2009年7月 5日 (日)

法医学リーズン《82》

エ 頭部損傷
  頭部損傷といっても、軟部蓋損傷(頭皮損傷・・・皮下出血・表皮剥脱・挫創・
 裂創・割創など)・頭蓋骨折(陥没・亀裂)・脳膜損傷(硬膜外血腫・硬膜下血
 腫・蜘蛛膜下出血)・脳損傷(脳震盪・脳圧迫・脳挫傷)と様々なものがあり、
 この中には、これといった所見を呈しないものがあります。
  そこで、ここでは、次のような所見があれば、一応、頭部に損傷を負っている
 可能性が大であるというものを挙げるだけに止めておきます。
 ○ 眼瞼部の皮膚変色・・・眼瞼部がくまどりされたように青藍色を呈している
  場合は、頭蓋骨折の疑いがある。
 ○ 耳・鼻からの出血・・・外耳道及び鼻腔部から出血している場合は、頭蓋骨
  折の疑いがある。
 ○ 瞳孔の差異・・・左右の瞳孔の大きさに差異が認められるときは、脳幹部
  に損傷(出血・挫傷)を負っている可能性が極めて強い。
 ○ 嘔吐・・・頭蓋内に損傷を負った場合には、吐き気を催し、嘔吐することが
  多い。
 ○ 高い体温・・・頭蓋内を損傷した場合には、脳幹部の温熱中枢の調節が侵
  されて体温が異常に上昇することがあり、そのような場合は、普通の死体に
  比較して体温が高くなっている。
オ 出血の状況
  超高層ビルのような非常に高い所から墜落した死体の場合には、大きな創
 傷が生じているのに出血量が予想外に少ないことがあります。
  しかし、解剖してみると、内部組織には相当量の内出血が認められます。
カ 滑液の洩出
  肘・膝間接部に当る部分の着衣に、車両の油と見誤るようなものが付着して
 いることがあります(写真参照)。
  これは、間接内の滑液が洩出して着衣に浸み込んだもので、墜落死特有の
 所見です。
キ 着衣の破損
  墜落死・転落死の場合には、衝突時の衝撃により、着衣が裂けたり、ほころ
 びていることが多く、時には、ズボンのベルトが切れていることがあります。

Dscn086250
      ※滑液の洩出(スカートに浸み込んだもの)


 
  

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2009年7月 1日 (水)

法医学リーズン《81》

(2)  墜落死・転落死の外部所見
  墜落死にしろ転落死にしろ、高所から落下して死亡した場合には、落下地点
 の物体と衝突する際に人体に相当な衝撃が加わっていますから、これらの死体
 の大部分は、頭蓋骨・脊椎・足根部などが骨折していたり、内臓が破裂するなど
 の大きな損傷を伴っています。
  なお、墜落死では、下肢の方から飛び降りることが多いため、損傷部位も四肢
 部が中心となっているのに対し、転落死の場合は、頭部に多くの損傷が認めら
 れます。
  墜落死・転落死の場合には、その損傷に特徴的なものがしばしば見受けられ
 ますので、簡単に説明します。
 ア 辺縁性出血
   墜落死体および転落死体の上肢や下肢には、その内部にある長骨の形状
  を形どる辺縁に、鉄パイプで殴られたような場合にできる二重条痕様の皮下
  出血(長骨の部分が白くなり、その辺縁に皮下出血が見られる)が認められる
  ことがあります。これを、一般に辺縁性皮下出血と呼んでいます。
   この辺縁性皮下出血は、高所から落下した場合に、上肢や下肢が路面など
  の落下面に平行にたたき付けられたときにできるもので、高所から落下した
  ことを如実に示す外部所見といえます。
   もっとも、これは、上肢及び下肢の長骨が落下面と平行して衝突しなければ
  できないものですから、辺縁性皮下出血がないからといって、高所から落下し
  たものではないということはできませんので、注意が必要です。
  イ 落下面に符合する創傷
   高所から落下した場合、その落下面に符合した創傷、例えば、マンホールの
  上に落下したのであれば、その蓋の模様の皮下出血が認められることがあり
  ます。なお、落下地点が路上の場合、路上面にある砂などの跡を現すような小
  さな点状の表皮剥脱や皮下出血が認められることがありますが、これも、やは
  り高所からの落下を物語る所見であり、交通事故死と区別するのに役立ちます。
 ウ 伸展創
   伸展創は、鉄棒や金槌などの鈍器で殴られたような場合、皮膚が伸び切るた
  めに、当該鈍器が作用した部分以外の皮膚が裂けてできるもので、皮膚の表
  層が浅く裂け、いわゆるちりめん状を呈しています。
   この伸展創は、交通事故による死体に多く見受けられますが、墜落死・転落死
  の死体でも、時々見られることがあります。


  

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2009年6月29日 (月)

