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2008年4月10日 (木)

法医学リーズン《26》

(4)  自他殺判断上の着眼点
   縊死の大部分が自殺であることについては前に説明しました。しかし、ま
  れには、他の方法で殺害した上、これを首吊り自殺に偽装する、いわゆる
  偽装縊死の例があります。
   したがって、縊死体を検視するに当たっては、この偽装縊死を見破ること、
  すなわち、自他殺の判断を誤りなく行うことが、最も重要ですから、縊死体
  のほとんどが自殺であるからといって、先入観をもって死体を取り扱うこと
  は現に慎まなければなりません。
   次に、自殺と偽装縊死とを見分けるための一般的な着眼点を示しますが、
  実際には、この他に自殺の原因の有無・着衣の乱れ・室内や家具、調度品
  の乱れ等を総合的に検討した上で判断しなければなりません。

◎ 捜査官として、自他殺を判断する一般的着眼点

① 縊死以外の死体所見の有無
 ○ 自殺縊死
   ・ 縊死の死体所見以外の死体所見がない。
 ● 偽装縊死
   ・ 縊死以外の死体所見、例えば、致命傷となる損傷、扼痕、一酸化炭素
    中毒などがある場合は他殺の疑いが強い。

② 索溝の状況
 ○ 自殺縊死
   ・ 索溝は一本で連続している。
   ・ 定型的縊死の場合、前頸部から両側頸を対照的に後頭部上方へ向か
    う索溝があり、その索溝は、前頸部に最も深く、後頭部へ向かうに従って
    浅くなっている。ただし、非定型的縊死の場合は不統一であるが連続し
    ている。
 ● 偽装縊死
   ・ 切断された索溝が2本以上ある場合には、絞殺後、縊死を装った疑い
    が強い。
   ・ 同じ深さの索溝が頸部を一周している場合には、絞殺の疑いが強い。
   ・ 定型的縊死の場合、索溝には皮下出血がほとんどないから、索溝に皮
    下出血がある場合は、絞殺の疑いが強い。

③ 頸部の損傷等の有無
 ○ 自殺縊死
   ・ 頸部には、索溝以外の損傷はほとんどない(ただし、非定型的縊死で索
    溝がずれた場合の皮下出血を除く)。
 ● 偽装縊死
   ・ 頸部に扼痕や、索溝と直角する爪痕(吉川線)があった場合は、扼殺、絞
    殺後の偽装縊死と考えてよい。

④ 顔面のうっ血、腫脹の有無
 ○ 自殺縊死
   ・ 非定型的縊死の場合、顔面はうっ血、腫脹しているが、定型的縊死の場
    合、顔面は蒼白で腫脹していない。
 ● 偽装縊死
   ・ 顔面のうっ血、腫脹が顕著である場合、絞殺、扼殺の疑いが強い。

⑤ 溢血点の有無
 ○ 自殺縊死
   ・ 定型的縊死では通常溢血点はなく、非定型的縊死では現れる。
 ● 偽装縊死
   ・ 溢血点が著明であるとか、溢血点が集合した溢血斑が現れるのは、絞死
    扼死の特徴である。

⑥ 死斑の状況
 ○ 自殺縊死
   ・ 死斑は、上、下肢に著明に現れている。
 ● 偽装縊死
   ・ 背部、胸部、腹部などに死斑がある場合には、他の方法で殺害した後の偽
    装縊死の疑いが強い。

⑦ 尿等失禁の状況
 ○ 自殺縊死
   ・ 着衣を伝わって足先等へ流れている。
   ・ 死体の直下の床等に流れ落ちている。
 ● 偽装縊死
   ・ 背部、腹部へ失禁が回っている場合には、偽装縊死の疑いが強い。
   ・ 死体と離れた場所に失禁があったり、着衣には失禁があるのに床等にない
    場合は偽装縊死の疑いが強い。

⑧ 手指の付着物の有無
 ○ 自殺縊死
   ・ 手指に、索条と同じ繊維や索条を掛けた際の梁等のほこりが付着している。
 ● 偽装縊死
   ・ 手指に索条と同一の繊維が付着していないときは、死者が索条に触れてい
    ないことを示しており、偽装縊死の疑いが強い。

