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2009年1月20日 (火)

法医学リーズン《63》

(2) 青酸中毒死
   青酸(シアン)それ自体は、沸点の低い(摂氏27度)無色の液体ですが、
  青酸カリ・青酸ソーダなどの青酸化合物として、電気メッキや金属の精錬な
  ど、主として工業用に用いられています。
   青酸は、これを吸入すると短時間で死亡してしまうほど毒性の強いもので
  すが、強い刺激性の味がするために、人を殺害するのに用いるのは不向き
  といわれています。したがって、青酸中毒死の大部分は自殺です。
   しかし、時には、心中を装って飲ませたり、あるいは、飲み物の中に青酸を
  混入して殺害するなどの事件が発生しています。いわゆる帝銀事件や、青酸
  入りコーラ殺人事件などは、その代表的なものです。
  ア 青酸の作用
     青酸が体内に吸収されると、次の四つの作用を行うといわれています。
   (ア)  血液に対する作用・・・血液中のヘモグロビンを破壊して(ヘモグロビ
     ンと結合するという説もある)、シアンヘモグロビンをつくり、血液による
     酸素運搬機能を阻害する。
   (イ)  心臓に対する作用・・・心臓の収縮作用を阻害する。
   (ウ)  新陳代謝に対する作用・・・体内の新陳代謝を阻害する。すなわち、
     臓器組織の酸素摂取機能を失わせて、内窒息を起こさせる。
   (エ)  神経系統に対する作用・・・中枢神経に作用し、これを麻痺させる。
      ですから、青酸が体内に吸収されると、その青酸が血液中のヘモグロ
     ビンを破壊してシアンヘモグロビンをつくり、血液による体内各臓器等へ
     の酸素運搬機能を阻害するとともに、体内各臓器の酸素摂取機能を失
     わせ、吸入と排出の新陳代謝を阻害して内窒息を起こさせる一方、心臓
     の収縮作用を阻害し、さらには、神経系統、特に中枢神経を麻痺させて
     人を死に至らしめるということになるのです(ただし、急激に作用した場合
     には、先に中枢神経を麻痺させて、それだけで死に至るといわれます)。
  イ  中毒症状
          青酸を多量に吸入したときには、直ちに意識を失い、全身痙攣・呼吸麻
   痺などを起こして数秒から1分以内(20秒から数分の間という説もある)と
   いう短時間で死亡します。そして、青酸の量が少ないために作用がやや緩
   慢なときは、頭痛・めまい・嘔吐・発汗・胸内苦悶などがあった後、呼吸困難
   ・意識消失・全身痙攣・呼吸麻痺などの経過をたどって死亡するといわれて
   います。
   ウ  死体所見
     青酸中毒死体は、窒息死の一般的所見と非常に良く似た外部所見を呈
   しますが、症状が急な割には著明な変化は見られません。特に、死斑につ
   いては、法医学書の多くに、鮮紅色を呈すると書かれていますが、現実に
   は、鮮紅色を呈した死斑はほとんど見られず、大部分は通常の死斑と同じ
   色を呈しています。
     また、その死体にあっては、次のような外部所見等が見られることがあ
   ります。
   (ア) 口唇粘膜・口腔粘膜に青酸による軽度の腐蝕性びらんが見られる。
   (イ) 口腔からヌルヌルとしたよだれが流れ出ている。
   (ウ) 口腔・鼻腔から甘酸味(苦痛桃)の青酸臭といわれるにおいがする。
      なお、青酸を吸入しているかどうかを調べる方法として、シェーンバイ
      ン試験紙による検査があります。これは、シェーンバイン試験紙を死
      者の鼻腔・口腔に当てその反応を見る方法ですが、青酸を吸入してい
      る場合には、鼻腔・口腔から蒸発している青酸ガスが試験紙に付着し
      て化学変化を起こし、陽性反応(青色又は青藍色に変色する)を示し
      ます。
       ところが、青酸中毒死であっても、服用量や飲み方によっては陽性
      反応を示さないことがありますから、陽性反応がないからといって、
      青酸中毒死ではないと判断することは危険です。       

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コメント

青酸(シアン)とありましたが、私たち一般人には青酸カリとの違いが判りませんでした。

電子辞書で調べると、わつぃのような凡人には判らず、単に同じものかな?と、結論付けました。

間違って解釈していたら申し訳ありません。

今日も、写真を撮りに行きましたが、現地に着いてカメラにバッテリーが入っていないことに気付き、ただ、帰って来ました。

今日の休日は何だったのでしょうネ!

疲れたーーーーー!

投稿: 花と風景 | 2009年1月20日 (火) 19時53分

 花と風景さん
青酸(シアン)はそれだけでひとつの物質(液体)ですが、これとカリウムが結びついて青酸カリとなります。ナトリウムと化合されたものが青酸ソーダです。これらの物質と化合することによって固体となり、使用や運搬に便利になるわけです。

撮影に出かける時には、資機材の事前点検を必ず心がけましょう。無駄な労力や浪費を防ぐためにも必須行為です。

投稿: isoxp | 2009年1月20日 (火) 20時18分

お教え頂きたいことがあります。松本清張氏に推理小説「点と線」がありますが、海岸で青酸カリをジュースに混入して飲んだとみられる男女の遺体が寄り添うように並んだ状態で発見されたというところから始まります。地元の警察は検視で服装の乱れもなく、格闘した形跡もないことから情死事件として処理します(解剖はしたようですが)。後にこれが少し離れた場所で別々に青酸カリを飲ませて(ウィスキーに混入したとも後に示唆がある)殺した二人の実行犯が心中に偽装するため死体の服装を整えて並べて置いたものであると分かります。青酸化合物に限らず毒物を飲んで死んだ人は苦悶の表情も激しく断末魔の様相を呈して死んでいると素人考えでは思うのですが、小説にあるように仲良く寄り添って死んでいるというようなことはあり得るのでしょうか。そのような工作をすればかえって疑われるのではと考えますが如何なものでしょうか。

投稿: 路星七五郎 | 2019年9月24日 (火) 21時33分

路星七五郎さん
コメントを有難うございます。
私も、松本氏の小説は読みましたが、古い話でもう記憶が定かではありません。ただ、当時は、やはり小説であり、現実とは違いが有るものだという感覚を持ったという程度の記憶があった覚えがあります。

青酸中毒死は即効性があるため、服用すると直ちに意識を失い説明にあるような行動力は瞬時に失われます。
従って、苦悶の表情も断末魔のような様相を呈する余裕もないと言う事です。
そういう事から現状の見分をすれば、第三者の介在の無い限り、二人並んで寄り添って死亡すると言う事はまず不可能と言う事になるでしょう。
ただし、見分の状況からお互いに自らが服用する場合、また、その状況が可能である査証が有れば寄り添って実行することの可能性が無いとは言えません。
事件、事故、自殺の見極めは現状の観察官の眼力にかかっているものと言えると思います。

投稿: イソップ | 2019年9月24日 (火) 22時46分

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