« 2009年6月 | トップページ | 2009年8月 »

2009年7月

2009年7月14日 (火)

法医学リーズン《84》

(4) 自他殺の判断
   墜落死体・転落死体に、ためらい創とか防禦創などのように自殺あるいは
  他殺を表す創傷とか、扼痕などが存在する場合は別として、墜落・転落時に
  負った創傷だけから、自他殺の判断を行うことは不可能です。
   したがって、墜落死及び転落死についての自他殺の判断は、死体所見以
  外のもの、例えば、落下場所の状況や自殺の原因・動機の有無などを総合
  的に検討して行う必要があります。ここでは、落下場所を観察する上での着
  眼点について説明します。
① 墜落場所の高低
 ○ 自 殺
  ・ 覚悟の自殺の場合には、即死できるような高い建物などから墜・転落して
   いることが多い。
 ● 他 殺
  ・ 即死するのは無理なような低い場所から墜・転落している場合は、他殺・
   事故死の疑いが強い。
② 墜・転落場所の鉄柵等の高低
 ○ 自 殺
  ・ 鉄柵や窓枠などが高い場合は、そこを乗越えて飛び降り自殺したことが考
   えられる。
 ● 他 殺
  ・ 突き落としたり、あるいは、投げ落としたりするためには、鉄柵、窓枠が低
   くなくては困難である。
③ 墜・転落場所の鉄柵等の付着物等の状況
 ○ 自 殺
  ・ 墜・転落場所の鉄柵・窓枠などに死者の指・掌紋が整然と付いている場合
   は、自殺と考えられる(死者の指・掌の付着物を必ず採取しておくことが大
   切である)。
  ・ 鉄柵などのほこりが取れている幅が狭いと、そこから飛び降りた疑いが強
   い。
 ● 他 殺
  ・ 墜・転落場所の鉄柵、窓枠などに死者の指・掌紋が付いていなかったり、
   逆に多くの指・掌紋が乱れて付いている場合は、他殺の疑いが強い。
  ・ 鉄柵などのほこりが幅広くとれていたり、着衣の繊維片が幅広く付着してい
   るときは、他人と争った疑いが強い。
④ 履物痕などの付着状況
 ○ 自 殺 
  ・ 墜・転落場所の最先端に履物痕が少数ある場合は、そこを踏み台にして
   飛び降り自殺している疑いが強い。
 ● 他 殺
  ・ 墜・転落場所に死者の履物痕がないとか、あるいは、離れている場所に
   ある場合は、他殺の疑いが強い。
⑤ 履物などの遺留状況等
 ○ 自 殺
  ・ 墜・転落場所に履物がそろえて置いてあったり、遺書がある場合は、自殺
   の疑いが強い(ただし、犯人が偽装していることもある)。
 ● 他 殺
  ・ 履物が不ぞろいで、しかも、離れていた場合は、他人と争った疑いが強い。
⑥ 落下地点
 ○ 自 殺
  ・ 墜・転落場所の直近に落下していることが多い。
 ● 他 殺
  ・ 墜・転落場所から著しく離れたところに落下している場合は、他殺の疑いが
   強い。 

| | コメント (2) | トラックバック (1)

2009年7月11日 (土)

法医学リーズン《83》

(3) 墜落死・転落死と交通事故死との見分け方
   人体が動いて鈍体に衝突する(墜落死・転落死)のと、鈍体(自動車等)が
  動いて人体に衝突する(交通事故死)のとの違いはあっても、いずれも攻撃
  面の広い鈍器・鈍体による損傷ということで、墜落死・転落死と交通事故死
  の死体所見は著しく似ています。
   したがって、この両者を見分けるには、近くに飛び降りたり転落したりする
  高い場所がないかどうか、路上に自動車の塗料片やガラス片などが落ちて
  いないか、タイヤのスリップ痕がないか、死者の着衣等に塗料片等が付着し
  ていないかなどを十分に観察しなければなりませんが、一応、次のようなもの
  が両者を見分ける基準となります。
  ア 点状表皮剥脱・線状表皮剥脱
    墜落死の場合には、高所から落下し、人体が直角に落下面に打ち付けら
   れるのに対し、交通事故死の場合には、自動車等で跳ね飛ばされた後、落
   下面に一定の角度を持ち斜めに衝突します。つまり、墜落死の場合は、落
   下面にたたき付けられて止まるのに対し、交通事故死の場合には、落下し
   た後、人体が落下面から移動(ずれる)します。このため、落下面に存在す
   る砂利などによる表皮剥脱が、墜落死では点状になるのに対し、交通事故
   死では、線状の表皮剥脱ができやすいのです(写真参照)。

Dscn086351
※ 点状表皮剥脱

Dscn086452
※ 線状表皮剥脱

イ 轢圧創
  交通事故死の場合、自動車等に跳ね飛ばされて転倒した後、さらに自動車
 等に轢かれることがありますので、自動車等のタイヤの紋様を表す皮下出血
 ・表皮剥脱などの、いわゆる轢圧創が見受けられることがしばしばあります。
ウ デコルマン創
  皮下剥離創のこと。自動車事故を最も典型的に表す創傷のひとつで、自動
 車のタイヤが身体を轢過する際に皮膚のみを強く引っ張るために筋肉と皮膚
 が剥がれてしまい剥離創が出来ます。皮膚が断裂してその上さらに筋肉から
 剥がれているものや、単に裂創が伴わずに皮膚が筋肉から剥がれているだけ
 のものなどがあります。
エ 着衣の破損状況
  墜落死・転落死の場合と同様に、交通事故死の場合にも着衣が破損してい
 ることが多いのですが、表皮剥脱のところで説明したような理由から、交通事
 故死の場合は、落下面を移動した際のすり傷のような破損が見られるのが特
 徴です。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2009年7月 5日 (日)

