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2009年6月

2009年6月29日 (月)

法医学リーズン《80》

~墜落死・転落死~

1 概 説
  最近、高層ビルなどからの飛び降り自殺が話題となっています。
  このほかにも、工事現場の足場から作業員が足を滑らせて墜落死するという
 ようなことがよくあります。これらのように、高所からの落下が原因で死亡したも
 のの大部分は、自殺又は過失による事故死です。
  しかし、時には、崖やビルなどの高所から人を突き落として殺害するとか、階
 段の上でけんかをした挙げ句、階段から突き落として死亡させるなどの事件が
 発生することがあります。
  ところで、これらは、高所から落下した際の衝突に伴う損傷が原因で死亡する
 ものがほとんどですから、死因別に見れば、先に説明した損傷死に当たります。
  しかし、凶器を用いた損傷死とは若干趣が異なりますので、ここでは、あえて
 損傷死とは区別して説明することにします。
 (1)   墜落死・転落死の定義
    高所から落下して死亡した場合、その落下の態様を基準として、通常、
   墜落死と転落死の二通りに区別されています。すなわち、ビルの屋上や工事
   現場の足場などから、飛び降りたり、又は、滑り落ちたような場合、その地点
   から落下地点までの間に他の箇所に衝突することなく一直線に落下して死亡
   したものを墜落死といいます。
    しかし、このように定義付けて見ても、現実に高所から転落した場合に、こ
   の両者を明確に区別することは困難な場合が多く、また、区別する実益も
   それほどありませんから、両者をあわせて説明します。

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2009年6月28日 (日)

法医学リーズン《79》

(6) 焼死体自他殺の判断基準
  焼死体についての自他殺の一般的な判断基準を示すと、次のようなものが
 挙げられます。

 ① 生体か死体か
  ○ 自殺(事故死を含む)
   ・ 生体で焼かれた場合には、一応、自殺又は事故死と考えられる。
     生体であったことを示すものとして、
    ※ 死体に生活反応が見られる。
    ※ 出火点と逆の方向に向かって倒れているとか、床面にうずくまってい
     るなど出火時に行動した跡が見受けられる。
    ※ 死体の下に焼燬物がある。
     などがある。
  ● 他 殺
   ・ 死体で焼かれた場合には、他の方法により殺害された後、焼かれたこと
     が考えられる死体であったことを示すものとして、
    ※ 生活反応が見られない
    ※ 床面と密着した部分が焼けていない。
    ※ 焼燬物が死体の下にない。
     などがある。

 ② 生前の創傷の有無
  ○ 自殺(事故死を含む)
   ・ 焼死体に切創・刺創等の創傷が認められないのが通常である。
     (ただし、落下物による損傷が考えられるので注意が必要)
  ● 他 殺
   ・ 焼死体に切創・刺創・割創などが認められるときは、他殺の可能性が強い。

 ③ 頭部・顔面・頸部の損傷の有無
  ○ 自殺(事故死を含む)
   ・ 頭部・顔面・頸部に損傷が認められないのが通常である。
     (ただし、落下物による損傷があることがある)
  ● 他 殺
   ・ 頭部・顔面に生前の損傷がある場合は、他殺の疑いが強い。
   ・ 頸部に絞痕などがある場合は、他殺の疑いが極めて強い。
     (扼痕がある場合は他殺と考えてよい)

 ④ 戸締りの状況
  ○ 自殺(事故死を含む)
   ・ 戸締りが完全に行われているときは、事故死の疑いが強い。
  ● 他 殺
   ・ 戸締りが完全でなく開放箇所がある場合は、他殺の疑いがある。

 ⑤ 現場の状況
  ○ 自殺(事故死を含む)
   ・ 物色その他現場の乱れがないのが通常である。
  ● 他 殺
   ・ 物色等現場の乱れがある場合は、窃盗後の放火等が考えられる。

 ⑥ 出火点の検討
  ○ 自殺(事故死を含む)
   ・ 被害者及びその家族が通常火気を使用している場所から出火してい
    る場合は、事故死と考えられる。
  ● 他 殺
   ・ 被害者及びその家族が通常火気を使用していない場所から出火して
    いる場合は、放火殺人の疑いが極めて強い。

 ⑦ 点火物及び燃料容器の有無
  ○ 自殺(事故死を含む)
   ・ 焼身自殺の場合には、点火に用いた容器及びガソリンなどの燃料容器
    が死体の近くに存在する。
  ● 他 殺
   ・ 残存衣類及び現場に油類が付着しているような場合で、点火物及び燃
    料容器が死体の近くに存在しない場合は、焼殺の疑いが強い。

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2009年6月23日 (火)

