合は、利き腕に頼る必要がなくなりますから、
   扼痕だけで利き腕を断定することは危険です。

Dscn084534
             扼 痕 の 状 況

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2008年5月14日 (水)

法医学リーズン《31》

4   扼 死
   扼死とは、頸部が手又は腕(時には足)で圧迫されることによって窒息死す
  ることをいいます。扼死はそのほとんどすべてが他殺といってもよく、自殺と
  いうことはおよそ考えられません。なぜなら、自殺しようとして自分の手で頸
  部を圧迫した場合、いわゆる息苦しい状態までは圧迫を加えることができま
  すが、窒息死前の意識が薄れて行く段階で、頸部を圧迫する力が弱くなって
  しまい、死亡するまで圧迫を続けることは不可能だからです。
   そういった意味で、扼死は、扼殺と言葉を置き換えることができます。
   扼殺は、頸部を手又は腕等で直接圧迫して窒息死させるものですから、被
  害者の抵抗が強いとなかなか成功しません。そのため、過去における扼殺
  の被害者は、子供・女性・病弱者など力の弱い者が大半を占めています。
 (1)    扼死体の外部所見
     扼死の死体所見は、絞死の場合の死体所見とほぼ同様です。ただ、扼
   頸の場合の頸部圧迫の程度は、縊死・絞死の場合の頸部圧迫よりも弱くて
   不十分な上に、気管及び血管閉塞までに時間がかかりますから、顔面の
   うっ血や溢血点は、より著明に発現します。
   ア  顔面のうっ血・腫脹
      顔面のうっ血・腫脹は著明で、時には、顔面の表皮にも溢血点が見ら
     れることがあります。最も、乳幼児や病弱者などは、わずかな頸部圧迫
     で死亡してしまいますから、顔面のうっ血・腫脹が見られないこともあり
     ます。
   イ  眼瞼結膜・眼球結膜等の溢血点
      溢血点も、顔面のうっ血・腫脹と同様に、眼瞼結膜・眼球結膜・口腔粘
     膜(くちびるの裏側・歯ぐき等)に著明に発現し、溢血点が集合して溢血
     斑を形成している例も多く見られます。ただ、時としては、眼瞼結膜の奥
     の方や口腔の奥の粘膜だけにわずかに発現していることもあり、特に、
     乳幼児や病弱者が被害者の場合には、うっ血・腫脹と同様に溢血点の
     発現が極めて少ないことがあります。

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2008年5月 7日 (水)

法医学リーズン《30》

(2) 自他殺判断上の着眼点
   絞殺、自絞死とも、同一の死体所見を呈します。したがって、死体所見か
  ら自他殺を判断することは、極めて困難です。結局は、自殺の動機がある
  か、絞頸以外に他の致命傷があるか、他人から加えられた損傷があるか、
  現場に不自然な状況はないか、などを検討して総合的に判断するほかは
  ありません。
   ただ、自絞死であるとすれば、索条の掛け方絞め方は、死者が自分の独
  力でやれるような掛け方、あるいは絞め方でなければなりませんから、その
  可能性を十分に検討することが大切です。

◎ 捜査官として、自他殺を判断する一般的着眼点

① 索条の有無
 ○ 自絞死
   ・ 索条は、頸部を絞めたままの状態になっている。
     (ただし、発見者・家族などが外していることがある)
  ● 絞 殺
   ・ 索条が頸部から外されている場合、他殺の可能性が強い。
     (統計上、約70%が索条が取り外されていた)

② 索条の種類
 ○ 自絞死
   ・ 柔らかくて皮膚に痛みを感じないようなもの、例えば、腰紐・たすき等を
    使用することが多い。
 ● 絞 殺
   ・ 革バンド・荒縄等、硬くて痛みを感じるものを使用し、特に、針金を使用
    しているときは他殺の疑いが強い。

③ 索条の継ぎ足しの有無
 ○ 自絞死
   ・ 索条を継ぎ足し、長くして使用しているときは自殺が多い。
 ● 絞 殺
   ・ その場にある物を使用していることから、継ぎ足していないことが多い。
     (ただし、計画的犯行の場合を除く)

④ 索条の部位
 ○ 自絞死
   ・ 索条は、頸部のほぼ中央部を水平かつ整然と囲周している。
 ● 絞 殺
   ・ 索条が頸部の上・下に乱れて巻かれていることが多い。
   ・ 索条が口や顎に掛かっているときは他殺。

⑤ 索条の囲周回数
 ○ 自絞死
   ・ 自殺の場合、囲周回数が多い。通常は2~3回以上巻かれていること
    が多いが、例外として、1回ということもある。
 ● 絞 殺
   ・ 他殺の場合、何回も首に巻きつけている余裕がないために、通常は
    1回、多くても2回程度である。

⑥ 索条の本数
 ○ 自絞死
   ・ 自殺の場合、1本の索条で絞めている。
     (2本以上で絞めることは、不可能)
 ● 絞 殺
   ・ 2本以上の索条で絞めているときは、他殺である。
     (1本の索条では、生き返ってしまうと考えて、さらに索条を追加して使用
      することがあるからである)

⑦ 索条の緊縛状態
 ○ 自絞死
   ・ 一般的に下側が強く、上側は緩くなっている。
     (絞めているうち徐々に力が入らなくなるため)
  ● 絞 殺
   ・ 2回以上巻かれていることは少ないが、2回以上巻かれているときは、
    一番下が強くて、途中は緩く、最後に最も強い。
     (とどめをさしている)

⑧ 索条の結節の有無等
 ○ 自絞死
   ・ 頸部に巻いた索条を結んでないことは数少ない。
     (これは、結ばないと索条が緩んで意識を回復するためであるが、例外的
     には、ゴム紐など結ばなくても緩まないものを使用した場合に、結節のな
     いことがある)
      ・ 結び目は、最初強く、終わりに従って弱くなっている。
 ● 絞 殺
   ・ 原則的には、結び目がないときは他殺である。
   ・ 結び目が多数あるとき、又は、最後の結び目が強くなっているときも他殺
    の疑いが強い。
     (これは、自殺の場合、徐々に力が入らなくなって行くため、自殺者には
     不可能なことだからである)

⑨ 結節の位置
 ○ 自絞死 
   ・ 結び目は、結ぶのに都合の良い前頸部正中や後頸部正中が一般的であ
    る。ただし、いずれかの手が不自由な者の場合、側頸部(弱い手の方)に
    あることがある。
 ● 絞 殺
   ・ 頸部の正中線にあることもあるが、一定していない。
   ・ 正中線に結び目がないときは他殺の疑いが強い。

⑩ 両端末までの長さ
 ○ 自絞死
   ・ 索条が長い場合は別として、通常、索条の末端は、結び目からほぼ同
    じ長さになっている。
 ● 絞 殺
   ・ 結び目からの索条の長さが不ぞろいの場合は、他殺の疑いが強い。
     (あわてて絞めるために、両端の長さが不ぞろいになる)

⑪ 狭雑物の有無
 ○ 自絞死
   ・ 索条の下及び間に、髪や着衣等をはさんでいることが少ない。
 ● 絞 殺
   ・ 頭髪・着衣の襟・雑草などをはさんでいるときは、他殺の疑いが強い。

⑫ 頸部損傷の有無
 ○ 自絞死
   ・ 頸部に爪痕や吉川線などの損傷はない。
 ● 絞 殺
   ・ 頸部を絞められた際、索条を取り除こうとして被害者が自分の頸部を
    引っ掻いた傷跡(吉川線)や、爪痕が残されていることがある。

⑬ 手指・掌への繊維の付着
 ○ 自絞死
   ・ 自殺の場合、自分で自分の頸部を絞めることから、手指・掌に索条の
    繊維が付着している。
 ● 絞 殺
   ・ 他殺の場合、被害者が、絞められるのを防ぐために、索条を取り除こ
    うとすることから、その指頭に若干付着していることもあるが、手掌面に
    は付着していない。

※ 吉川線=よしかわせん=警視庁の元鑑識課長、吉川氏が発表した殺人
        (絞扼殺)被害者の前頸部に縦に走る引っ掻き傷をいう。
        絞扼殺の場合、被害者は頸部にかかっている索条や加害者の
        指又は腕などをもぎ取ろうとして索条や加害者の腕ばかりでなく
        自分の頸部にまで爪を立てるために表皮を剥脱し、縦に走る創
        傷を作ることがある。この創傷を吉川線といい、吉川線があれば
        殺人とまでいわれる。

        

 

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2008年5月 2日 (金)

