« 2008年11月 | トップページ | 2009年1月 »

2008年12月

2008年12月11日 (木)

法医学リーズン《62》

(2) 毒物の分類
   中毒死の原因となる毒物は、種類が極めて多い上に、その作用も多様に
  わたるものですから、すべての中毒死についてここで説明することは困難で
  す。
   そこで、私たちが日頃耳にする機会の多い、一酸化炭素・青酸化合物・燐
  ・有機燐剤・睡眠剤による中毒死について説明することにします。
  (1)  一酸化炭素中毒死
     締め切った部屋の中で都市ガスや石油ストーブなどの暖房器具の不完
    全燃焼ガスを吸ったり、あるいは、自動車の排気ガスを吸ったりして死亡
    する事案が数多く発生していますが、これらはいずれも、ガスの中に含ま
    ている一酸化炭素による中毒死です。
     一酸化炭素による中毒死は、その大部分が事故死または自殺によるも
    のです。しかし、時には、睡眠剤を飲ませて眠らせたり、あるいは、酒を飲
    んで熟睡している機会をねらい、ガス栓を開いて一酸化炭素中毒死させる
    という殺人事件が発生していますし、また、他の方法で殺害した後にガス
    を漏出させて、ガス自殺に見せかけたという事案も発生しています。
    ア   一酸化炭素の性状
       一酸化炭素は、都市ガス(ただし、通常、6Bと呼ばれている製造ガ
      スに限る。)や自動車の排気ガス、更には、炭素を含有するもの(例え
      ば、炭火や練炭など)の不完全燃焼ガスの中などに含まれていますが、
      空気よりもやや軽く(比重0.967)、無色・無臭・無刺激の可燃性ガス
      です。
        イ  一酸化炭素の作用
       一酸化炭素は、赤血球の中に含まれているヘモグロビンと酸素との
      結合を阻害して内窒息を起こさせ、その結果、種々の中毒症状を生じ
      させて、ついには人を死亡させることになるのですが、この関係をもう
      少し詳しく説明します。
       血液中の赤血球の中には、ヘモグロビン(血色素)と呼ばれるものが
      あります。このヘモグロビンは、体内の臓器や細胞への酸素の運搬、
      さらには、臓器及び細胞から肺臓への炭酸ガスの運搬という重要な
      役割を果たしているのです。すなわち、ヘモグロビンは、肺臓において、
          呼吸作用によって吸収された酸素と結合し、酸素ヘモグロビンとなって
      酸素を体内の各臓器及び細胞へ運んで供給する一方、臓器及び細胞
      から炭酸ガスを受け取って、これを肺臓へ運び、酸素と炭酸ガスを交
      換する作用を常時繰り返して、人の生命を維持させているわけです。
       ところが、一酸化炭素が肺臓へ入ると、酸素よりも200~300倍強い
      といわれる結合力でヘモグロビンと結合して一酸化炭素ヘモグロビン
      となりますから、その分だけ酸素ヘモグロビンが減少することになりま
      す。結局、血液によって運搬される酸素の量が少なくなり、体内の臓器
      及び細胞は次第に酸素が不足して、いわゆる内窒息を起こすわけで
      す。
       そして、一酸化炭素ヘモグロビンが血液中の約40~60%に達すると、
      人は死亡するといわれています。
    ウ  中毒症状
       一酸化炭素中毒の主な原因は、体内の酸素が欠乏することにあり
      ますから、その中毒症状も、酸素欠乏による意識障害が主たる症状
      となります。そして、一酸化炭素中毒の初期には、頭痛・耳鳴り・動悸
      ・嘔吐などの症状が現われ、その後、意識を失って昏睡状態となり、
      ついに死亡するといわれています。最も、これは、一酸化炭素が少な
      い場合の症状であり、一酸化炭素を多量に吸い込んだ場合には、数
      回の呼吸で昏睡状態に陥り死亡してしまうことがあるといわれていま
      す。
    エ  死体所見
       死体の外部所見からは、その死因が一酸化炭素中毒であると直ち
      に分かるようなものはありません。ただ、一酸化炭素ヘモグロビンは、
      通常のヘモグロビンよりも赤味が強く鮮明な血をしているために、血
      液全体が鮮紅色となり、このため、一酸化炭素中毒死体の死斑が鮮
      紅色を呈していることが多いのは事実です。また、手・足の爪床や口
      唇などの粘膜部が鮮紅色を呈していることもあります。
       そして、時には、眼瞼結膜などに溢血点が発現していることもあり、
      その多くは、通常の溢血点よりも赤味の強い色を呈しています。   

