法医学リーズン《30》
(2) 自他殺判断上の着眼点
絞殺、自絞死とも、同一の死体所見を呈します。したがって、死体所見か
ら自他殺を判断することは、極めて困難です。結局は、自殺の動機がある
か、絞頸以外に他の致命傷があるか、他人から加えられた損傷があるか、
現場に不自然な状況はないか、などを検討して総合的に判断するほかは
ありません。
ただ、自絞死であるとすれば、索条の掛け方絞め方は、死者が自分の独
力でやれるような掛け方、あるいは絞め方でなければなりませんから、その
可能性を十分に検討することが大切です。
◎ 捜査官として、自他殺を判断する一般的着眼点
① 索条の有無
○ 自絞死
・ 索条は、頸部を絞めたままの状態になっている。
(ただし、発見者・家族などが外していることがある)
● 絞 殺
・ 索条が頸部から外されている場合、他殺の可能性が強い。
(統計上、約70%が索条が取り外されていた)
② 索条の種類
○ 自絞死
・ 柔らかくて皮膚に痛みを感じないようなもの、例えば、腰紐・たすき等を
使用することが多い。
● 絞 殺
・ 革バンド・荒縄等、硬くて痛みを感じるものを使用し、特に、針金を使用
しているときは他殺の疑いが強い。
③ 索条の継ぎ足しの有無
○ 自絞死
・ 索条を継ぎ足し、長くして使用しているときは自殺が多い。
● 絞 殺
・ その場にある物を使用していることから、継ぎ足していないことが多い。
(ただし、計画的犯行の場合を除く)
④ 索条の部位
○ 自絞死
・ 索条は、頸部のほぼ中央部を水平かつ整然と囲周している。
● 絞 殺
・ 索条が頸部の上・下に乱れて巻かれていることが多い。
・ 索条が口や顎に掛かっているときは他殺。
⑤ 索条の囲周回数
○ 自絞死
・ 自殺の場合、囲周回数が多い。通常は2~3回以上巻かれていること
が多いが、例外として、1回ということもある。
● 絞 殺
・ 他殺の場合、何回も首に巻きつけている余裕がないために、通常は
1回、多くても2回程度である。
⑥ 索条の本数
○ 自絞死
・ 自殺の場合、1本の索条で絞めている。
(2本以上で絞めることは、不可能)
● 絞 殺
・ 2本以上の索条で絞めているときは、他殺である。
(1本の索条では、生き返ってしまうと考えて、さらに索条を追加して使用
することがあるからである)
⑦ 索条の緊縛状態
○ 自絞死
・ 一般的に下側が強く、上側は緩くなっている。
(絞めているうち徐々に力が入らなくなるため)
● 絞 殺
・ 2回以上巻かれていることは少ないが、2回以上巻かれているときは、
一番下が強くて、途中は緩く、最後に最も強い。
(とどめをさしている)
⑧ 索条の結節の有無等
○ 自絞死
・ 頸部に巻いた索条を結んでないことは数少ない。
(これは、結ばないと索条が緩んで意識を回復するためであるが、例外的
には、ゴム紐など結ばなくても緩まないものを使用した場合に、結節のな
いことがある)
・ 結び目は、最初強く、終わりに従って弱くなっている。
● 絞 殺
・ 原則的には、結び目がないときは他殺である。
・ 結び目が多数あるとき、又は、最後の結び目が強くなっているときも他殺
の疑いが強い。
(これは、自殺の場合、徐々に力が入らなくなって行くため、自殺者には
不可能なことだからである)
⑨ 結節の位置
○ 自絞死
・ 結び目は、結ぶのに都合の良い前頸部正中や後頸部正中が一般的であ
る。ただし、いずれかの手が不自由な者の場合、側頸部(弱い手の方)に
あることがある。
● 絞 殺
・ 頸部の正中線にあることもあるが、一定していない。
・ 正中線に結び目がないときは他殺の疑いが強い。
⑩ 両端末までの長さ
○ 自絞死
・ 索条が長い場合は別として、通常、索条の末端は、結び目からほぼ同
じ長さになっている。
● 絞 殺
・ 結び目からの索条の長さが不ぞろいの場合は、他殺の疑いが強い。
(あわてて絞めるために、両端の長さが不ぞろいになる)
⑪ 狭雑物の有無
○ 自絞死
・ 索条の下及び間に、髪や着衣等をはさんでいることが少ない。
● 絞 殺
・ 頭髪・着衣の襟・雑草などをはさんでいるときは、他殺の疑いが強い。
⑫ 頸部損傷の有無
○ 自絞死
・ 頸部に爪痕や吉川線などの損傷はない。
● 絞 殺
・ 頸部を絞められた際、索条を取り除こうとして被害者が自分の頸部を
引っ掻いた傷跡(吉川線)や、爪痕が残されていることがある。
⑬ 手指・掌への繊維の付着
○ 自絞死
・ 自殺の場合、自分で自分の頸部を絞めることから、手指・掌に索条の
繊維が付着している。
● 絞 殺
・ 他殺の場合、被害者が、絞められるのを防ぐために、索条を取り除こ
うとすることから、その指頭に若干付着していることもあるが、手掌面に
は付着していない。
※ 吉川線=よしかわせん=警視庁の元鑑識課長、吉川氏が発表した殺人
(絞扼殺)被害者の前頸部に縦に走る引っ掻き傷をいう。
絞扼殺の場合、被害者は頸部にかかっている索条や加害者の
指又は腕などをもぎ取ろうとして索条や加害者の腕ばかりでなく
自分の頸部にまで爪を立てるために表皮を剥脱し、縦に走る創
傷を作ることがある。この創傷を吉川線といい、吉川線があれば
殺人とまでいわれる。
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コメント
遅くなりました。
ブログをやるのはいつも夜なので、怖くて見られませんでした。
昼間なら、そんなに怖がることもないのですが、夜はどうもいけません。
このテーマなら怖がることもなかったのですが、読んだあとだから言えることです。
この法医学の知識をお借りして〔相棒・田吾作篇〕でも書こうかな?
それと〔頑固オヤジさん〕がご迷惑をおかけしますが、いたって気のいい人ですから、ゆっくりと付き合ってあげてください。
本人は感謝しています。
投稿: 田吾作 | 2008年5月 9日 (金) 17時17分
前にも書きましたが、各論になるとかなり厳しい内容になってしまいますが、まあ、そういう事か! 位で読み流してくださればいいんじゃないですか。
田吾作流、相棒編を是非読んでみたいですねー・・・
頑固オヤジさんの件はチョットも迷惑なことはありません。一人でも多くのお仲間が出来、少しでも写真の面白さを知って頂ければ、写真家冥利に尽きるというものです。何の遠慮も要りませんから、田吾作さんからも宜しくお伝え下さい。
投稿: イソップ | 2008年5月 9日 (金) 22時23分