法医学リーズン《29》

エ  眼瞼結膜及び眼球結膜等の溢血点
   絞死の場合、頸動脈・椎骨動脈の圧迫が不十分であるため、血液が頭部
  へ流れ込んでたまることについては前に説明しましたが、その流れ込んで
  たまった血液は、やがて眼瞼結膜・眼球結膜・口腔部粘膜など柔らかい粘
  膜のところに、蚤刺大(そうしだい=蚤が刺したようなあとの大きさで直径1mm
    未満のもの)・粟粒大(ぞくりゅうだい=粟粒の大きさで直径1~2mm大のもの)・
Dscn084433_3 米粒大(べいりゅうだい=米粒の
大きさ)などの大きさににじみ出
ます。これが、溢血点ですが、
絞死の場合ではこの溢血点が
顕著で、時には、これらが集合
して溢血斑として現れることが
あります。
 しかし、これとは逆に溢血点が
不鮮明な場合や眼瞼結膜の奥の方にだけ現れる場合などもまれにありますから、 ピンセット等を用いてまぶたを二重にめくり上げて調べる必要があります。
 ※ このようにピンセットを用いて        
   調べること              

オ  死斑の状況
   死斑は、早い時期に、しかも広範かつ顕著に現れます。通常、背部・腹部
  等に多く見られますが、死亡後の体位を知る上で重要なことになりますから、
  検視においては、正確に調べることが大切です。
カ  その他の死体所見
   縊死の場合と同様に、舌が挺出し、さらには、糞・尿失禁が見られますし、
  時には、精液・月経血を漏出していることがあります。また、外耳孔や鼻腔
  から出血していることもあります。

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2008年4月15日 (火)

法医学リーズン《28》

ア 索 溝
  縊死の場合と同様、死者の頸部には索溝(絞死の場合、絞溝とも言う)が
 残っています。絞死の索溝は、縊死の場合と異なり、甲状軟骨(のどぼとけ)
  の高さのところを水平輪状に一周しているのが通常です。
  索溝の深さは、柔らかい前頸部にやや深く残っており、また、索条に結節
 がある場合には、当該結節の部分が特に深くなっています。
  さらに、索溝は、強く絞められたとき、索条が長く巻き付けられていた時、
 細い索条で絞められたときなどには、細くかつ深く残っていますが、その逆
 の場合には、浅く、時には、不鮮明で見落としがちです。死者が乳・幼児で
 ある場合には、わずかな圧力で窒息するために、索溝が不鮮明なことがあ
 りますから、十分に注意しなければなりません。
イ 皮下出血
  索溝の箇所には、皮下出血が見られるのが通常です。特に、細くて固い
 索条によって絞められた場合には、表皮が剥脱されて血がにじみ出ていた
 り、あるいは、皮膚が挫砕して血漿がにじみ、凝結して革皮状になっている
 ことがあります。これに対して、柔らかくて幅の広い索条で絞められた場合
 には、皮下出血等が見られないことがありますので注意しなければなりませ
 ん。
ウ 顔面のうっ血・腫脹
  次項で説明する溢血点の出現と同様の理由から、顔面は、著しくうっ血・
  腫脹し、口唇のチアノーゼも顕著です。ただし、これは溢血点についても
  いえることですが、乳・幼児の場合には、うっ血が見られないことがありま
  すので、十分注意しなければなりません。

Dscn084231_3
 ※ 索溝前頸部の状況

Dscn084332_2
 ※ 索溝後頸部の状況

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法医学リーズン《27》

3   絞  死
  絞死とは、索条を頸部に巻き付け、自己の体重以外の力(通常は自己の手
 又は他人の手)を利用して頸部を絞めて死亡することをいいます。
  普通、索条には、腰紐、帯、日本手ぬぐい、ネクタイ、ストッキング、縄、ロー
 プ、電気コードなどが用いられていますが、時には、被絞殺者着衣、例えば、
 浴衣の襟などを利用して絞殺する場合などもみられます。
  絞死には、他人が絞めて殺す絞殺と、自分で自分の頸部を絞めて死亡する
 自絞死とがありますが、双方とも、窒息死共通の死体所見を呈しますので、
 絞死体の自他殺の判断を誤りなく行うのは、非常に困難です。
 (1)  絞死体の外部所見
   頸部圧迫による窒息死の死体所見は、頸部内血管の閉塞と大いに関係
  がありますので、ここで、頸部内血管の状況と、その閉塞に要する圧力につ
  いて説明しておきます。
   頸部内には、外表部に最も近いところに頸静脈、その内側に頸動脈があ
  り、さらに中心部を椎骨動脈が走っています。そのために、頸静脈は、外部
  からわずかな圧力を加えただけで完全に閉塞されてしまいます。これに対し
  て、頸動脈が閉塞されるには、約3.5~5Kgの圧力が必要です。さらに、椎骨
  動脈に至っては、約20Kgもの圧力が必要である、といわれています。
   したがって、人間の手の力によって、頸動脈、中でも椎骨動脈を閉塞する
  ことは不可能に近いことです。また、絞死は、重い体重によって頸部を急激
  に圧迫する縊死とは異なり、徐々に圧迫されていきますから、頸動脈の閉塞
  にはそれなりの時間がかかります。つまり、その間に頸動脈及び椎骨動脈
  から顔面及び頭部へ血液が送り込まれますが、頸静脈が閉塞してしまって
  いるため、その血液が心臓へもどることができず、顔面や頭部にたまってし
  まいます。これが、後に説明する顔面のうっ血及び眼瞼結膜等の溢血点の
  顕著な発現の原因となるわけです。
   したがって、絞死の死体所見は、非定型的縊死と似かよった点もあります
  が、縊死とはこのような点で異なってきます。


  
 

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2008年4月10日 (木)

法医学リーズン《26》

(4)  自他殺判断上の着眼点
   縊死の大部分が自殺であることについては前に説明しました。しかし、ま
  れには、他の方法で殺害した上、これを首吊り自殺に偽装する、いわゆる
  偽装縊死の例があります。
   したがって、縊死体を検視するに当たっては、この偽装縊死を見破ること、
  すなわち、自他殺の判断を誤りなく行うことが、最も重要ですから、縊死体
  のほとんどが自殺であるからといって、先入観をもって死体を取り扱うこと
  は現に慎まなければなりません。
   次に、自殺と偽装縊死とを見分けるための一般的な着眼点を示しますが、
  実際には、この他に自殺の原因の有無・着衣の乱れ・室内や家具、調度品
  の乱れ等を総合的に検討した上で判断しなければなりません。

◎ 捜査官として、自他殺を判断する一般的着眼点

① 縊死以外の死体所見の有無
 ○ 自殺縊死
   ・ 縊死の死体所見以外の死体所見がない。
 ● 偽装縊死
   ・ 縊死以外の死体所見、例えば、致命傷となる損傷、扼痕、一酸化炭素
    中毒などがある場合は他殺の疑いが強い。

② 索溝の状況
 ○ 自殺縊死
   ・ 索溝は一本で連続している。
   ・ 定型的縊死の場合、前頸部から両側頸を対照的に後頭部上方へ向か
    う索溝があり、その索溝は、前頸部に最も深く、後頭部へ向かうに従って
    浅くなっている。ただし、非定型的縊死の場合は不統一であるが連続し
    ている。
 ● 偽装縊死
   ・ 切断された索溝が2本以上ある場合には、絞殺後、縊死を装った疑い
    が強い。
   ・ 同じ深さの索溝が頸部を一周している場合には、絞殺の疑いが強い。
   ・ 定型的縊死の場合、索溝には皮下出血がほとんどないから、索溝に皮
    下出血がある場合は、絞殺の疑いが強い。

③ 頸部の損傷等の有無
 ○ 自殺縊死
   ・ 頸部には、索溝以外の損傷はほとんどない(ただし、非定型的縊死で索
    溝がずれた場合の皮下出血を除く)。
 ● 偽装縊死
   ・ 頸部に扼痕や、索溝と直角する爪痕(吉川線)があった場合は、扼殺、絞
    殺後の偽装縊死と考えてよい。

④ 顔面のうっ血、腫脹の有無
 ○ 自殺縊死
   ・ 非定型的縊死の場合、顔面はうっ血、腫脹しているが、定型的縊死の場
    合、顔面は蒼白で腫脹していない。
 ● 偽装縊死
   ・ 顔面のうっ血、腫脹が顕著である場合、絞殺、扼殺の疑いが強い。

⑤ 溢血点の有無
 ○ 自殺縊死
   ・ 定型的縊死では通常溢血点はなく、非定型的縊死では現れる。
 ● 偽装縊死
   ・ 溢血点が著明であるとか、溢血点が集合した溢血斑が現れるのは、絞死
    扼死の特徴である。

⑥ 死斑の状況
 ○ 自殺縊死
   ・ 死斑は、上、下肢に著明に現れている。
 ● 偽装縊死
   ・ 背部、胸部、腹部などに死斑がある場合には、他の方法で殺害した後の偽
    装縊死の疑いが強い。

⑦ 尿等失禁の状況
 ○ 自殺縊死
   ・ 着衣を伝わって足先等へ流れている。
   ・ 死体の直下の床等に流れ落ちている。
 ● 偽装縊死
   ・ 背部、腹部へ失禁が回っている場合には、偽装縊死の疑いが強い。
   ・ 死体と離れた場所に失禁があったり、着衣には失禁があるのに床等にない
    場合は偽装縊死の疑いが強い。

