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2008年2月

2008年2月29日 (金)

法医学リーズン《21》

(4)  窒息死体の一般的外部所見
   このような所見があれば絶対に窒息死である、と断定できるような窒息死
  特有の死体所見というものはありません。窒息の種類や経過によって異な
  った死体所見を呈するからです。したがって、その死因が窒息なのか否かを
  判断することは非常に困難ですが、結局、当該死体には窒息死にしばしば
  見られるような死体所見があるかどうか、窒息の原因となった痕跡があるか
  どうかなどを総合的に検討して判断するほかはありません。
   窒息死体には、通常、次のような所見があります。
  ア 顔面がうっ血し浮腫状(チアノーゼ・・・顔面がうっ血し、むくみあがった状
       態)を呈しています。しかし、通常、定型的縊死や鼻口圧迫による外呼吸口
   の閉塞(特に乳幼児)などの場合には、このような所見はありません。
  イ 眼瞼結膜(まぶたの裏)・眼球結膜(目玉の白い部分)などに溢血点が出て
   います。ただし、定型的縊死や鼻口圧迫による外呼吸口の閉塞などの場
   合には、溢血点の発現もないのが通常です。
  ウ 死斑が早くかつ強く現れます。これは、窒息死した場合には、血液が流
   動性になるためであるといわれています。ただし、溺死の場合には、死斑
   が見られないのが通常です。
  エ 糞・尿・精液を洩らし、時には、陰茎が勃起していることがあります。
    これは、死亡直前における痙攣によるものといわれています。
  オ 頸部圧迫があったときには、舌をかんでいます。これは、頸部を圧迫す
   ると、同時に舌根部が押し上げられるために、舌が口から出てしまうことに
   より生じる所見です。
(5) 窒息死体の内部所見
   窒息死の内部所見については、3大所見といわれているものがありますが、
  これは、解剖の結果、初めて分かることなので、ここでは、その項目を挙げる
  にとどめておきます。
  ア 血液が暗赤色で流動性になる。
  イ 心臓・肺臓等の臓器に溢血点が現れる。
  ウ 各臓器がうっ血している。

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2008年2月14日 (木)

法医学リーズン《20》

(3)   窒息の症状及び経過
   窒息の症状及び経過については、一般的に、

  ① 窒息開始後20~30秒は無症状(前駆期)
  ② 次いで、呼吸運動が激しくなって失神する(呼吸困難期)
  ③ 引き続き、痙攣が起きて、手・足をばたつかせ、痙攣が最も強いとき
    には、全筋肉がいちじに収縮して全身が一本の棒のようになることさ
    えある。また、大小便・精液を洩らす(痙攣期)
  ④ その後、呼吸運動や痙攣が止まって静かになる(呼吸停止期)
  ⑤ さらに、再びあえぐような呼吸を始める(あえぎ呼吸期)                                         
       このあえぎが止まると、再び呼吸を始めることはありませんが、心臓は
  その後、5~20分間搏動を続けます。なお、窒息が開始されてからあえぎ
  呼吸が停止するまでの時間は、通常3~5分である、といわれています。
   ところで、前に説明したように、人の体内の各臓器が活動を続けるため
  には酸素が必要不可欠であり、体内の酸素が不足すると各臓器が障害を
  受けます。そして、身体の組織の中で酸素を最も多く必要とするのは脳で
  すが、特に、知覚・判断などの高度の精神作用を営む部分に当たる大脳
  皮質細胞は、最も酸素を必要とします。もし、窒息の原因である呼吸障害
  が生じると、その後わずか3分くらいで細胞が死滅するといわれています。
   また、呼吸や循環を支配する中枢は、酸素不足に対する抵抗性が比較
  的強いのですが、それでも10分くらいで完全に細胞が死滅するといわれて
  います。
   したがって、窒息が始まってから3分以上が経過した場合には、大脳皮
  質細胞が死滅していますので、たとえ生命は助かっても、意識がないまま
  いわゆる植物人間の状態になってしまいます。
   また、3分以内に窒息状態から助けられた場合には、意識は戻りますが、
  その後、逆行性健忘症が起こることがあります。そうすると、窒息前のある
  時点から意識回復までの間の出来事をすべて忘れてしまいますから、例
  えば、首を絞められて窒息したのに、その事実さえ記憶にないという事態
  も生じます。
   ですから、絞頸を手段とした殺人未遂事件などの場合には、この点につ
  いて十分注意しなければなりません。

  

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2008年2月 4日 (月)