法医学リーズン《78》

(5) 自他殺の判断
   焼死体についての自他殺判断の第一歩は、それが生体であったときに
  焼かれたものであるか、それとも既に死体となっていたときに焼かれたも
  のであるかを見分けることにあるといわれています。つまり、生体で焼かれ
  たのであれば、逃げ遅れなどによる事故死又は自殺の可能性が強くなりま
  すし、死体が焼けたのであれば、何らかの方法によって殺害した後、その
  犯行を隠滅するなどの理由により焼死を装ったことが考えられるからです。
   しかし、これはあくまで可能性の問題であり、生体で焼かれた所見、すな
  わち、生活反応が見られたからといって、殺人事件でないとは言い切れま
  せん。
   なぜなら、
  ○ 被害者が就寝中を見計らい、あるいは、睡眠薬などを飲ませて眠らせ
   た後、家屋に火をつける。
  ○ 腹部や頭部を殴打するなどして失神させた上、家屋に放火する。
  というような方法で焼殺した場合にも、生活反応が見られるからです。
   このように、焼死体それ自体の所見だけで自他殺を判断することは極め
  て難しくなります。したがって、焼死体の所見のほかに出火原因、出火点と
  死体の位置関係、残存する衣類などの油類の付着状況、現場の乱れなど
  の現場の状況と、自殺の動機及び原因、怨恨の有無などの焼死者に関す
  る事項などを検討した上で、総合的に判断する必要があります。

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法医学リーズン《77》

(4)   焼死体の死体所見
   焼死体の死体所見には、生体・死体にかかわらず人体が焼けることによ
  って生ずるものと、生体が焼けることによってのみ生ずる所見とがあります。
  ア 生体・死体にかかわらず生ずる死体所見
   (ア)  ボクサー型姿勢
      焼死体の多くは、腕を上げて肘間接を曲げ、さらには膝を曲げて、
     あたかもボクサーが試合をしているような格好をしています。
      これは、熱作用により、筋肉内の蛋白質が凝固して筋肉が収縮し、
     しかも、四肢の筋肉(拮抗筋)は、伸筋よりも屈筋の方が強いために
     起こる現象ですから、生体・死体の両者に現われます。
      もっとも、火災現場等で床面にうずくまるような姿勢で焼け死んでい
     ることがありますが、それは、逃げ遅れた場合の姿勢であり、生体が
     焼けたことを示すものですから、見誤りのないようにしなければなりま
     せん。
   (イ)  皮膚等の断裂
      火熱が作用すると皮膚及び皮下組織が収縮するために、皮膚に断裂
     が生じていることが多く見られます。火熱による断裂は、皮膚の割線の
     方向に破裂状に大きく哆開し、創縁は収縮したような型になっています
     から、生前の裂創・切創との見分けは比較的容易です。
   (ウ) 骨 折
      焼死体は、時として四肢が骨折していたり、あるいは、不用意に死体
     を動かすと骨が折れてしまうことがありますが、これは、火熱により骨が
     もろくなっているためで、生体・死体にかかわらず見られる現象です。
  イ 生体が焼けたときに見られる死体所見
   (ア) 外部所見
     a  紅斑、水疱形成の存在
       前述しましたように、火傷の症状としての紅斑(第1度)、水疱形成(第
      2度)は、いわゆる生活反応ですから、それがある場合には、生体が
      焼かれたと見てほぼ間違いありませんが、紅斑は死斑と類似しており、
      また例外的に死体を焼いた場合にも発疱ができることがありますので
      この点を注意しなければなりません。
       この場合の見分け方で最も正確なものは、生体であった場合にはそ
      の周囲に発赤腫脹が見られるのに対し、死体であった場合にはそれが
      見られない、ということを挙げることができます。
     b   鮮紅(赤)色の死斑
       火災現場等には、多量の一酸化炭素が発生し、大部分の焼死体は、
      この一酸化炭素中毒が原因で死亡しています。そして、先に説明して
      いるように、一酸化炭素中毒死の場合は、死斑が鮮紅(赤)色を呈して
      いますから火災現場等から発見された焼死体の死斑が鮮紅(赤)色を呈
      している場合には、一応、生体が焼かれたものであるということができ
      ます。
     c  眼の状況
       生体であったことを示す外部所見として、眼裂内に煤片又は炭塵が入
      っていることが挙げられます。火災等の際に生きていた場合には、その
      苦しさなどから、眼を硬く閉じるために、このような現象が生じるのです。
       したがって、眼裂内に煤が入っていた場合、それは、生体であったとい
      えます。
   (イ) 内部所見
       焼死体の内部には次のような所見が見られますので、死体を解剖す
      ることによって、生体であったか否かを知ることができます。
      ○ 心臓など深部の血液内にも、一酸化炭素ヘモグロビンが認められ
       る。
      ○ 鼻腔深部、気管及び気管支内に煤、炭末などが吸い込まれており、
       それらの内部粘膜の表面が黒くなっている。
      ○ 胃・十二指腸などにも煤を飲下していることがある。
      ○ 熱い空気を吸入するために、上気道の内部に火傷・粘膜剥離・腫
       脹が見られることがある。
      ○ 嘔吐物を吸引していることがある。
      ○ 第3度の火傷(焼痂性火傷)部を切開すると、血管内に熱凝固した血
       液が認められる。