⑧ 手指の付着物の有無
 ○ 自殺縊死
   ・ 手指に、索条と同じ繊維や索条を掛けた際の梁等のほこりが付着している。
 ● 偽装縊死
   ・ 手指に索条と同一の繊維が付着していないときは、死者が索条に触れてい
    ないことを示しており、偽装縊死の疑いが強い。

⑨ 支え木及び索条の状況
 ○ 自殺縊死
   ・ 支え木に死者本人の指紋が付いていることがある。
   ・ 支え木にささくれ立ち等はない。
 ● 偽装縊死
   ・ 死体を吊り上げた場合には、索条を掛けた支え木に上方へ向かうささくれ
    立ち(吊り上げる方)と、下方へ向かうささくれ立ち(反対方向)が見られる。
   ・ 死体を吊り上げた場合、索条に圧平化や起毛現象が見られる。
  

   

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2008年4月 6日 (日)

法医学リーズン《25》

イ  顔面のうっ血・腫脹
   定型的縊死の場合には、頸部が急激かつ完全に閉塞され、血液が顔面
  及び頭部へ流れて行かないために、顔面は蒼白で、うっ血や腫脹は見られ
  ません。これに対し、非定型的縊死の場合は、全体重が頸部に掛からなか
  ったり、又は、索条が完全に頸部全部を絞める働きをしないなどの理由に
  より、頸静脈だけが閉塞し、頸動脈の閉塞は不十分です。
   そのため、顔面等から心臓へ戻ることができなくなった血液がたまって、
  顔面にうっ血・腫脹が現れるのが通常です。
ウ  眼瞼結膜・眼球結膜の溢血点
   定型的縊死の場合には溢血点が見られないのが通常ですが、非定型的
  縊死の場合には、眼瞼結膜・眼球結膜に多数の溢血点が現れています。
エ  舌の挺出
   索条によって頸部が圧迫される際に、舌根部が押し上げられることから、
  定型的縊死・非定型的縊死を問わず、歯列の間から舌が出ているのが通
  常です。
オ  唾液等の流出
   索条によって、唾液腺が圧迫されるために、唾液が口から流出していま
  す。また、鼻汁の流出も見受けられます。
カ  尿等の流出
   尿及び大便を排出している(失禁)ことが多く見られます。また、男性の場
  合には、陰茎が勃起し、精液を漏らしていることがあります。これは、窒息
  の際の痙攣によるものです。
   ところで、尿や唾液・鼻汁などは下方へ流れますので、その流れ方から
  死亡時の体位等を推定することができます。特に、失禁尿は、直下の床な
  どに流れ落ちることが多いことから、その失禁の跡が縊死体から離れてい
  る場合には、死亡後に死体を移動したことが推定されます。
   したがって、失禁の状態を確認することは、死体観察上、重要なことです。
キ  死斑の現出状況
   死斑は、リーズン《6》で説明したとおり、死亡時の体位の下方に現れるもの
  ですから、いわゆるぶら下がった状態で死亡している縊死では、上・下肢に
  著明に現れます。また、頸部を圧迫している索条から約1センチメートル上方
  の頸部や顔面にも現れます。
   なお、死斑は、死後約10時間後では転移しませんので、死斑の現出状況
  から死亡時の体位を知ることができます。例えば、背部・腹部等に死斑があ
  る縊死体(早期で死斑の転移期にあるものを除く。)は、死亡後に死体を移動
  したことを現していますから、犯罪による死亡である可能性がでてきます。
ク  痙攣期における損傷
   縊死には損傷を伴わないのが通常です。しかし、窒息時の痙攣の影響に
  よって、周囲の物体に手・足等を当て、このため表皮剥脱や皮下出血ができ
  ることもありますから、死体に損傷がある場合には、周囲の状況から見て自
  傷の可能性があったかどうかを検討することが必要です。

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2008年4月 2日 (水)

法医学リーズン《24》

(3) 縊死体の外部所見
   定型的縊死と非定型的縊死では、頸部の圧迫の程度に大きな相違があ
  りますから、死体所見も全く異なったものになります。
  ア 索 溝 (写真参照)
    死体から索条を取り外すと、頸部には、索条の後を示す索溝が残って
   います。
Dscn084153_2 定型的縊死の場合、この索溝は、前頸部
において最も深く、側頸部を左右対象に走
り、斜め上方に向かうに従って浅くなり、後
頸部で消失していますが、非定型的縊死
の場合には、体が倒れかかっている方向
に最も強く、その反対側へ向かうに従って
弱くなっているのが通常で、体位及び索条
のかかり方によって不統一の現れ方をし
ます。 
なお、針金やロープなどのように細くて硬
い索条を用いた場合には、頸部の表皮が
すりむけ(表皮剥脱)、革皮様化して暗褐色を呈するために、索溝が顕著に現れます。
これに対し、帯やタオルなどのように柔らかくて幅の広い索条の場合には、表皮    剥脱がなく、単に索条と同じ幅の蒼白の陥凹(蒼白帯)が見られるだけという場合   が多くあります。
     この蒼白帯は、頸部を動かすと消失してしまいますので、死体の取扱いに当たっ  ては十分に注意しなければなりません。
    また、首を吊って間もなく、死体から索条を取り除いた場合には、索溝は
   薄く、しかも、検視の時期が早い場合には、圧迫部の皮膚乾燥(革皮様化)
   が進んでいないため、変色がみられない場合がありますので、索溝を見落
   とさないようにしなければなりません。

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2008年3月29日 (土)

法医学リーズン《23》

(1)   定型的縊死
   定型的縊死とは、足が地上から完全に離れて全体重が索条に掛かり、
  しかも、索条が前頸部から左右対称的に両側頸部を後ろ上方に向かい、
  耳介の後方から後頭部に達している形態の縊死を言います(下記参考図
  参照)。
   なお、定型的縊死では、体重の全部が急激に頸部へ掛かるため、頚動
  脈はもとより、椎骨動脈までも完全に閉塞されてしまいますので、頭部や
  顔面への血液の流れも完全に止められてしまいます。

    定型的縊死の全体図
Dscn083726_2

    定型的縊死の索条の状況
Dscn083827_4
Dscn083928_8
  したがって、定型的縊死の死体
 所見は、同じ窒息死である非定
 型的縊死・絞死・扼死などとは異
 なった現れ方をします。












(2)  非定型的縊死
   定型的縊死以外のすべての縊死を非定型的縊死といいます。
   すなわち、足その他身体の一部が地上に着いていて、全体重が頸部に掛
  かっていないものや、索条の掛かり方が左右対称でないもの、あるいは、索
  条の結節が側頸部や前頸部にあるものなどが非定型的縊死です(下記参考
  図参照)。
   そして、非定型的縊死の多くは、全体重が頸部に掛からないため、頸部の
  閉塞は不完全で、椎骨動脈や頸動脈から血液が頭部及び顔面へ流れてい
  きます。その結果、定型的縊死に近い非定型的縊死を除いては、窒息死特
  有の死体所見が見られる場合がほとんどです。

Dscn084029
  
     

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2008年3月 9日 (日)

法医学リーズン《22》

2  縊 死
  縊死とは、索条(紐・縄・ロープなど)を頸部(首)に巻き付け、その一方を樹木
 や建物などの高いところに固定して吊り下がり、自己の体重を利用して頸部
 を絞めて窒息死する、いわゆる、首吊りのことをいいます。
  縊死の場合、そのほとんどは自殺です。しかし、過去には、他の方法で人を
 殺害した後、首吊り自殺に見せかけた事例や自殺では世間体が悪いと考えた
 家族が、縊死を病死であるとして捜査機関に届け出たという事例などもありま
 すので、縊死の死体所見についても十分に理解しておく必要があります。
  なお、縊死の場合、頸部に巻き付けた索条を、首の前後あるいは左右で結
 んで輪状にしている形態のものと、結び目を作らず首にそのまま掛けている形
 態のものとがありますが、法医学上、前者を結節蹄係、後者を開放蹄係と呼ん
 でいます。そして、この形態は違っても、縊死は、自己の体重を利用して頸部を
 強く締め付けることから、頸部に索条の跡が必ず見受けられますが、これを索
 溝又は縊溝といいます。
  ところで、縊死は、索条の巻き付け方や索条に対する体重の掛かり具合に
 よって、定型的縊死と非定型的縊死とに分けられています。
  もっとも、定型的縊死だから自殺、非定型的縊死だから他殺というような区
 別は不可能ですから、自他殺を判断する上での直接の資料とはなりませんが、
 その死体所見には大きな違いがありますので、検視をする上で重要な区分で
 す。

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2008年2月29日 (金)

