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2008年4月

2008年4月15日 (火)

法医学リーズン《28》

ア 索 溝
  縊死の場合と同様、死者の頸部には索溝(絞死の場合、絞溝とも言う)が
 残っています。絞死の索溝は、縊死の場合と異なり、甲状軟骨(のどぼとけ)
  の高さのところを水平輪状に一周しているのが通常です。
  索溝の深さは、柔らかい前頸部にやや深く残っており、また、索条に結節
 がある場合には、当該結節の部分が特に深くなっています。
  さらに、索溝は、強く絞められたとき、索条が長く巻き付けられていた時、
 細い索条で絞められたときなどには、細くかつ深く残っていますが、その逆
 の場合には、浅く、時には、不鮮明で見落としがちです。死者が乳・幼児で
 ある場合には、わずかな圧力で窒息するために、索溝が不鮮明なことがあ
 りますから、十分に注意しなければなりません。
イ 皮下出血
  索溝の箇所には、皮下出血が見られるのが通常です。特に、細くて固い
 索条によって絞められた場合には、表皮が剥脱されて血がにじみ出ていた
 り、あるいは、皮膚が挫砕して血漿がにじみ、凝結して革皮状になっている
 ことがあります。これに対して、柔らかくて幅の広い索条で絞められた場合
 には、皮下出血等が見られないことがありますので注意しなければなりませ
 ん。
ウ 顔面のうっ血・腫脹
  次項で説明する溢血点の出現と同様の理由から、顔面は、著しくうっ血・
  腫脹し、口唇のチアノーゼも顕著です。ただし、これは溢血点についても
  いえることですが、乳・幼児の場合には、うっ血が見られないことがありま
  すので、十分注意しなければなりません。

Dscn084231_3
 ※ 索溝前頸部の状況

Dscn084332_2
 ※ 索溝後頸部の状況

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法医学リーズン《27》

3   絞  死
  絞死とは、索条を頸部に巻き付け、自己の体重以外の力(通常は自己の手
 又は他人の手)を利用して頸部を絞めて死亡することをいいます。
  普通、索条には、腰紐、帯、日本手ぬぐい、ネクタイ、ストッキング、縄、ロー
 プ、電気コードなどが用いられていますが、時には、被絞殺者着衣、例えば、
 浴衣の襟などを利用して絞殺する場合などもみられます。
  絞死には、他人が絞めて殺す絞殺と、自分で自分の頸部を絞めて死亡する
 自絞死とがありますが、双方とも、窒息死共通の死体所見を呈しますので、
 絞死体の自他殺の判断を誤りなく行うのは、非常に困難です。
 (1)  絞死体の外部所見
   頸部圧迫による窒息死の死体所見は、頸部内血管の閉塞と大いに関係
  がありますので、ここで、頸部内血管の状況と、その閉塞に要する圧力につ
  いて説明しておきます。
   頸部内には、外表部に最も近いところに頸静脈、その内側に頸動脈があ
  り、さらに中心部を椎骨動脈が走っています。そのために、頸静脈は、外部
  からわずかな圧力を加えただけで完全に閉塞されてしまいます。これに対し
  て、頸動脈が閉塞されるには、約3.5~5Kgの圧力が必要です。さらに、椎骨
  動脈に至っては、約20Kgもの圧力が必要である、といわれています。
   したがって、人間の手の力によって、頸動脈、中でも椎骨動脈を閉塞する
  ことは不可能に近いことです。また、絞死は、重い体重によって頸部を急激
  に圧迫する縊死とは異なり、徐々に圧迫されていきますから、頸動脈の閉塞
  にはそれなりの時間がかかります。つまり、その間に頸動脈及び椎骨動脈
  から顔面及び頭部へ血液が送り込まれますが、頸静脈が閉塞してしまって
  いるため、その血液が心臓へもどることができず、顔面や頭部にたまってし
  まいます。これが、後に説明する顔面のうっ血及び眼瞼結膜等の溢血点の
  顕著な発現の原因となるわけです。
   したがって、絞死の死体所見は、非定型的縊死と似かよった点もあります
  が、縊死とはこのような点で異なってきます。


  
 

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2008年4月10日 (木)

