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2008年11月24日 (月)

法医学リーズン《56》

5 鈍器・鋭器による損傷死体の自他殺の判断
  鈍器・鋭器による損傷を負った変死体について自他殺の別を判断するため
 には、これまで説明してきた上腕内側の皮下出血・いわゆる吉川線・ためらい
 創・防禦創などの有無、及び変死体が存在する現場の状況などを総合して判
 断することになりますが、次に、その他の判断材料となるものについて簡記し
 ます。

  自他殺の別着眼点

① 創傷の部位
 ○ 自 殺
  ・ 創傷の部位は、死亡者自身でつくり得る部位に限られる。
  ・ 頸部・胸部・腹部・手首などの急所についている。
 ● 他 殺
  ・ 死亡者自身で刺したり、切ったりすることが不可能、又は困難な部位にあ
    るときは他殺の疑いが強い。
  ・ 急所以外にも創傷が見受けられる。

② 利き腕と創傷の関係
 ○ 自 殺
  ・ 自殺の場合は、通常、刃物を利き腕に持ち、利き腕の反対側から利き腕
    の方向に切っている。
 ● 他 殺
  ・ 利き腕に関係なく、多種多様である。

③ 致命傷の数
 ○ 自 殺
  ・ 致命傷となる創傷は原則として一箇所である。
    (但し、まれには、頸動脈や手首を切った後、心臓を刺したものがある)
 ● 他 殺
  ・ 致命傷となる創傷が二箇所以上ある場合には他殺の疑いが極めて強い。

④ 成傷器及び創傷の種類
 ○ 自 殺
  ・ 鈍器による自殺は極めて少ない。
  ・ 千枚通しなどの無刃尖器による自殺は少ない。
  ・ 自殺の大部分は切創である。
 ● 他 殺
  ・ 鈍器による損傷(挫創・裂創)がある場合には、他殺の疑いが強い。
  ・ 割創を負ったものにも他殺が多い。

⑤ 成傷器の数
 ○ 自 殺
  ・ 通常は、ひとつの刃物を使用している。
 ● 他 殺
  ・ 二種類以上の刃物を使用している場合には、他殺の疑いが強い。

⑥ 成傷器の有無
 ○ 自 殺
  ・ 死体の創傷に相応する刃物が死体の近くに存在する。
 ● 他 殺
  ・ 成傷器となった刃物が等がなかった場合には、他殺の疑いが強い。
  
⑦ 利き腕への血液の付着
 ○ 自 殺
  ・ 利き腕に血液が付着していることが多い。
 ● 他 殺
  ・ 利き腕に血液が付着していない場合には、他殺の疑いが強い。

⑧ 着衣の損傷
 ○ 自 殺
  ・ 着衣をことさら避けている。
 ● 他 殺
  ・ 着衣の上から刺したり、切ったりしている場合には、他殺の疑いがある。

⑨ 家具等の状況
 ○ 自 殺
  ・ 家具類などに刃物による損傷がなく、現場が整然としている。
 ● 他 殺
  ・ 家具が乱れ、刃物による損傷がある場合には、他殺の疑いが強い。

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コメント

自殺と他殺での例が並びましたが、実際では検視の際にも、首をかしげる状況が多いでしょうね。

特に、自殺を偽装しようとした犯罪を暴くときなどには、慎重な判断が必要でしょう。

殺傷がなくても、首つりでも、殺人か自殺かが問われることもあるでしょうし・・・

死体は法医学者に素直に話しかけているでしょう。

投稿: 花と風景 | 2008年11月24日 (月) 16時30分

impact 花と風景さん
いつも読んで下さって、貴重なコメントを有難う御座います。
勉強中の者には励みになります。

おっしゃるとおり、検視を担当する者は、高度の知識と卓越した技能を持って死亡者と向き合い、語りかけることによってその話を聞きださなくてはなりません。大変難しいことだと思います。

解剖をしても全てが解る訳ではありません。これも、ひとえに解剖医の能力と技術に負うところが多いんです。

犯人は捕まりましたが、今回の事件でも犠牲になられた方々はどんな話をされたのでしょうか・・・

投稿: isoxp | 2008年11月24日 (月) 16時45分

わが身を守るすべを会得していた昔の武芸者のように、殺気を受け止める感覚を見に付けていない現代人(私もそうです)には、身を守るすべはないようです。

運良く、長生きしても、頼りの年金は受け取れるかが心配なだけ。

今日一日を精一杯生きる姿は、江戸時代の、庶民の姿そのものではないでしょうか。

投稿: 花と風景 | 2008年11月24日 (月) 21時00分

impact 花と風景さん
わが身は自分で守る、これに尽きるようですね。
私も若いときに柔道に励み、おかげで四段を持っています。まだ、護身のために使ったことはありませんが、いずれそういう時が来るかもしれませんね。

投稿: isoxp | 2008年11月24日 (月) 22時12分

自殺者の心理が眼に見えるようです。
テレビドラマで「先入観で捜査をしてはいけない」と、よく言ってますが、イソップさんのこの記事で、自殺・他殺の見分けが難しいことがよくわかります。

〔法医学の事件モノ〕は好きでよく見ていますが、微妙な不審から犯人にたどり着くくだりが面白い。
イソップさんだったらどう見てるのかな?
なんて思いながら見ています。

投稿: 田吾作 | 2008年11月25日 (火) 02時57分

impact 田吾作さん
私もテレビドラマはよく見ますが、実際との違いのあることは仕方ないことでしょう。

一番気になるのは、大きな事件が発生するとメディアから聞こえてくる評論家と称する方々の事件分析です。
余りにも、現場を知らなすぎる評論が多いことに腹の立つこともあります。まして、それが警察OBなどという連中の場合には余計です。
まあ、そんなことを電波に乗せて視聴率を上げようとするメディアにも問題はあるでしょうが・・・

投稿: isoxp | 2008年11月25日 (火) 09時33分

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