法医学リーズン《21》

(4)  窒息死体の一般的外部所見
   このような所見があれば絶対に窒息死である、と断定できるような窒息死
  特有の死体所見というものはありません。窒息の種類や経過によって異な
  った死体所見を呈するからです。したがって、その死因が窒息なのか否かを
  判断することは非常に困難ですが、結局、当該死体には窒息死にしばしば
  見られるような死体所見があるかどうか、窒息の原因となった痕跡があるか
  どうかなどを総合的に検討して判断するほかはありません。
   窒息死体には、通常、次のような所見があります。
  ア 顔面がうっ血し浮腫状(チアノーゼ・・・顔面がうっ血し、むくみあがった状
       態)を呈しています。しかし、通常、定型的縊死や鼻口圧迫による外呼吸口
   の閉塞(特に乳幼児)などの場合には、このような所見はありません。
  イ 眼瞼結膜(まぶたの裏)・眼球結膜(目玉の白い部分)などに溢血点が出て
   います。ただし、定型的縊死や鼻口圧迫による外呼吸口の閉塞などの場
   合には、溢血点の発現もないのが通常です。
  ウ 死斑が早くかつ強く現れます。これは、窒息死した場合には、血液が流
   動性になるためであるといわれています。ただし、溺死の場合には、死斑
   が見られないのが通常です。
  エ 糞・尿・精液を洩らし、時には、陰茎が勃起していることがあります。
    これは、死亡直前における痙攣によるものといわれています。
  オ 頸部圧迫があったときには、舌をかんでいます。これは、頸部を圧迫す
   ると、同時に舌根部が押し上げられるために、舌が口から出てしまうことに
   より生じる所見です。
(5) 窒息死体の内部所見
   窒息死の内部所見については、3大所見といわれているものがありますが、
  これは、解剖の結果、初めて分かることなので、ここでは、その項目を挙げる
  にとどめておきます。
  ア 血液が暗赤色で流動性になる。
  イ 心臓・肺臓等の臓器に溢血点が現れる。
  ウ 各臓器がうっ血している。

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2008年2月14日 (木)

法医学リーズン《20》

(3)   窒息の症状及び経過
   窒息の症状及び経過については、一般的に、

  ① 窒息開始後20~30秒は無症状(前駆期)
  ② 次いで、呼吸運動が激しくなって失神する(呼吸困難期)
  ③ 引き続き、痙攣が起きて、手・足をばたつかせ、痙攣が最も強いとき
    には、全筋肉がいちじに収縮して全身が一本の棒のようになることさ
    えある。また、大小便・精液を洩らす(痙攣期)
  ④ その後、呼吸運動や痙攣が止まって静かになる(呼吸停止期)
  ⑤ さらに、再びあえぐような呼吸を始める(あえぎ呼吸期)                                         
       このあえぎが止まると、再び呼吸を始めることはありませんが、心臓は
  その後、5~20分間搏動を続けます。なお、窒息が開始されてからあえぎ
  呼吸が停止するまでの時間は、通常3~5分である、といわれています。
   ところで、前に説明したように、人の体内の各臓器が活動を続けるため
  には酸素が必要不可欠であり、体内の酸素が不足すると各臓器が障害を
  受けます。そして、身体の組織の中で酸素を最も多く必要とするのは脳で
  すが、特に、知覚・判断などの高度の精神作用を営む部分に当たる大脳
  皮質細胞は、最も酸素を必要とします。もし、窒息の原因である呼吸障害
  が生じると、その後わずか3分くらいで細胞が死滅するといわれています。
   また、呼吸や循環を支配する中枢は、酸素不足に対する抵抗性が比較
  的強いのですが、それでも10分くらいで完全に細胞が死滅するといわれて
  います。
   したがって、窒息が始まってから3分以上が経過した場合には、大脳皮
  質細胞が死滅していますので、たとえ生命は助かっても、意識がないまま
  いわゆる植物人間の状態になってしまいます。
   また、3分以内に窒息状態から助けられた場合には、意識は戻りますが、
  その後、逆行性健忘症が起こることがあります。そうすると、窒息前のある
  時点から意識回復までの間の出来事をすべて忘れてしまいますから、例
  えば、首を絞められて窒息したのに、その事実さえ記憶にないという事態
  も生じます。
   ですから、絞頸を手段とした殺人未遂事件などの場合には、この点につ
  いて十分注意しなければなりません。

  

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2008年2月 4日 (月)

法医学リーズン《19》・・・(付)死因究明、遺族置き去りについての考察

(2)  窒息の原因
  外窒息の原因は、通常、①気道の閉塞、②呼吸運動の障害、③低酸素空
 気を吸入する場合の三つに大別されますが、具体的な外窒息の態様には、
 次のようなものがあります。
 ア 外表からの気道圧迫による気道閉塞・・・縊頸・絞頸・扼頸
 イ 鼻口圧迫等による外呼吸口の閉塞・・・手・乳房・衣類等による鼻口圧迫
 ウ 固形物等の吸引による気道閉塞・・・もち・硬貨・玩具などの吸引
 エ 液体吸引による気道閉塞・・・溺死
 オ 胸腹壁圧迫による呼吸運動障害・・・土中埋没・機械等による胸腹部圧迫


※ 死因究明 遺族置き去り(読売新聞 08'2.4朝刊)についての考察

 新聞の内容は省略するが、確かに検視制度の見直しの時期が来ていることは事実であろう。
 この問題は検視を担当する警察官、あるいは診断書(死体検案書)を作成する医師、報告を受ける検事のそれぞれがもう少し、法医に対する理解と能力があればかなり改善されることであろうと思う。
 また、警察も単に司法警察員の資格があるというだけで安易に検視・検案に当たらせていることはないと思うが、国家資格とまでは行かないまでも内部において、担当官としての何らかの資格を設けてもよいのではないか。各種令状を請求する指定司法警察員のように公安委員会の指定を受ける等の方法もあるし、そのためには特別な教養・審査を行い、必要な能力を身に付けさせることも可能であろう。検視官(刑事調査官)と言われる本官は、それぞれ大学の医学部法医学教室(講座)等でそれなりの研修を受けていると聞くが、すべての警察官にこれを行うことは物理的にも不可能である。変死は何でも警察という考え方にも、全てを警察の責任とする体制にも無理がある。

 さて、新聞によれば、07'の警察が取り扱った異状死体は15万4579体(交通事故死を除く)とのことであるが、では、実際に検視・検案の必要だった死体は何体だったのであろうか?
警察には、明らかに病死である死体についても、異状死体として届けられれば見分の義務は課せられているし、自殺死体についても見分の対象となる。自殺死体は見分をして当然であろうが、病死が明白であるにもかかわらず検案対象として警察が取り扱うというあたりに問題がないのであろうかと考えてしまうのは私だけではないと思う。
 これら全てを計上した数字が15万4579体ということであろうが、この中に明らかな病死は果たして何体あるのか、どの位の割合を占めるのかという問題もあろう。
 もし、それらの死体を除けば本当の異状死体というのはどの位の数になるのであろうかということも知りたいものである。

  この問題は、制度見直しに関し、真剣に検討する必要の事であると思う。解決策は何かと考えたときに、まず、頭に浮かぶのが「医師法」である。
この法律は、旧世代の遺物とも思えるほど古く、内容的にも多くの問題を抱えており、本件については、特に第20条がネックとなっている。
 医師は自分が診た患者でさえ、診療時から24時間を過ぎてしまえば死亡診断書は書けないのである(同条但し書きの特例はあるが)。然るに、死亡者は要検案死体として警察が介入することとなり、異状死体として検視を受けることとなる。これこそ、遺族の感情は如何ばかりかと思う。
 この際に医師法の改正ということも検討してみては如何であろうか。もっと、医師に幅広い権能を与えても良いであろうし、少なくとも、警察官よりは専門知識を持っているということには社会的にも首肯できるところであろうから、そうすることによって、警察の機能の配分、時間的余裕も図られることとなり、より正確な正しい検案を期待できることになると思う。

 また、解剖に関しては、全ての異状死体を解剖に付す必要はもちろん無いし、なんでも解剖すれば良いというものでもあるまい。明らかに病死者である者の遺族によっては、非常に奇異感を持ったり、死者に対する肉親感情というものもあり、事件あるいは事件性の疑われるものは司法解剖を当然としても、安易に解剖率を上げるだけが良いとは考えものである。
 解剖さえすれば何でも判るというのも早計で、これこそ解剖医の知識経験、能力に待つところが大なのであることも承知しておく必要があろう。

 いずれにしても、司法、行政、法医の各機関が協力し、知恵を出し合って解決策を模索し、関係法令等の整備改善を立法機関に働きかける事によって、誰もが信頼できる納得のいく社会秩序を一日も早く実現してもらいたいものである。

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2008年1月31日 (木)

法医学リーズン《18》

各  論

~窒 息 死~

1 概 説
 最近は刃物等による殺人事件が多発の傾向にあり、世間の耳目を集めてい
ますが、被害者の死因をみると相変わらず多いのが、絞頸及び扼頸による窒
息死であります。また、自殺者にしても、首を吊ったり、自分で自分の首を絞め
たり、あるいは、入水したりしてやはり窒息により死亡する場合がほとんどです。
 また、稀にではありますが、人を殺害した後に、首吊り自殺に見せかけたり、
死体を水中へ投げ込んで入水自殺や過失死に見せかけるという偽装事件など
も見られ、同じ窒息による死体であっても、その原因や態様は様々です。
 このように、縊死(いし)・絞死(こうし)・扼死(やくし)・溺死(できし)などの窒息死
は、犯罪といろいろな面でかかわりを持っており、窒息死ほど、死因の究明や
自他殺の判断が困難なものはないといわれています。