法医学リーズン《82》

エ 頭部損傷
  頭部損傷といっても、軟部蓋損傷(頭皮損傷・・・皮下出血・表皮剥脱・挫創・
 裂創・割創など)・頭蓋骨折(陥没・亀裂)・脳膜損傷(硬膜外血腫・硬膜下血
 腫・蜘蛛膜下出血)・脳損傷(脳震盪・脳圧迫・脳挫傷)と様々なものがあり、
 この中には、これといった所見を呈しないものがあります。
  そこで、ここでは、次のような所見があれば、一応、頭部に損傷を負っている
 可能性が大であるというものを挙げるだけに止めておきます。
 ○ 眼瞼部の皮膚変色・・・眼瞼部がくまどりされたように青藍色を呈している
  場合は、頭蓋骨折の疑いがある。
 ○ 耳・鼻からの出血・・・外耳道及び鼻腔部から出血している場合は、頭蓋骨
  折の疑いがある。
 ○ 瞳孔の差異・・・左右の瞳孔の大きさに差異が認められるときは、脳幹部
  に損傷(出血・挫傷)を負っている可能性が極めて強い。
 ○ 嘔吐・・・頭蓋内に損傷を負った場合には、吐き気を催し、嘔吐することが
  多い。
 ○ 高い体温・・・頭蓋内を損傷した場合には、脳幹部の温熱中枢の調節が侵
  されて体温が異常に上昇することがあり、そのような場合は、普通の死体に
  比較して体温が高くなっている。
オ 出血の状況
  超高層ビルのような非常に高い所から墜落した死体の場合には、大きな創
 傷が生じているのに出血量が予想外に少ないことがあります。
  しかし、解剖してみると、内部組織には相当量の内出血が認められます。
カ 滑液の洩出
  肘・膝間接部に当る部分の着衣に、車両の油と見誤るようなものが付着して
 いることがあります(写真参照)。
  これは、間接内の滑液が洩出して着衣に浸み込んだもので、墜落死特有の
 所見です。
キ 着衣の破損
  墜落死・転落死の場合には、衝突時の衝撃により、着衣が裂けたり、ほころ
 びていることが多く、時には、ズボンのベルトが切れていることがあります。

Dscn086250
      ※滑液の洩出(スカートに浸み込んだもの)


 
  

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2009年7月 1日 (水)

法医学リーズン《81》

(2)  墜落死・転落死の外部所見
  墜落死にしろ転落死にしろ、高所から落下して死亡した場合には、落下地点
 の物体と衝突する際に人体に相当な衝撃が加わっていますから、これらの死体
 の大部分は、頭蓋骨・脊椎・足根部などが骨折していたり、内臓が破裂するなど
 の大きな損傷を伴っています。
  なお、墜落死では、下肢の方から飛び降りることが多いため、損傷部位も四肢
 部が中心となっているのに対し、転落死の場合は、頭部に多くの損傷が認めら
 れます。
  墜落死・転落死の場合には、その損傷に特徴的なものがしばしば見受けられ
 ますので、簡単に説明します。
 ア 辺縁性出血
   墜落死体および転落死体の上肢や下肢には、その内部にある長骨の形状
  を形どる辺縁に、鉄パイプで殴られたような場合にできる二重条痕様の皮下
  出血(長骨の部分が白くなり、その辺縁に皮下出血が見られる)が認められる
  ことがあります。これを、一般に辺縁性皮下出血と呼んでいます。
   この辺縁性皮下出血は、高所から落下した場合に、上肢や下肢が路面など
  の落下面に平行にたたき付けられたときにできるもので、高所から落下した
  ことを如実に示す外部所見といえます。
   もっとも、これは、上肢及び下肢の長骨が落下面と平行して衝突しなければ
  できないものですから、辺縁性皮下出血がないからといって、高所から落下し
  たものではないということはできませんので、注意が必要です。
  イ 落下面に符合する創傷
   高所から落下した場合、その落下面に符合した創傷、例えば、マンホールの
  上に落下したのであれば、その蓋の模様の皮下出血が認められることがあり
  ます。なお、落下地点が路上の場合、路上面にある砂などの跡を現すような小
  さな点状の表皮剥脱や皮下出血が認められることがありますが、これも、やは
  り高所からの落下を物語る所見であり、交通事故死と区別するのに役立ちます。
 ウ 伸展創
   伸展創は、鉄棒や金槌などの鈍器で殴られたような場合、皮膚が伸び切るた
  めに、当該鈍器が作用した部分以外の皮膚が裂けてできるもので、皮膚の表
  層が浅く裂け、いわゆるちりめん状を呈しています。
   この伸展創は、交通事故による死体に多く見受けられますが、墜落死・転落死
  の死体でも、時々見られることがあります。


  

| | コメント (4) | トラックバック (0)

« 2009年6月 | トップページ | 2009年8月 »