※哆開=しかい=創傷の創口がパックリ開いている状態。 
             

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2009年6月 9日 (火)

法医学リーズン《76》

(3) 焼死体の死因
   焼死という言葉からは、火傷によって身体の細胞が損壊され、身体に障害
  を起こして死亡することを連想しがちですが、実際には、焼死体の場合は、
  一酸化炭素中毒により死亡した後に焼かれたというように、他の原因により
  死亡していることが多いのです。
   焼死体の中で最も多い死因は、一酸化炭素中毒死です。一般に火災現場
  の一酸化炭素の濃度は非常に高く、数回の呼吸で死亡してしまうといわれて
  います。また、例え死亡しないまでも、一酸化炭素中毒が原因で嘔吐し、その
  嘔吐物を吸引して窒息死することもありますし、そのほかには、合成繊維や
  新建材が燃焼する過程において発生する塩素・ホスゲン・青酸などを吸って
  中毒死するものや、多量のススを吸い込んで窒息死するもの、さらには、火
  熱による神経性ショックや酸素欠乏によって死亡するものなどがあります。

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法医学リーズン《75》

(2) 火傷の分類
   火熱が作用した部分の身体の変化(火傷)の程度は、通常、第1度から
  第4度までに分類されています。
  ア 第 1度(紅斑性火傷)
    火傷の最も早い時期に起こってくる変化を第1度の火傷といいますが、
   これは、熱の作用により、表在性毛細血管が拡張して充血を起こしてく
   るために、当該部分の皮膚が発赤し軽度の腫脹を来たすもので、紅斑
   性火傷とも呼んでいます。
    紅斑は、生体が熱を受けた場合にだけ生じる症状、すなわち、生活反
   応ですから、火災現場等から発見された焼死体にこの紅斑が存在した
   場合には、火災時には生存していた、ということができます。しかし、紅斑
   は死斑に似ていますので、死斑が発生しない部分、例えば身体(体位)
   の上部などに紅斑があるかどうかをよく調べて、死斑と区別する必要が
   あります。ところが、現実には、そのような部分は強い火力を受けてひど
   く焼けてしまい紅斑が残らないことが多いので、出火後早期に発見された
   焼死体以外は、その発見が難しくなります。
    イ 第2度(水疱性火傷)
      第1度の火傷にさらに火熱が加わると、水疱(水ぶくれ)ができますが、
   これを第2度の火傷と呼んでいます。この水疱は、生体が焼けたときにで
   きる生活反応の一種です。しかし、極めて例外的に、死後間もない死体を
   焼いた場合にも発疱ができることがあるといわれています。
    この場合は、発疱の中は空虚であってガスのみのことが多く、また、発疱
   の底面に発赤は見られません。
    水疱は、火熱を受けた部分が炎症を起こし、漿水が集まって生ずるとい
   われています。そして、水疱の中には、透明黄色の漿液が入っていますが、
   時には、混濁した黄色の液であったり、あるいは、膠のようなものが入って
   いることもあります。
    火傷として生体にできた水疱は、時間の経過とともに内容物が吸収され、
   薄い痂皮になった後1週間ぐらいで脱落してしまいます。                            
    ところで、死体が腐敗をはじめますと、いわゆる腐敗気疱が生じますの
   で、死体観察に当たっては、水疱と腐敗気疱を見分けることが大切になり
   ます。両者の違いは、火傷による水疱には、その周囲に発赤腫脹が見られ
   るのに対し、腐敗気疱ではそれが見られない、という点にあります。
    ウ 第3度(焼痂性火傷)
    第3度(焼痂性火傷)とは、高熱の作用により、当該部分の皮膚組織内の
   蛋白質が変性し、そのために皮膚がみずみずしさを失って黄褐色又は茶
   褐色になった状態をいい、皮膚が壊死状になることから、壊死性火傷とも
   いわれています。
    第3度の火傷は、生体・死体にかかわらず生ずるといわれていますが、
   生体が焼けて生じた場合は、その下部の毛細血管の拡張が見られるのに
   対して、死体が焼けて生じた場合には、このような変化は見られません。
  エ 第4度(炭化性火傷)
    強い火熱によって身体の組織が燃焼し、炭化したものを、第4度の火傷
   (炭化性火傷)といいます。火災現場から発見された焼死体の多くは、皮膚
   及び皮下組織が炭化している程度ですが、時には、筋肉組織の深部まで
   炭化していることもあり、特に強い火熱が作用した部分は、骨までも炭化し
   てしまっていることがあります。
    なお、炭化は、生体・死体にかかわらず生じます。

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