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2007年5月18日 (金)

法医学リーズン《1》

 5月17日(木)付、読売新聞の朝刊一面に「変死体解剖わずか9%」との大見出しの元に、我が国における変死体の取扱状況を解説した記事が掲載され、さらに関連記事が三面にも大きく報じられている。
 最近の血なまぐさい事件を見るに付け、人の死について関心を持たざるを得ない時代となったことを強く感じた次第である。
 記事の内容をここに紹介すると冗長となり、ややこしくなるので省略するが、大きな見出しだけでも「犯罪・伝染病 見逃す恐れ」「死因究明なおざり」などと表示されている。
統計は2005年のものであるが、変死体の解剖件数がわずか9%という数字にはいささか驚くと共に、確かに新聞の言うように死因究明がこれで万全なのかとの疑問を抱かざるを得ない。
 死因の明らかでない死体が発見されれば、警察官が検視あるいは見分をすることとなる(検視規則・死体取扱規則)が、もし、当該検視担当官が、その知識が不十分なものであったため、他殺を自殺または病死などと認定してしまったとすれば、凶悪な犯罪が闇から闇へと葬り去られるばかりか死者の人権を侵害する重大な事案にもなりかねないこととなる。
 この検視に際しては、警察官も前述の事故防止の観点から、それなりの階級の者が当たることになっていると聞くが、この際、警察嘱託医が立ち会う。新聞によれば、この立会いの医師は、法医学の専門知識の乏しい開業医らも多いそうだ。だから、担当警察官から"事件性は無い"などと聞くと見分もそこそこに、死因を「急性心不全」などという心臓麻痺まがいの死亡診断書を書くのだという。
 しかし、何処の大学の医学部においても就学中の3年次あるいは4年次に法医学についての履修が義務付けられており、それだけの知識は身に付けているものと思うが如何なものだろうか。
 死体見分については屍体を徹底して見分し、元、東京都監察医務院長の上野博士のように、屍体の語るところを聞く知識と能力を身に付けてほしいものである。要は、死亡者から話を聞くことの出来る見分官になれと言うことである。
 話は変わるが、読売新聞の見出しに「はんざい・伝染病 みのがすおそれ」とあるが、この伝染病という言葉はこの場合の使い方として正しいのであろうか?

 ※「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(法律第114号)が、平成10年10月2日に新しく制定され、平成11年4月1日から施行。平成15年10月16日に改正、11月5日施行。伝染病予防法、性病予防法、エイズ予防法は、廃止された。
 新法の特徴として、「伝染病」を「感染症」に改め、感染力の強さや病状の程度を基に危険性の高い順に、一類から四類の四つに分類し、さらに「指定感染症」と「新感染症」を新しく設けた。

 今回は、写真とはちょっと離れて、硬い話題を取り上げてみたが、なにも、解剖率の数字を上げることだけで解決する問題でもないような気がする。現場で取扱う方々の大変な苦労は分かるが、少しでも改善向上を図り、社会から指弾を受けないように頑張ってほしいものである。

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コメント

イソップさんこんばんは。
以前同じ会社の若い男性が
自宅で亡くなっているのを発見されたことがありました。
その時は解剖されて原因を特定するのに時間がかかったのを覚えています。
ですので、何らかの不審な亡くなり方をした人には
必ず解剖をするのだと思っていました。
ちょっとびっくりです。

投稿: ははだよ | 2007年5月18日 (金) 20時59分

ははだよさん、こんばんは。
東京都の場合は、少し変わっていて監察医務院制度と言うのがあり、23区内はこの医務院の検案を受けます。従って検案医が必要と認めれば解剖することが出来るのです。これを行政解剖といいます。
ところが、多摩地区すなわち市町村地区においては警察嘱託医が検案を行うのでその一存では解剖することは出来ません。そこで家族等の承諾を得て行うこととなるんです。(他にも特殊な場合があります。)
簡単に言うと、24時間以内に医師の診察、加療を受けずに死んだ場合は、特異死体として要検案死体となり、(俗に言う変死扱いとなり)警察が介入し、嘱託医の検案を受けないと死亡診断書が発行されません。
色々とややこしいんですが、人の死という重大事ですから仕方ないことでしょう。死亡原因に事件性があるかないかが最重要事項となります。

投稿: イソップ | 2007年5月18日 (金) 21時36分

おはようございます~

私もニュースで知りました。
ちょっと前までは医者が多すぎるような話もあったのに
今では、日本全国医者不足という、信じられないような現実があります。

法医学の部門でもそうなんでしょうね。
経験を積んだ人間が特に注意深く見ないと
見つからないような事は多々あると思います。
簡単に見逃しちゃってる事もあるのでしょう。

事件化されない事件も沢山あるのでしょうね。
犯人も逃げ延びていると言う事も。

9パーセントだったら、残る91パーセントは
闇に葬られているのかと思うと
空恐ろしくなります。

投稿: まるこ姫 | 2007年5月19日 (土) 08時50分

まるこ姫さん、おはようございます。
91%が全部そうだとは思いませんが、いくつかはあるかもしれません。
しかし、9%という数字にこだわるのも変な話で、監察医は一人かもしれませんが、担当する警察官は一人と言うことはないはずですし、それだけの経験者が見分しているわけですから・・・
新聞にあるように「検視局」を作るのもひとつの方法かもしれませんが、現在の監察医務院制度をもっと発展させて全国に設置することのほうがベストだと思います。
今の医務院制度は、戦後、日本人の死亡者の死因を解明し、進駐軍の病気罹患を防ぐためにGHQが作った組織の遺物です。