法医学リーズン《19》・・・(付)死因究明、遺族置き去りについての考察

(2)  窒息の原因
  外窒息の原因は、通常、①気道の閉塞、②呼吸運動の障害、③低酸素空
 気を吸入する場合の三つに大別されますが、具体的な外窒息の態様には、
 次のようなものがあります。
 ア 外表からの気道圧迫による気道閉塞・・・縊頸・絞頸・扼頸
 イ 鼻口圧迫等による外呼吸口の閉塞・・・手・乳房・衣類等による鼻口圧迫
 ウ 固形物等の吸引による気道閉塞・・・もち・硬貨・玩具などの吸引
 エ 液体吸引による気道閉塞・・・溺死
 オ 胸腹壁圧迫による呼吸運動障害・・・土中埋没・機械等による胸腹部圧迫


※ 死因究明 遺族置き去り(読売新聞 08'2.4朝刊)についての考察

 新聞の内容は省略するが、確かに検視制度の見直しの時期が来ていることは事実であろう。
 この問題は検視を担当する警察官、あるいは診断書(死体検案書)を作成する医師、報告を受ける検事のそれぞれがもう少し、法医に対する理解と能力があればかなり改善されることであろうと思う。
 また、警察も単に司法警察員の資格があるというだけで安易に検視・検案に当たらせていることはないと思うが、国家資格とまでは行かないまでも内部において、担当官としての何らかの資格を設けてもよいのではないか。各種令状を請求する指定司法警察員のように公安委員会の指定を受ける等の方法もあるし、そのためには特別な教養・審査を行い、必要な能力を身に付けさせることも可能であろう。検視官(刑事調査官)と言われる本官は、それぞれ大学の医学部法医学教室(講座)等でそれなりの研修を受けていると聞くが、すべての警察官にこれを行うことは物理的にも不可能である。変死は何でも警察という考え方にも、全てを警察の責任とする体制にも無理がある。

 さて、新聞によれば、07'の警察が取り扱った異状死体は15万4579体(交通事故死を除く)とのことであるが、では、実際に検視・検案の必要だった死体は何体だったのであろうか?
警察には、明らかに病死である死体についても、異状死体として届けられれば見分の義務は課せられているし、自殺死体についても見分の対象となる。自殺死体は見分をして当然であろうが、病死が明白であるにもかかわらず検案対象として警察が取り扱うというあたりに問題がないのであろうかと考えてしまうのは私だけではないと思う。
 これら全てを計上した数字が15万4579体ということであろうが、この中に明らかな病死は果たして何体あるのか、どの位の割合を占めるのかという問題もあろう。
 もし、それらの死体を除けば本当の異状死体というのはどの位の数になるのであろうかということも知りたいものである。

  この問題は、制度見直しに関し、真剣に検討する必要の事であると思う。解決策は何かと考えたときに、まず、頭に浮かぶのが「医師法」である。
この法律は、旧世代の遺物とも思えるほど古く、内容的にも多くの問題を抱えており、本件については、特に第20条がネックとなっている。
 医師は自分が診た患者でさえ、診療時から24時間を過ぎてしまえば死亡診断書は書けないのである(同条但し書きの特例はあるが)。然るに、死亡者は要検案死体として警察が介入することとなり、異状死体として検視を受けることとなる。これこそ、遺族の感情は如何ばかりかと思う。
 この際に医師法の改正ということも検討してみては如何であろうか。もっと、医師に幅広い権能を与えても良いであろうし、少なくとも、警察官よりは専門知識を持っているということには社会的にも首肯できるところであろうから、そうすることによって、警察の機能の配分、時間的余裕も図られることとなり、より正確な正しい検案を期待できることになると思う。

 また、解剖に関しては、全ての異状死体を解剖に付す必要はもちろん無いし、なんでも解剖すれば良いというものでもあるまい。明らかに病死者である者の遺族によっては、非常に奇異感を持ったり、死者に対する肉親感情というものもあり、事件あるいは事件性の疑われるものは司法解剖を当然としても、安易に解剖率を上げるだけが良いとは考えものである。
 解剖さえすれば何でも判るというのも早計で、これこそ解剖医の知識経験、能力に待つところが大なのであることも承知しておく必要があろう。

 いずれにしても、司法、行政、法医の各機関が協力し、知恵を出し合って解決策を模索し、関係法令等の整備改善を立法機関に働きかける事によって、誰もが信頼できる納得のいく社会秩序を一日も早く実現してもらいたいものである。

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