(1) 窒息の定義及び種類
   人が生命を維持するためには、空気中から体内に酸素を取り入れ、体内
 にできた老廃物である炭酸ガスを体外に排出しなければなりません。これを
 もう少し詳しく説明しますと、体内に吸収された酸素は、肺臓で血液の中に取
 り入れられ、血液中の赤血球(主としてヘモグロビン)と結合して体内の各細胞
 に運ばれます。体内の各細胞は、この酸素の働きによって細胞内物質を酸化
 させてエネルギーに変え、新たな細胞や生命に必要な物質を作り出します。
  他方、酸素の入れ換えによって体内で老廃物となった炭酸ガスは、各細胞か
 ら血液の中に溶け込んで肺臓に運ばれ、ここから空気中に排出されます。
  このことからも分かるように、酸素の取り入れ→ガス交換→炭酸ガスの排出
 という一連の交換作用は、人の生命を維持するために極めて重要なものです
 が、この交換作用を呼吸といいます。そして、肺臓における酸素の取り入れと
 炭酸ガスの排出を外呼吸、細胞内における酸素と炭酸ガスの交換を内呼吸と
 いいますが、これらの呼吸が常に正常に行われるとは限りません。何らかの
 原因によって呼吸が妨げられることがあります。例えば、鼻や口を完全にふさ
 がれると、外呼吸が妨げられますし、青酸カリを飲むと、薬理作用によって細
 胞が酸素を摂取できなくなり、内呼吸が妨げられます。このように、呼吸が妨
 げられた状態を窒息といい、その窒息が原因で死亡することを窒息死といい
 ます。
  そして、医学的には、外呼吸の妨げによる窒息を外窒息、内呼吸の妨げに
 よる窒息を内窒息と区別していますが、法医学的には窒息死という場合は、
 通常、外窒息による窒息死を指し、青酸カリを飲んで内窒息を起こして死亡し
 たような場合は、中毒死として取り扱っています。
  したがって、本項では、専ら外窒息による窒息死についてのみ説明し、中毒
 死については別項とします。

 

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2008年1月29日 (火)

法医学リーズン《17》・・・(付)福岡県警事案考察

エ ミイラ
  腐敗や融解することなく乾燥した死体をミイラといいます。ミイラは、気温が
 高く、かつ、乾燥した場所に置かれた死体の皮膚や軟部組織から水分が急 
 激に蒸発して、腐敗や融解よりも早く死体が乾燥してしまうために起こる現象
 です。
  したがって、熱帯地方や砂漠地帯では、死体が自然にミイラになるようです
 が、我が国は、夏季には湿度が高いためにミイラになることはあまりないよう
 で、冬季の乾燥時に温度の高い場所に存在した死体に、ときたま見られる程
 度です。
  砂漠地帯などでは短時間のうちにミイラ化するといわれていますが、我が国
 では、普通3~4ヶ月くらいかかるといわれています。

 死体現象は、死後経過時間の推定・死因の究明などを行う上において、極め
て重要なものです。しかし、今まで述べたいずれの現象も、死体の存在する場
所、温度、湿度、通風性などの外的条件や、死体の体格、生存時の健康状態
などの内的条件に大きく左右されますので、一律に判断することはできません。
 したがって、その取扱いに当たっては、すべての条件を総合的に観察した上
で、判断することが大切です。


 総論ならびに死体現象については、今回で終わりますが、次回からは各論に
はいります。各論になりますと非常に具体的に述べざるを得なくなり、色々と難
しい局面や内容表現に厳しい問題も出てきますので、種々の反応や状況を見
ながら進めて行きたいと思っております。
 その辺のところを、当ブログへのご訪問者の方々にはご理解を頂き、ご意見
やコメントを頂ければ有難く思います。


※「検視で病死、実は頭打撲・米男性04年急死」(08'1.29 読売新聞朝刊)
  に対する考察

 福岡市中央区の自宅マンションで2004年に米国男性がベッド上で死亡しているのが発見され、県警中央署は、左側頭部に「こぶ」があったが軽度と判断、検視だけで「病死」として処理をした。その後、遺族の要望により解剖し、「頭部打撲による脳挫傷」と判明したが、県警は「転倒による事故死」として事件性はないと判断したというものである。
 現場を観察したわけでもなく、まして、死亡者の遺体を見たわけでもないが、新聞報道から鑑みるに、所轄の初動措置の甘さがまたまた露呈したと言わざるを得ないような事案であり、ここでも、検視担当官の未熟さからくる詰めの甘さが問題となりそうである。
 現場の状況はともかくとして、本屍の側頭部に鶏卵大の腫脹があるだけでもそれを徹底解明しなければならないし、この時点で要解剖死体と判断すべきであったと思うが如何であろう。鶏卵大と言う大きさはそう簡単に出来るものではないし、後頭部であれば直接強打する可能性もあり、自己転倒による自損という事も考えられなくはないが、まして側頭部であるとすれば、立歩行している人間の体側には肩(肩峰)部があり、腕(上腕、前腕)があるので、その部分で防御せずに直接側頭部を強打するということは考えにくい。座位であれば尚更である。
 また、耳や鼻からの出血があった由、新聞には書かれているが、軽度のこぶでこのような出血は起こり得ないと考えるのが妥当であると思う。
 解剖の結果も、左側頭部同腫脹下に(水平、垂直は分からないが)長さ約20cmの亀裂骨折と脳挫傷が存在したということである。これだけ見ても、かなりの強い外力が加えられたものと推定できる。おそらく、コントルクーも存在していたと思われる。
 さらに知りたいことは、尿失禁は何処にあったか、出血に伴う血痕あるいは滴下血痕の有無とその場所、毛髪の付着場所とその量、「こぶ」に創はないのかなどであるが、部外者には知る由もなかろう。
 いずれにしても、こういう事案が発覚するたびに、警察の検視検案体制の弱さ、能力のある人材の少なさを痛感し、少しでも早い担当者の資質の向上と体制強化を図らなければならないと思う。
 あくまでも私見だが、本件は他為介在のあった事件の可能性を否定しきれないものである。

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2008年1月27日 (日)

法医学リーズン《16》

イ 白骨化
  死体の腐敗・融解が進行していくと、死体の軟部組織はすべて分解し、最
 後には骨格だけが残ることになりますが、これが死体の白骨化です。
  白骨化に要する時間も、やはり、種々の条件に左右され一定していません
 が、一般的には、野外に放置された成人死体の場合、夏季で2~3週間、春
 秋では数ヶ月で白骨化し、土中の場合には、大人が5~10年、小児は3~5年
 で白骨化するといわれています。
  しかし、蛆や蟻などに蚕食された死体では白骨化が早く、また、夏季には、
 一週間で白骨化した例などもあり、白骨化に要する時間についても一律には
 判断できません。
  なお、白骨化した骨は、脂肪分が徐々に減少し、死後20~30年を経過す
 ると、もろく、折れやすくなります。

ウ 死蝋化
  死体が水中または水分の多い土中などで空気の流通が不十分な場所に置
 かれますと、その死体はやがて灰白色のもろい蝋様物となり、それが次第に
 硬くなって石膏状になります。これが死蝋化です。
  死蝋化は、湖・沼・井戸の中などに長く置かれた死体やアルカリ性の高い
 土地に埋められた死体などに多く見られ、また、脂肪分の多い人は死蝋化し
 やすいといわれています。
  普通、死蝋化が始まるのは、死後2~3ヶ月くらいからで、全身が死蝋化する
 には約一年かかるといわれています。しかし、これも一般的な基準であって、
 中には、死後1ヶ月で完全に死蝋化したという例もあり、個々の例によって、
 その進行速度は大きく異なります。したがって、死蝋化の程度から死後の経
 過時間を判断するのは極めて困難です。
  死蝋化した死体は、そのほとんどが原形のまま保存されますので、生体時
 の損傷などが分かることがあります。ただし、死蝋化した死体を取り出し、空
 気中にさらすと、再び腐敗が起こり始めて崩壊することが多いので、その取扱
 いに当たっては注意する必要があります。

※ 蚕食=さんしょく=蚕が桑の葉を食べるように、次第に侵略していくこと。

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2008年1月26日 (土)

法医学リーズン《15》

(イ) 蛆(うじ)
    蛆の発生は直接の死体現象ではありませんが、蛆は、死後の経過時間
   を推定する上で大いに役立つ資料となり、死体現象(腐敗)と深いかかわ
   りがありますので、ここで簡単に触れておきます。
    蠅(はえ)は、あたかも死臭に吸い寄せられるようにして死後間もない死
   体にやってきます。そして、死体に創(きず)があればその創口に、創がな
   ければ、死体の開口部、例えば、眼・鼻・口・肛門などに産卵します。
    蠅が産み付けた卵は、蛆からさなぎとなり蠅に成長しますが、その蛆が
   成長する過程(大きさ)から、大体の死後経過時間を推定するわけです。
    なお、腐敗度の高い死体では、その表面の皮膚のいたるところに、小さ
   な穴が見られることがありますが、これは蛆が死体内に侵入する際、むし
   ばんだ跡です。
    しかし、これも、季節や温度あるいは蠅の種類によって違ってきますので
   蛆が何ミリメートルであるからその死体は死後何日を経過している、と一律
   に判断することはできませんが、その判断の目安とするために、実測統計
   上の大まかな基準を示しておきます。