法医学リーズン《26》

(4)  自他殺判断上の着眼点
   縊死の大部分が自殺であることについては前に説明しました。しかし、ま
  れには、他の方法で殺害した上、これを首吊り自殺に偽装する、いわゆる
  偽装縊死の例があります。
   したがって、縊死体を検視するに当たっては、この偽装縊死を見破ること、
  すなわち、自他殺の判断を誤りなく行うことが、最も重要ですから、縊死体
  のほとんどが自殺であるからといって、先入観をもって死体を取り扱うこと
  は現に慎まなければなりません。
   次に、自殺と偽装縊死とを見分けるための一般的な着眼点を示しますが、
  実際には、この他に自殺の原因の有無・着衣の乱れ・室内や家具、調度品
  の乱れ等を総合的に検討した上で判断しなければなりません。

◎ 捜査官として、自他殺を判断する一般的着眼点

① 縊死以外の死体所見の有無
 ○ 自殺縊死
   ・ 縊死の死体所見以外の死体所見がない。
 ● 偽装縊死
   ・ 縊死以外の死体所見、例えば、致命傷となる損傷、扼痕、一酸化炭素
    中毒などがある場合は他殺の疑いが強い。

② 索溝の状況
 ○ 自殺縊死
   ・ 索溝は一本で連続している。
   ・ 定型的縊死の場合、前頸部から両側頸を対照的に後頭部上方へ向か
    う索溝があり、その索溝は、前頸部に最も深く、後頭部へ向かうに従って
    浅くなっている。ただし、非定型的縊死の場合は不統一であるが連続し
    ている。
 ● 偽装縊死
   ・ 切断された索溝が2本以上ある場合には、絞殺後、縊死を装った疑い
    が強い。
   ・ 同じ深さの索溝が頸部を一周している場合には、絞殺の疑いが強い。
   ・ 定型的縊死の場合、索溝には皮下出血がほとんどないから、索溝に皮
    下出血がある場合は、絞殺の疑いが強い。

③ 頸部の損傷等の有無
 ○ 自殺縊死
   ・ 頸部には、索溝以外の損傷はほとんどない(ただし、非定型的縊死で索
    溝がずれた場合の皮下出血を除く)。
 ● 偽装縊死
   ・ 頸部に扼痕や、索溝と直角する爪痕(吉川線)があった場合は、扼殺、絞
    殺後の偽装縊死と考えてよい。

④ 顔面のうっ血、腫脹の有無
 ○ 自殺縊死
   ・ 非定型的縊死の場合、顔面はうっ血、腫脹しているが、定型的縊死の場
    合、顔面は蒼白で腫脹していない。
 ● 偽装縊死
   ・ 顔面のうっ血、腫脹が顕著である場合、絞殺、扼殺の疑いが強い。

⑤ 溢血点の有無
 ○ 自殺縊死
   ・ 定型的縊死では通常溢血点はなく、非定型的縊死では現れる。
 ● 偽装縊死
   ・ 溢血点が著明であるとか、溢血点が集合した溢血斑が現れるのは、絞死
    扼死の特徴である。

⑥ 死斑の状況
 ○ 自殺縊死
   ・ 死斑は、上、下肢に著明に現れている。
 ● 偽装縊死
   ・ 背部、胸部、腹部などに死斑がある場合には、他の方法で殺害した後の偽
    装縊死の疑いが強い。

⑦ 尿等失禁の状況
 ○ 自殺縊死
   ・ 着衣を伝わって足先等へ流れている。
   ・ 死体の直下の床等に流れ落ちている。
 ● 偽装縊死
   ・ 背部、腹部へ失禁が回っている場合には、偽装縊死の疑いが強い。
   ・ 死体と離れた場所に失禁があったり、着衣には失禁があるのに床等にない
    場合は偽装縊死の疑いが強い。

⑧ 手指の付着物の有無
 ○ 自殺縊死
   ・ 手指に、索条と同じ繊維や索条を掛けた際の梁等のほこりが付着している。
 ● 偽装縊死
   ・ 手指に索条と同一の繊維が付着していないときは、死者が索条に触れてい
    ないことを示しており、偽装縊死の疑いが強い。

⑨ 支え木及び索条の状況
 ○ 自殺縊死
   ・ 支え木に死者本人の指紋が付いていることがある。
   ・ 支え木にささくれ立ち等はない。
 ● 偽装縊死
   ・ 死体を吊り上げた場合には、索条を掛けた支え木に上方へ向かうささくれ
    立ち(吊り上げる方)と、下方へ向かうささくれ立ち(反対方向)が見られる。
   ・ 死体を吊り上げた場合、索条に圧平化や起毛現象が見られる。
  

   

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2008年4月 6日 (日)