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2008年12月 6日 (土)

法医学リーズン《61》

(2) 毒物の分類
   毒物については、毒物の種類を基準としたり、あるいは毒物の作用を基準
  としたりして様々な分類が行われています。しかし、どのように基準をおいて
  見ても、相互に入り混じってしまい、はっきりと分類するのは不可能なようです。
   ここでは、一応、毒物の作用を基準として、腐蝕毒・実質毒・酵素毒・血液毒
  及び神経毒に分類して簡単に説明しますが、毒物によっては、血液の酸素に
  作用するとともに神経を麻痺させるものがありますから、この場合、血液毒・
  酵素毒・神経毒のいずれに分類したらいいのか判然としません。したがって、
  次に説明することは、このような分類方法があるという程度に理解してください。
  ア  腐蝕毒
     毒物が身体に触れた場合、その触れた部分の有機成分、特に蛋白質と
   結合して組織を腐蝕する毒物を腐蝕毒といいます。腐蝕毒としては、硫酸・
   硝酸・塩酸・酢酸・石炭酸・水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)・アンモニア・昇汞
   ・硝銀・クロム酸カリウム・オスミウム酸・塩素ガスや昨今問題となった、硫黄
   と水素から成る無機化合物である硫化水素ガスなどが挙げられます。
  イ  実質毒
     体内に吸収された後、肝臓・腎臓・脾臓などの臓器に沈着してこれらの臓
   器を変性させる毒物を実質毒といい、この実質毒には、黄燐・亜砒酸・鉛な
   どがあります。
  ウ  酵素毒
     体内に吸収された後、ある特定の酵素系に作用して、その活性を阻害す
   る毒物を酵素毒といいますが、有機燐剤などを成分とする農薬の大部分は、
   この酵素毒に当るといわれています。
  エ  血液毒
     体内に吸収されてから、主に血液中で作用を現し、血液性状に変化を起
   こす毒物(主として、窒息死のところで説明した内窒息を起こす毒物)を血液
   毒といい、これには、青酸塩(青酸カリ・青酸ナトリウム)・塩素酸カリウム・
   一酸化炭素などがあります。
  オ  神経毒
     体内に吸収された後、主として脳神経系に作用して、これを障害する毒物
   を神経毒といいます。神経毒には、催眠剤・アルコール類・麻薬類・覚醒アミ
   ン類・麻酔薬(アルカロイド類)などがあります。
  

| | コメント (10) | トラックバック (0)

2008年12月 3日 (水)

法医学リーズン《60》

        ~中  毒  死~

1 概 説
  中毒死は、睡眠薬や農薬を飲んで自殺したとか、家庭燃料の不完全燃焼
 に気づかず一酸化炭素中毒死したとか、あるいは、フグの毒に当り食中毒で
 死亡したというように、その大半は自殺または事故死です。しかし、中には、
 コーラや牛乳などの飲み物に青酸カリを混入して人を殺害したり、心中を装っ
 て相手に大量の睡眠薬を飲ませて殺害するなどの他殺もあります。
  このように、中毒死には、自殺・他殺・事故死の場合があり、しかも、中毒死
 の原因となる毒物も多種多様ですから、自他殺の判断や毒物の究明などが
 非常に難しいといえます。
(1)  定 義
    一般的に中毒とは、「毒物の作用により生体の生理的機能が障害され、
  生理的現象に変調を来たした状態」のことを指しますが、これを簡単に言え
  ば、「毒物により生体に引き起こされる障害」ということになります。
    そして、その障害によって死亡した場合を中毒死といいます。
    いずれにしても、ここで中毒死というのは、毒物及び劇物取締法にいう
  毒物や劇物の影響を受けて死亡した場合だけでなく、その他一切の毒物の
  影響を受けて死亡した場合をも含みます。
    ところで、毒物というと、通常、毒物及び劇物取締法にいう毒物・劇物だけ
  を連想しがちですが、実際はそれだけに限りません。法医学上、毒物とは、
  「無機あるいは有機の無生物で、主としてその化学的作用によって比較的
  少量で生体の健康を害し、あるいは死に至らせる物質」と一応は定義付けら
  れています。
    しかし、毒物をこのように定義付けてみても、現実には、どの種類のどの
  範囲までを毒物といっていいのか必ずしも明確ではありません。というのは、
  金属・酸・アルカリ・アルカロイド・有機溶媒、医薬品、食品類などから細菌に
  至るまで、多くのものが毒物となり得るからなのです。 

| | コメント (2) | トラックバック (0)

« 2008年11月 | トップページ | 2009年1月 »