 月      3月   4月   5月   6月   7月   8月   9月   10月   11月
  \
日数等      
半 日   卵   卵   卵   卵    2.0       2.0      卵    卵    卵

1  日   卵   2.0      2.5       3.0       4.0       4.0      3.0        2.0        卵

2    日   2.0     2.5      3.0       4.0       6.0       7.0      4.0        3.0       2.0

3    日       2.5     3.0      4.0       5.0       9.0       9.0      6.0        4.0       3.0

4  日      3.0      4.0      5.0       7.0      11.0     11.0     8.0        5.O      4.0

5  日   4.0      5.0       7.0       9.0      12.0     12.2    10.0       6.0       5.0

6    日      5.0      6.0      8.0       10.0                          11.0      7.0        6.0

7    日      6.0      7.0      9.0       11.0                          12.0                     

8    日     7.0      8.0       10.0      12.0                                                      

9  日     8.0      9.0       11.0                                                                  
                                                                                                          
10   日     9.0     10.0      12.0   

※  単位はmm                                                                                  

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2008年1月22日 (火)

法医学リーズン《14》

(3) 晩期の死体現象
   死体は、通常の場合、死後24時間を経過したころから、腐敗などの現象
  を起こし始め、さらに時間が経過すると身体の軟部組織はその経過ととも
  に崩壊して、ついには白骨化してしまいます。また、時には、このような経
  過を経ることなく、ミイラや死蝋などの永久死体となることもあります。
   このような死体の変化を、晩期の死体現象と呼んでいます。
 
 ア 腐敗・融解
   人の体内、すなわち、胃・腸・気管などには多くの細菌が付着しています
  が、生存中は殺菌作用などによってその健康が保たれています。
   ところが、死亡するとこれらの細菌が急激に増えていき、その増殖した
  細菌の作用により、身体の細胞や組織が分解されていきます。
   これが死体の腐敗です。
   また、死体は、臓器の組織内にある酵素の作用(融解)や真菌カビによる
  酸化(風化)などによっても細胞が分解されますが、これらは、ほとんど併行
  して起こり始めますので、ここでは、これらの現象を併せて単に腐敗として
  説明することにします。

  (ア) 腐敗速度
     腐敗の速度は、空気の流通度などの外的条件や、年齢・体質・死因
    などの内的条件によって著しく左右されます。一般的に、空気の流通が
    よければ腐敗が促進され、逆に悪ければ遅延します。したがって、死体
    の腐敗は、空気中が最も早く、次に水中、地中の順であるといわれ、そ
    の比率はおおむね、空気中1:水中2:地中8の割合であるといわれてい
    ます(カスペルの法則)。
     腐敗は、温度が20゜~27゜Cの間で適当な湿度があるときが最も早く進
    行するといわれており、身体の組織内に水分もしくは脂肪分の多い者や
    新生児及び幼児などについては腐敗速度が普通より速くなります。
     また、5゜C以下の温度では腐敗しません。

    腐敗の状況についての基準

      経過日時           腐 敗 の 状 況

      1~3 日     下腹部・鼠径部などが淡青藍色若しくは淡緑色に   
                変化する。眼球は柔軟となり弾力性を失う。

      3~5   日     皮膚は紫緑褐色を呈し、背部・胸腹部・四肢は斑
                紋状に変色する。

      8~12 日     皮膚の変色部から汚赤褐色の樹枝状の静脈が
                透見できるようになる。

      14~20 日     腐敗は高度に進行し、死体の各所に血様色の液
    (夏 8~10日)    を容れる水泡が生じ、表皮が容易に剥離できる。
    (冬20~30日)    皮下組織内に腐敗ガスがたまり、いわゆる巨人様
                観を呈する。

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2008年1月20日 (日)

法医学リーズン《13》

オ 角膜の混濁
  死後、時間が経過すると、角膜(黒目の部分を覆っている膜)に点状ないし
 小斑状の混濁が生じてきます。そして、その混濁は徐々に白さを増していき
 やがては瞳孔が見えなくなるまで混濁してしまいます。
  このように、角膜が混濁する原因について、従来は、角膜が乾燥するため
 に起こる現象であるといわれてきました。
  ところが、その後の研究によって、目を閉じた死体や水死体においてもこ
 の現象が見られることから、角膜の細胞成分である蛋白質が死後に変化を
 起こすための現象であることが明らかにされています。
  角膜の混濁の程度については、法医学者によって、透明・微混濁・軽度混
 濁・中度混濁・高度混濁とか、軽度の混濁・中等度の混濁・高度の混濁など
 に区分されていますが、その過程によって細分化されていることであり、特に
 大きな違いもないことから、今回は後者の区分に従って混濁の状況を説明
 します。

   区  分       経過時間        角膜混濁の状況    

  軽度の混濁    5 ~ 6 時間   点状あるいは斑状に軽度の白い
                         混濁が起こってくる。

  中等度の混濁  10 ~15 時間   角膜全体が薄く混濁してくる。瞳孔
                         は黒い部分の形が分かる程度に
                         見える。

  高度の混濁    24 ~36  時間   混濁は著明となり、全体に白濁して
                         瞳孔は全く見透し得なくなる(黒目の
                         部分が分からなくなる状態を指す)。

   ※ ただし、死体が開眼している場合や温度が高い場合には、混濁の
     進行も早い。

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2008年1月19日 (土)

法医学リーズン《12》

エ 体表の乾燥
  人の身体は常に水分を発散させています。そして、この作用は死後も続き
 ますから、水分の発散だけで補給が全く行われない死後においては、皮膚及
 び粘膜は急激に乾燥していきます。
  特に、粘膜が外部に露出している口唇、大(小)陰唇、肛門や体表面積の広
 い陰のうなどは水分の蒸発が強いために、乾燥して硬くなり暗褐色を呈し皮
 革のようになります。この現象を革皮様化といいます。
  また、生前または死後にできた表皮の剥脱部、火傷部、湯潑部、絞扼の痕
 部なども、乾燥が比較的に速く、革皮様化します。
  この革皮様化は、死後2~3時間くらいで形成されるといわれていますので、
 革皮様化のない死体は、死後2時間以内の死体ということができます。
  ただし、水中にある死体には革皮様化はありません。
  なお、乳児の死体の場合に口唇が黒ずんでいることがありますが、これは、
 粘膜のやわらかい乳児の口唇が唾液等にぬれていた場合に、その部分が
 急激に乾燥することによってできる現象で、いわゆる“かたかわき”といわれ
 ているものです。

※ 剥脱=はくだつ=はがれ取れている状態。

※ 湯潑傷=とうはつしょう=高温蒸気、高温液体等の接触によって起こる皮膚
                 など身体組織の損傷をいう。

※ 絞扼=こうやく=絞痕、扼痕のこと。
           絞痕=索条の圧迫、擦過等によってできた頸部の表皮変色
               陥凹部をいう。
           扼痕=手または指で絞めたときの圧痕。

  

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2008年1月 9日 (水)

法医学リーズン《11》

(え)  硬直の緩解
   硬直は、一定の時間が経過すると、先に硬直した方から順次解けていき
  ますが、硬直の解ける時間もやはり種々の条件に左右されます。
   例えば、夏期及び暖かい場所では早く解け、冬期及び冷たい場所では遅
  く、時には数週間も解けないことがあります。また、これは、体格や着衣など
  によっても差異を生じますが、一般的には、大人では2~3日、小児では10
  時間内外で解けてしまいます。
   このように、死体の硬直も種々の条件によって大きく左右され、一律に判
  断することは出来ませんが、下行型の一般的基準は次のようになります。
  
  死後経過時間 |            死体硬直の状況
  
       1   時  間    下顎に軽く硬直が始まる。

   2~3 時 間    下顎及び項関節に硬直が現れる。
   
   4~5 時 間  上肢の関節に硬直が現れる。最硬直が可能である。

   7~9 時 間  硬直が下肢の関節まで及ぶ。最硬直は起こらない。

   10~12時間  硬直は全身に及び強くなる(死後24時間くらいまで最強
            状態が持続する)。

   24    時 間  夏期及び暖かい場所では緩解し始める(冬期及び冷たい
             場所では、なお強い硬直が持続する)。

   30    時 間  下顎の硬直が緩解し始める。

     48  時  間 下肢の硬直が緩解し始める。  
 

※ 緩解=かんかい=ゆるんで戻ること。




   

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2007年10月16日 (火)