投稿: イソップ | 2007年5月19日 (土) 10時53分

私のブログにお訪ねいただきありがとうございました。「悠々自適」と「貧乏」とは相反するような気がしますが、心にゆとりを持っていらっしゃるということなのでしょう。
2つのお仕事を専門にしてるのですか?
花の写真はきれいですね。

投稿: s.takahashi | 2007年5月20日 (日) 01時17分

s.takahashiさん、おはようございます。
早速にご訪問有難う御座います。
悠々自適とは、多くを求めず、無理をせずと言う事です。貧乏ながら快適な生活が出来ればそれで良いと言う心境です。写真の世界で色々と人生の経験を経てきましたが、今は花を追いかけている次第です。
私は、まだ、PC経験も浅く勉強中ですので、今後とも宜しくご交誼、ご指導のほどをお願いします。
有難う御座います。

投稿: イソップ | 2007年5月20日 (日) 08時29分

解剖に抵抗のある日本人にとって屍体と話の出来る検視官の養成って大切かもしれませんね。

投稿: taichan | 2007年5月21日 (月) 03時13分

解剖・・・・と聞いて嫌なことを思い出しました、それは祖父が亡くなったときのことです。
正直楽しいおじいさんではありませんでした。頑固で意固地で、でもときどきは優しかったし、それなりに思いでもいっぱいありました。
祖父が死んだときに「死因がよく判らないので解剖させてください」とお医者様がおっしゃったので私たち家族は「いいですよ」と言ってしまったのです・・・・・
戻ってきた遺体はそれこそ頭から何から何まで開けてあって、縦横無尽に傷跡がありました。
肺炎で死んだのに、どうして頭まで?と問いただすと「いや、あれほどわがままを言う人の脳がどうなっているか見たくて」って言われたんですよ!情けなくて涙が・・・・
やらなくてはいけない人を解剖せずに、しなくてもいい解剖はする、日本のお医者様はどこかおかしい人がいるようです。

投稿: きょんち | 2007年5月21日 (月) 03時27分

taichanさんおはようございます。
コメントを有難う御座いました。
あなたのおっしゃるとおり、検視を担当する捜査官の資質の向上が誤診をなくす第一歩だと思います。「生きている人間は"うそ"をつきますが屍体はうそをつきません。どうして自分が死に到ったか、身体全体を使って話してくれるのです。」と某検視官が話していました。

投稿: イソップ | 2007年5月21日 (月) 10時56分

きょんちさんおはようございます。
それは大変嫌な思いをされましたね。何処のお医者さんか知りませんが、もう少し仏様やご遺族の立場に思いやりがあってしかるべきだと思います。確かに解剖に際しては部分的なところだけではなく、全身を精査する必要があるし、医学の発展のためにと言うこともあり、ましてご遺族の了解を戴いた以上医師としては当然な行為だと思いますが、その医師は相当技術的に劣っていたのではないですかね。と言うよりも、解剖には必ず補助者がつき、開いた部分の縫合などに当たるのですが、この補助者の技術的能力によって、復元状態に差が出るそうです。

投稿: イソップ | 2007年5月21日 (月) 11時04分

突然の書き込み失礼します。興味深く内容を拝見しました。
ところで、監察医制度に関してですが、東京は金余り現象がおきているので、設置可能ですが、各地方では現実的には無理だということをこの10年で地方の法医学者は思い知らされました。法律を変えずに、下手に全国展開を唱えると、東京型ではなく、横浜型(費用は遺族負担かつ開業監察医による検案・解剖)の劣悪な監察医制度を全国展開する結果になりそうです。監察医制度の設置根拠である死体解剖保存法自体に、地域格差の原因があったと思います。また、東京も含め、日本の監察医制度では、所轄の素人警察官に遺族対応が任されるので、そこも問題です。遺族対応のことも考えると、諸外国のように警察などにプロの検視担当者が必要と思います。一つの意見としてご参考まで。

投稿: 通りすがりの地方の法医学関係者より | 2007年7月 3日 (火) 08時39分

通りすがりの地方の法医学関係者さん。
貴重な有意義なご意見を有難う御座いました。
現在の監察医務院制度は本当に戦後の進駐軍のためにあった遺物的存在であることは否めません。
現存する五大都市にしても、東京はともかくとして持て余し気味で有ることでしょう。ただこの度の動きとして、検視局なるものを組織化するということであれば、それが、法務省、厚労省あるいは警察庁のいずれかの所管となっても、今度は国費で組織運営をすることとなれば、経済的問題もかなり緩和されるのではないかと思います。
そうなれば関係法令の整備改善も当然行われるでしょうし、少しは良い方向へ向くのではないでしょうか。
東京は格別、地方の監察嘱託医を含め、検視検案に携わる者の技量の程は一考を要する問題だと思います。
余談ですが、今回の私の投稿に対して色々な方から貴重なご意見を頂きましたが、一番勘違いをされている事案の多くは、司解と行解の法的根拠を理解されていないと言う点でした。解剖と言うと即、死解保存法が適用になるものと思われている方が多かったと言うことです。
やはり、その辺の理解と法医学分野の充実と組織の強化・確立を図り、医師、警察官を含め、検視・検案担当者の能力、技量の向上を図っていく必要が有るのではないかと思いました。
本当にためになるご意見を有難う御座いました。また、色々とご指導下さい。

投稿: イソップ | 2007年7月 3日 (火) 14時44分

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