⑨ 支え木及び索条の状況
 ○ 自殺縊死
   ・ 支え木に死者本人の指紋が付いていることがある。
   ・ 支え木にささくれ立ち等はない。
 ● 偽装縊死
   ・ 死体を吊り上げた場合には、索条を掛けた支え木に上方へ向かうささくれ
    立ち(吊り上げる方)と、下方へ向かうささくれ立ち(反対方向)が見られる。
   ・ 死体を吊り上げた場合、索条に圧平化や起毛現象が見られる。
  

   

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コメント

失礼致します。豆云式軟禁生活という、茨城県の方のブログをたまに読ませていただいています。先ほど読ませていただいている際に、「彼女と付き合っているときに脅迫的に浣腸等をしていた」という文を目にしました。
私の兄は縊死で亡くなりました。病院から衣類を返された際に、下着には精液のみついていました。糞尿等の話を知っていたので、とても疑問に感じていました。
先日法医学の先生にメールしましたが、送信内容が悪かったようで違った意味での回答をいただきました。
兄は彼女への手紙や、プレゼントを残して亡くなりました。私たち家族には隠していましたが、きっと精神的な強迫観念等があったように思います。私自身は、親からの「プロ野球選手になれ」ということにより10年ほど悩んでいた経緯はありますが、それは悩みの域を超えるものではなかったように思います。しかし気質であることは間違いないようです。
すみません。長くなってしまいました。
「精液のみ付着の下着」はありえるかどうか教えていただけるとありがたいです。私が到着した際には兄は病院であったため、どういう状態であったかはわかりません。しかし病院から返された服には、精液のみが付着していました。
宜しくお願い致します。

投稿: | 2011年4月 2日 (土) 02時56分

impact 名無しさんへ
コメントの内容から推察するに、まじめに疑問をお持ちのようなのでそれなりに解る範囲でお答えします。
まず、文面からは、縊死で亡くなったということですが、自殺されたのか、他意介在があったのかが不明です。
従って、発見されたときの状況等が判りませんので、なぜ精液だけが漏出していたかは不明に近いとしか言えません。
通常の場合の首吊り死(縊頸による死亡)は、ほぼ100%、失禁、脱糞があります。
精液の漏出はその後に発現することが多く、従ってこの3様は混在していることが殆どと見てよいと思います。
ただし、精液の漏出は多少の時間が経過してから起こることも多く、検死、検案のときに発見されることが多いのも事実です。
今回の場合に端的に判断できることは、死亡後の発見時に下着を取り替えたか、死亡直前に大小の排泄が行われたかということが考えられます。
従ってこのような現象が絶対無いということは言えません。
もうひとつ疑問がありますが、自殺にしろ、他殺にしろ縊死は要検案死体です。
すなわち、警察官の検案を受けることになりますが、この際には、着衣や所持品はいったん警察が押収した上で遺族等に返還されることになっています。
病院から、遺族等が直接受け取ることはありませんので、その辺にも疑問が残ります。
貴兄から得られた情報ではここまでしか分析できませんが、検案というのは、自分の耳目、感覚で検分して結論を導き出すものであるということをご了解下さい。

投稿: イソップ | 2011年4月 2日 (土) 08時56分

ありがとうございます。監察医の方が書かれていますが、いなかの検死はとてもいい加減なものです。私の住む地域では、美人局的な手口により知人が何人も亡くなっています。結婚し新築の家を購入したばかりの人間に近づき、奥さんにばれるのはまずいという状況の中自殺に追い込まれる。定年を迎え、一人でのみに行った先で声をかけられ、まじめだったご主人が自殺等、身近で起きています。線路上での変死だった先輩は、頭が陥没し、顔には殴られたあざがありました。家族は解剖を望まなかったので、自殺となりました。私は、解剖も視野に入れて調べて欲しい旨つたえましたが刑事さんは怒った様子で「自殺で間違いはない」ということをおっしゃっていました。兄は遺書にて「ずるい」ということを彼女に伝えていました。夫、子供がいることを後から伝えられたようです。本来であれば詳しく調べていきたいところではありますが、わたしの力不足で調べるに至っておりません。ずっと本などで、どういうことなのかを追っています。精液のみに関して、両親に下着の交換はあったのかを確認してみます。刑事さんからは、相手の女性も大変だからこれ以上調べるなというようなことを言われました。長々とすみません。ご回答ありがとうございました。感謝。

投稿: | 2011年4月 2日 (土) 23時19分

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