法医学リーズン《25》

イ  顔面のうっ血・腫脹
   定型的縊死の場合には、頸部が急激かつ完全に閉塞され、血液が顔面
  及び頭部へ流れて行かないために、顔面は蒼白で、うっ血や腫脹は見られ
  ません。これに対し、非定型的縊死の場合は、全体重が頸部に掛からなか
  ったり、又は、索条が完全に頸部全部を絞める働きをしないなどの理由に
  より、頸静脈だけが閉塞し、頸動脈の閉塞は不十分です。
   そのため、顔面等から心臓へ戻ることができなくなった血液がたまって、
  顔面にうっ血・腫脹が現れるのが通常です。
ウ  眼瞼結膜・眼球結膜の溢血点
   定型的縊死の場合には溢血点が見られないのが通常ですが、非定型的
  縊死の場合には、眼瞼結膜・眼球結膜に多数の溢血点が現れています。
エ  舌の挺出
   索条によって頸部が圧迫される際に、舌根部が押し上げられることから、
  定型的縊死・非定型的縊死を問わず、歯列の間から舌が出ているのが通
  常です。
オ  唾液等の流出
   索条によって、唾液腺が圧迫されるために、唾液が口から流出していま
  す。また、鼻汁の流出も見受けられます。
カ  尿等の流出
   尿及び大便を排出している(失禁)ことが多く見られます。また、男性の場
  合には、陰茎が勃起し、精液を漏らしていることがあります。これは、窒息
  の際の痙攣によるものです。
   ところで、尿や唾液・鼻汁などは下方へ流れますので、その流れ方から
  死亡時の体位等を推定することができます。特に、失禁尿は、直下の床な
  どに流れ落ちることが多いことから、その失禁の跡が縊死体から離れてい
  る場合には、死亡後に死体を移動したことが推定されます。
   したがって、失禁の状態を確認することは、死体観察上、重要なことです。
キ  死斑の現出状況
   死斑は、リーズン《6》で説明したとおり、死亡時の体位の下方に現れるもの
  ですから、いわゆるぶら下がった状態で死亡している縊死では、上・下肢に
  著明に現れます。また、頸部を圧迫している索条から約1センチメートル上方
  の頸部や顔面にも現れます。
   なお、死斑は、死後約10時間後では転移しませんので、死斑の現出状況
  から死亡時の体位を知ることができます。例えば、背部・腹部等に死斑があ
  る縊死体(早期で死斑の転移期にあるものを除く。)は、死亡後に死体を移動
  したことを現していますから、犯罪による死亡である可能性がでてきます。
ク  痙攣期における損傷
   縊死には損傷を伴わないのが通常です。しかし、窒息時の痙攣の影響に
  よって、周囲の物体に手・足等を当て、このため表皮剥脱や皮下出血ができ
  ることもありますから、死体に損傷がある場合には、周囲の状況から見て自
  傷の可能性があったかどうかを検討することが必要です。

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2008年4月 2日 (水)

法医学リーズン《24》

(3) 縊死体の外部所見
   定型的縊死と非定型的縊死では、頸部の圧迫の程度に大きな相違があ
  りますから、死体所見も全く異なったものになります。
  ア 索 溝 (写真参照)
    死体から索条を取り外すと、頸部には、索条の後を示す索溝が残って
   います。
Dscn084153_2 定型的縊死の場合、この索溝は、前頸部
において最も深く、側頸部を左右対象に走
り、斜め上方に向かうに従って浅くなり、後
頸部で消失していますが、非定型的縊死
の場合には、体が倒れかかっている方向
に最も強く、その反対側へ向かうに従って
弱くなっているのが通常で、体位及び索条
のかかり方によって不統一の現れ方をし
ます。 
なお、針金やロープなどのように細くて硬
い索条を用いた場合には、頸部の表皮が
すりむけ(表皮剥脱)、革皮様化して暗褐色を呈するために、索溝が顕著に現れます。
これに対し、帯やタオルなどのように柔らかくて幅の広い索条の場合には、表皮    剥脱がなく、単に索条と同じ幅の蒼白の陥凹(蒼白帯)が見られるだけという場合   が多くあります。
     この蒼白帯は、頸部を動かすと消失してしまいますので、死体の取扱いに当たっ  ては十分に注意しなければなりません。
    また、首を吊って間もなく、死体から索条を取り除いた場合には、索溝は
   薄く、しかも、検視の時期が早い場合には、圧迫部の皮膚乾燥(革皮様化)
   が進んでいないため、変色がみられない場合がありますので、索溝を見落
   とさないようにしなければなりません。

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