法医学リーズン《80》

~墜落死・転落死~

1 概 説
  最近、高層ビルなどからの飛び降り自殺が話題となっています。
  このほかにも、工事現場の足場から作業員が足を滑らせて墜落死するという
 ようなことがよくあります。これらのように、高所からの落下が原因で死亡したも
 のの大部分は、自殺又は過失による事故死です。
  しかし、時には、崖やビルなどの高所から人を突き落として殺害するとか、階
 段の上でけんかをした挙げ句、階段から突き落として死亡させるなどの事件が
 発生することがあります。
  ところで、これらは、高所から落下した際の衝突に伴う損傷が原因で死亡する
 ものがほとんどですから、死因別に見れば、先に説明した損傷死に当たります。
  しかし、凶器を用いた損傷死とは若干趣が異なりますので、ここでは、あえて
 損傷死とは区別して説明することにします。
 (1)   墜落死・転落死の定義
    高所から落下して死亡した場合、その落下の態様を基準として、通常、
   墜落死と転落死の二通りに区別されています。すなわち、ビルの屋上や工事
   現場の足場などから、飛び降りたり、又は、滑り落ちたような場合、その地点
   から落下地点までの間に他の箇所に衝突することなく一直線に落下して死亡
   したものを墜落死といいます。
    しかし、このように定義付けて見ても、現実に高所から転落した場合に、こ
   の両者を明確に区別することは困難な場合が多く、また、区別する実益も
   それほどありませんから、両者をあわせて説明します。

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2009年6月28日 (日)

法医学リーズン《79》

(6) 焼死体自他殺の判断基準
  焼死体についての自他殺の一般的な判断基準を示すと、次のようなものが
 挙げられます。

 ① 生体か死体か
  ○ 自殺(事故死を含む)
   ・ 生体で焼かれた場合には、一応、自殺又は事故死と考えられる。
     生体であったことを示すものとして、
    ※ 死体に生活反応が見られる。
    ※ 出火点と逆の方向に向かって倒れているとか、床面にうずくまってい
     るなど出火時に行動した跡が見受けられる。
    ※ 死体の下に焼燬物がある。
     などがある。
  ● 他 殺
   ・ 死体で焼かれた場合には、他の方法により殺害された後、焼かれたこと
     が考えられる死体であったことを示すものとして、
    ※ 生活反応が見られない
    ※ 床面と密着した部分が焼けていない。
    ※ 焼燬物が死体の下にない。
     などがある。

 ② 生前の創傷の有無
  ○ 自殺(事故死を含む)
   ・ 焼死体に切創・刺創等の創傷が認められないのが通常である。
     (ただし、落下物による損傷が考えられるので注意が必要)
  ● 他 殺
   ・ 焼死体に切創・刺創・割創などが認められるときは、他殺の可能性が強い。

 ③ 頭部・顔面・頸部の損傷の有無
  ○ 自殺(事故死を含む)
   ・ 頭部・顔面・頸部に損傷が認められないのが通常である。
     (ただし、落下物による損傷があることがある)
  ● 他 殺
   ・ 頭部・顔面に生前の損傷がある場合は、他殺の疑いが強い。
   ・ 頸部に絞痕などがある場合は、他殺の疑いが極めて強い。
     (扼痕がある場合は他殺と考えてよい)

 ④ 戸締りの状況
  ○ 自殺(事故死を含む)
   ・ 戸締りが完全に行われているときは、事故死の疑いが強い。
  ● 他 殺
   ・ 戸締りが完全でなく開放箇所がある場合は、他殺の疑いがある。

 ⑤ 現場の状況
  ○ 自殺(事故死を含む)
   ・ 物色その他現場の乱れがないのが通常である。
  ● 他 殺
   ・ 物色等現場の乱れがある場合は、窃盗後の放火等が考えられる。

 ⑥ 出火点の検討
  ○ 自殺(事故死を含む)
   ・ 被害者及びその家族が通常火気を使用している場所から出火してい
    る場合は、事故死と考えられる。
  ● 他 殺
   ・ 被害者及びその家族が通常火気を使用していない場所から出火して
    いる場合は、放火殺人の疑いが極めて強い。

 ⑦ 点火物及び燃料容器の有無
  ○ 自殺(事故死を含む)
   ・ 焼身自殺の場合には、点火に用いた容器及びガソリンなどの燃料容器
    が死体の近くに存在する。
  ● 他 殺
   ・ 残存衣類及び現場に油類が付着しているような場合で、点火物及び燃
    料容器が死体の近くに存在しない場合は、焼殺の疑いが強い。

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2009年6月23日 (火)

法医学リーズン《78》

(5) 自他殺の判断
   焼死体についての自他殺判断の第一歩は、それが生体であったときに
  焼かれたものであるか、それとも既に死体となっていたときに焼かれたも
  のであるかを見分けることにあるといわれています。つまり、生体で焼かれ
  たのであれば、逃げ遅れなどによる事故死又は自殺の可能性が強くなりま
  すし、死体が焼けたのであれば、何らかの方法によって殺害した後、その
  犯行を隠滅するなどの理由により焼死を装ったことが考えられるからです。
   しかし、これはあくまで可能性の問題であり、生体で焼かれた所見、すな
  わち、生活反応が見られたからといって、殺人事件でないとは言い切れま
  せん。
   なぜなら、
  ○ 被害者が就寝中を見計らい、あるいは、睡眠薬などを飲ませて眠らせ
   た後、家屋に火をつける。
  ○ 腹部や頭部を殴打するなどして失神させた上、家屋に放火する。
  というような方法で焼殺した場合にも、生活反応が見られるからです。
   このように、焼死体それ自体の所見だけで自他殺を判断することは極め
  て難しくなります。したがって、焼死体の所見のほかに出火原因、出火点と
  死体の位置関係、残存する衣類などの油類の付着状況、現場の乱れなど
  の現場の状況と、自殺の動機及び原因、怨恨の有無などの焼死者に関す
  る事項などを検討した上で、総合的に判断する必要があります。

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