法医学リーズン《7》

(イ) 死斑の転移等
    死斑が発現する理由については前に説明したとおりですが、
   死後数時間以内に死体の体位を変えると、初めに発現していた
   死斑は消退していき、新たに下方となった身体の部分に死斑が
   発現してきます。これが死斑の転移と呼ばれる現象です。
    ところで、死斑は、何時までも転移するものではありません。
   すなわち、体位の下方の毛細血管にたまっていた血液は、5~
   6時間を経過した頃から血管の外へ浸出していき、やがてはそ
   の近くの組織の中に
浸潤してしまうからです。したがって、死斑の
   転移が完全に起こるのは、死後4~5時間までで、死後6~7時
   間経過した場合には古い死斑はそのまま残り、新しく生じる死斑
   は薄いものとなります。さらに、死後10時間以上経過すると、ほ
   とんど転移しなくなります。 また、死斑を指で押した場合、死後
   5~6時間ではその色は簡単に消えてしまいますが、死後10~
       12時間経過すると、指で押しても消えにくく、15~16時間以上経
   過すると、ほとんど消えなくなります。

※ 浸潤・・・濡れてうるおうこと。しみこむこと。(血液浸潤)

「時津風部屋、序の口力士急死に対する一考察」
 新聞報道から、事のなりゆきは周知のとおりてあるが、斉藤 俊さんの急死事
案に付いて考察するに、なぜ、遺体に無数の創傷のある状態にもかかわらず、
いとも簡単安易に死因を決めつけてしまったのか、しかも、急性心不全などと
いう、素人でも首をかしげたくなる病名で。
 今回は、警察庁も愛知県警も死体見分の不完全、初動捜査の不徹底、その他
事案の見通しの甘さ等について、その不適切な取扱いを認めてはいるが、その根
底にある要検案死体としての取扱いについての詰めはできているのであろうか?
 実際に死体見分をした担当官、死体検案書(死亡診断書)を発行した警察医の
法医学に対する能力等、その技術レベルにまで深く掘り下げる問題が残っている
と思われる。新聞報道から察するに、遺体の創傷はもとより、普段の健康状態か
らしても、新潟大学の出羽準教授の云うように「虚血性心疾患」はありえないし、私
も準教授の考えには首肯せざるを得ない。
 担当した捜査官、検案報告を受けた上司、署長の判断の甘さは批判されても仕
方の無い事と思う。
 代行検死として死体の検死・見分を行うのであるから、少なくても、少しでも疑問
が生じれば、それを解明する能力のある捜査官(検視官)の育成がこれからの県
警察に課せられた課題であると思うし、その取扱いを一歩あやまれば、その人権
はおろか、もっとも凶悪な殺人と言う事件を闇から闇に葬り去ることとなりかねない
ばかりでなく、これほど警察の威信を失墜する失態は無いであろう。
 これだけ創傷のある不自然死体であったのだから、常道として行政解剖には付
するべきではなかったのかと思うし、事件性の嫌疑が濃厚となればその時点で司
法解剖に切り替えることもできた筈である。
 いずれにしても、物からものを聞く、死体と話の出来る見分官の養成が急務であ
ろう。
 該地区を担当する検察庁にも問題は無かったのか。本来、検死は検察官の権限
とされているものであり、司法警察員の行う検死は代行検死であるが、犯罪に起因
する疑いのあるこのような事案の時は、報告を待つまでも無く世間の耳目をひく事
件として、何らかのアクションが欲しかったと思うのは行きすぎだろうか。

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2007年10月 5日 (金)

法医学リーズン《6》

   イ 血液就下(死斑)
     生体においては、血液は、ポンプの作用を行っている心臓の働きに
    よって送り出され、動脈を通って末端の毛細血管までくまなく行き渡り
    ます。そして、この血液は、その後は静脈を通って吸い込まれるように
    心臓へ帰ってきます。これが、血液の循環作用です。
     ところが、死亡によって心臓が止まると、血液の流れも止まり、循環
    作用はなくなってしまいます。そして、血管の中にたまったままの血液
    は、水が低い方へ流れるのと同じように、重力の作用により、徐々に
    血管の中を低い方へ低い方へと流れて行き、最後は、その死体の一
    番低いところの血管にたまります。この現象を血液の就下と呼んでい
    ます。
     血液が毛細血管の中に多量にたまってくると、その毛細血管が拡張
    しますから、その部分の皮膚は暗紫赤色に変化し、血液がたまってい
    ることが外部から分かるようになります。これがいわゆる死斑です。
     このように、死斑は、体位の下方に流れた血液がたまることによって
    発現するものですから、床などに密着していて血管が圧迫されている
    身体の部分には発現しません。
    (ア) 死斑の発現時期
        死斑は、死後どのくらい経過したら発現するのか、ということに
      ついては、①早い時には死後30分くらい、②早くて30分ないし1時
      間、③早くて死1時間などと、学者により説が分かれていますが、
      早いものでは、死後30分前後で斑点状の死斑を見ることがありま
      すので、死斑の発現は、死後30分くらいからであると考えるのが妥
      当でしよう。
        また、一般的に、失血死では発現時間が遅く、窒息死では早い
      といわれています。

※ 暗紫赤色
  死斑色で暗い紫がかった赤色。=暗赤紫色
       

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2007年9月22日 (土)

法医学リーズン《4》

2 死 体
  法医学の対象の中で、最も取扱いが多く、また、その中心となるのは、何と
 言っても死体です。そこで、まず、死体の現象等から理解することが必要です。
 (1) 死の定義
    死とは、生体がその生命を失い死体となること、つまり、人が何らかの原因
   によって1個の生体としての生的な機能及びその働きをすべて停止すること
   です。
    ところで、人が死ぬ場合、死と同時に身体の全臓器、細胞が直ちに死滅す
   るものではありません。末端の細胞は、呼吸や心臓の停止により、酸素及び
   栄養物の補給が断たれることによって次第に死滅していきます。
    そして、通常、臨終に立ち会った医師は、患者の意識が無くなって、呼吸が
   止まり、脈搏が触れなくなり、心臓の鼓動が聞こえなくなったことを確かめた
   後、患者の容態をさらに観察し、呼吸運動や心臓鼓動が再開しないのを確か
   めてから死を宣言していますが、法医学上においても、呼吸が止まり、心臓が
   停止し、生理的な反射が消失したときをもって死の判定をしています。
    ところが、最近、①蘇生術の進歩 ②人工臓器の開発 ③臓器移植術の進
   歩に伴い、死の定義及び判定について多くの問題が提起されています。
         特に、心臓移植の正当性の問題を巡り、我が国においても死の判定につい
   て多くの議論を呼びました。
    なぜ、このような問題が生じたのかと言いますと、臓器の移植を行う上にお
   いては、生体若しくは生体に近い新鮮な臓器を用いることが望ましいために、
   心臓や肺臓よりも早く停止する脳波の消失をもって死と判定しようという、いわ
   ゆる脳死説が生まれてきたからなのです。
    しかし、脳波は、いったん消失した後に再開されることもあり、まして心臓や
   肺臓は、脳波が消失してからも依然として動き続けていることから、この時点
   をとらえて死と判定するのは問題があるということで、大きな社会問題にまで
   発展したのです。
    なお、このような問題はともかくとして、死の判定については、我が国では資
   格を有する医師が行うのを慣例としていますので、必ず、資格を有する医師に
   死の判定を行ってもらう必要があります。
   

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2007年9月 6日 (木)

法医学リーズン《3》

≪犯罪捜査官のためのやさしい基礎法医学≫

~総論・死体現象~

※ 一口に法医学と云っても、それは広範かつ多岐にわたっており、とても全部の
 分野について解説する事は不可能に近いことです。そこで本ブログでは適時、
 その反応を見ながら、大略ではありますが、各種資料を活用してまとめていきた
 いと思っております。
  その分野で活躍され、社会福祉に貢献されている方々にほんの少しでも参考
 になれば幸いであります。現在は何の資格も無い素人が作るブログゆえ、不都
 合ところがあれば笑い飛ばしてください。
 
1 総論的略論
 (1) 法医学の意義
    法医学とは、「法律上問題となる医学的事項について研究し、これの解決を
   はかる科学である。」と定義付けられています。すなわち、法医学は、医学を
   法律上の諸問題の解決に応用する学問で、例えば、殺人事件が発生したよう
   な場合には検死や解剖に法医学の力を借りて犯人を特定する資料を得たり、
   鑑定によって凶器と犯行との結びつきを確定させたりすることで法律の正しい
   適用に資することになるわけです。
    ところで、法律上の問題と云ってもその間口は広く、その解決を図るための
   医学には、解剖学・生理学・病理学などの基礎医学から、内科・外科などの臨
   床医学、さらには、公衆衛生などの社会医学までのすべての医学上の知識が
   必要とされます。このことから、法医学を他の医学の諸分科と並列に並べるこ
   とは不都合であり、また、他の医学の分野と明確に区分することも困難なこと
   ですが、一般的に、法医学の医学上に占める地位と云うのは下記のようにな
   ります。


    ┌基礎医学 解剖・生理・病理・生化・薬理・細菌 
    │                                           
    │            ┌内科・小児科・精神科
    │            │           
 医学┤       ┌ 臨床┤外科・産婦人科・眼科
    │       │    │
    │       │    └耳鼻科・皮膚泌尿器科
    │       │    
    └応用医学 ┤    ┌個人衛生
             │衛生┤
             │   └公衆衛生┐
             │          ├社会医学
             └法医       ┘



     ┌系統解剖─人体の構造
     │       
     │病理解剖─疾病の本態原因           
  解剖┤                       
     │      ┌ 司法解剖─刑事訴訟法
     └法医解剖┤ 
             └行政解剖─行政法規


 (2) 法医学の対象
    法医学の対象としては、その性質上、現場・死体・生体・物体・書類などが
   あります。   
   ア 現場
     犯罪あるいは変死体の存在する現場には、他殺・自殺・災害死・過失死
    等を判断するための資料や、犯罪の種類・動機・方法または犯人に関する
    資料などが残されており、これらの資料は法医学の重要な対象となります。
   イ 死体
     法医学の対象の中で最も取扱いの多いものが死体です。そして、死体を
    検査する方法には、外表検査だけによって自他殺・災害死・病死などを明
    らかにする検死(検案)と、死体を切り開いて死因・創傷の部位程度・凶器
    の種類・死後経過時間・個人識別・薬毒物の服用の有無などを明らかにす
    る解剖とがあります。
   ウ 生体もまた法医学の対象となります。例えば、傷害事件が発生した場合
    に、被害者が受けた創傷の部位・程度や創口から凶器の種類及び犯行方
    法等を認定したり、強姦事件においてその事実の有無をすることなどが挙
    げられます。
   エ 物体
     物体検査では、人体の一部または人体に由来したと思われる物体、例え
    ば、着衣・所持品・衣料繊維・油・塗料・土砂等の付着物及び血痕・精液・毛
    髪・排泄物などが対象となります。
   オ 書類
     法医学の対象となる書類については、指紋・掌紋・足痕跡・鑑定書・診断
     書・診療簿などが挙げられます。

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2007年8月 6日 (月)

JAL123応答せよ!・・・嗚呼、痛恨・・御巣鷹山に消ゆ!!(1)

1  あの、史上最悪の忌まわしい航空機事故(事件)から、本年で23年目となりました。
  ご遺族の中には既に他界された方々、あるいは、その後に誕生された方々など、事故が日に日に記憶から薄れて行ってしまうのは人の常として止むを得ない事かもしれません。
  しかし、それでは520名もの痛ましい犠牲者の方々の口惜しい思い、ご関係者の方々の計り知れないご心情を察するに、あまりにも虚しい気が致します。
  今後、二度とこのような事故(事件)の起こらないことを心中より祈念すると共に、犠牲になられた520柱の御霊安かれと遥拝し、ここに当時の現場の状況を23枚(二十三回忌にちなみ)の写真でご報告すると共に航空機事故の凄惨さを関係者各位が再認識し、事故(事件)が風化する事の無いよう、また、事故防止の一助になればと思い登載致す事と致しました。
  なお、その状況を振り返るため、あるいは、不知の方々にご承知戴くため、概略を以下に記しておきます。

2 事故事件の概括
 ①発生日時
  昭和60年(1985)8月12日 午後6時57分頃
 ②発生場所
  群馬県多野郡・御巣鷹山、スゲノ沢付近
 ③墜落被害機
  日航(JAL)123便(ボーイング747・ SR-46)
 ④犠牲者
  高浜雅巳機長以下乗務員15名
  乗客509名(幼児12名を含む)
  合計524名(死亡者520名、重傷なるも生存者女性4名)
 ⑤墜落の状況
  本機は、18:00羽田発大阪行きのJAL123便であるが、羽田を4分遅れで就航。
  18:31 管制に対し、緊急事態発生の通報。
  18:41 右最後部ドアに異常が発生したとして緊急着陸の要請。
  18:54 管制との通話不能となり、123便は応答なしの状態となった。
  18:59 レーダーから機影が消滅した。
  その後、発生場所において墜落大破炎上している同機が発見された。
 後日のボイスレコーダー分析により、機長以下乗務員全員が、必死になって墜落寸前まで機体の立て直し、乗客等の安全確保に身命を賭して努力した状況が判明した。
 墜落の原因は、大略、後部圧力隔壁の損壊により本機後部に大きな破壊が起こり、操縦機能が破損され、航行不能となったためと定義された。

3 墜落の現場において、言葉で言い表すことの出来ない、正に血のにじむ、救援、救助、採証活動に従事された、警察・消防・自衛隊・その他関係者御一同に対し「本当にご苦労様でした」と現場をつぶさに経験した一人として深謝いたします。

後記
※ 掲載写真については、円満なる一般社会常識の範囲内でのものに限りました。
※ コメントは特に制限は設けませんが、当ブログ管理者の責任において取捨選択権 を行使いたします。
※ 写真の版権は管理者(撮影者)にあります。ご使用の際には許諾を受けてくださ  い。

1)
P01308
 墜落現場の中心部付近の状況 画面下方向がスゲノ沢

2)
P01310
 設置された現場本部付近の状況

3)
P01312
 墜落地点と推定される場所に設けられた仮設祭壇

4)
P01309
 仮設へリポート

5)
P01311
 仮設ヘリポートに離着陸する救援ヘリコプター(警視庁・おおとり)

6)
P01313
 同上救援ヘリコプター(広島県警・みやじま)

※  Nikon F3-P  ・  Nikon F3-T
        Ai  ZoomNikkor  35-70     F 3.5 S    etc
        KODAK  CP  100 -  5094

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JAL123応答せよ!・・・嗚呼、痛恨・・御巣鷹山に消ゆ!!(2)

  ◎  概要は(1)をご覧下さい。

7)
P02315
スゲノ沢から見た、墜落衝突し滑落した痕跡

8)
P02314
 スゲノ沢における機体前部付近の捜索、検証の状況

9)
P02316
 スゲノ沢下流方向に炎上散乱した機体の状況と捜索、検証活動

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JAL123応答せよ!・・・嗚呼、痛恨・・御巣鷹山に消ゆ!!(3)

◎   概要は(1)をご覧下さい。

10)
P02317
 スゲノ沢下流方向に散乱した機体の状況と捜索・検証活動

11)
P02318
 同上。 画面中央部、薄茶色作業服の人達は日航の職員

12)
P02319
 樹木にまで引掛かっている飛び散った墜落機の部品

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JAL123応答せよ!・・・嗚呼、痛恨・・御巣鷹山に消ゆ!!(4)

◎ 概要は(1)をご覧下さい。

13)
P03320
 問題の機体後部圧力隔壁付近の検証。
 中央左側、黄色腕章をしている人たちは航空機事故調査委員

14)
P03322
 後部圧力隔壁の検証。
 画面左側の四人はロッキード社事故調査委員

15)
P03321
 同上

16)
P03323
 後部圧力隔壁の検証。
 航空機事故調査委員とロッキード社事故調査委員、警察の三者一体
 となった現場見分の状況

17)
P03325
 後部圧力隔壁の状態を航空機事故調査委員に説明する、
 ロッキード社事故調査委員

18)
P03324
 警察による検証・鑑識活動の状況

19)
P03326
 航空機事故調査委員とロッキード社事故調査委員の立会いのもとの
 写真撮影の状況

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2007年8月 5日 (日)

JAL123応答せよ!・・・嗚呼、痛恨・・御巣鷹山に消ゆ!!(5)

◎ 概要は(1)をご覧下さい。

20)
P04328
  炎上した森林内を捜索する群馬県警察機動隊員

21)
P04330
 山中に落下した第3エンジン

22)
P04327
 同じく第2エンジンと思われる機体の一部

23)
P04329
 御遺族の方々が鎮魂のメッセージを託し特別機より投下した花束等 


 登載の全写真は画面をクリックすると拡大します。

※ 全写真ならびに記事の無断使用、転載、複製を禁止します。

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2007年2月13日 (火)

宮本巡査部長の殉職を悼む

まことに痛ましい殉職事故(事件)が発生してしまいました。近年、警察官のサラリーマン化が色々と取りざたされています。また、新聞をにぎわすバカ警察官が多い中、本当の警察魂を持った宝が失われ、警察官の鑑がひとつ割れてしまいました。
警察法第二条に警察の責務として「個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、云々・・・」とあります。この本もとの個人の生命を守るために自らの犠牲をも顧みず果敢に身を挺してその職務を全うした実に痛ましい事案でした。
二階級の特進と言うことで警部に任じられましたが、国家として最大限の顕彰をすべきであると思います。また、地域の人々にも慕われ、頼りにされ、如何に立派な人であったかと言うことは交番を弔慰に訪れる人の数でも、それは計り知れないものがあったことと推察出来ることでしょう。
当然、弥生廟(警察官や消防関係者で殉職された方々を祀る廟、東京・九段の田安門内にある)に祭祀されることとなるでしょうが、喪われた命は還ってきません。警視庁はこのような警察官が居られたことを誇りにすると共に残されたご遺族の処遇の万全と二度とこのような痛ましい事案の発生を防ぐために最大の努力をしなければならないことでしょう。
宮本警部のご冥福を心からお祈り申し上げます。

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